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エピローグ2


 ──腹が立つ、腹が立つ、腹が立つ。

 本当にどうしてくれよう。

 苛立ちのあまり、頭を掻き毟る。

 だが、全くこの苛立ちは収まりそうにない。



 ──腹が立つ、腹が立つ、腹が立つ。

 本当に許せない。

 絶対に、絶対に許せない。



 暴れ回り、物が散乱する自分の部屋。

 先ほどまでは女中もいたはずなのだが、今は人間の気配を感じない。

 逃げたのかもしれない。

 ならば、新しい女中を貰わなくてはいけないだろう。

 みんな、みんな、コレぐらいで根をあげて本当に情けない。

 柴田結衣だって・・・・・・、


「っあー・・・・・・!」

 そこまで考えたところで更に腹が立ち、近くにあった物を壁に投げつける。

 大きな音は出ない。

 どうやら、軽い物だったらしい。

 破壊音が出ないことで、手応えのなさを感じ、よりフラストレーションが溜まっていく。


 人間にしてやられただけでも、最悪なのに、そもそも【あたし】を殺したのが、まだまだ【霊能力者】になったばかりの──いや【霊媒師】になったばかりの子供だったなんて、考えただけで気が狂いそうだ。

 しかも、異界に【秋本さやか】の死骸ごと閉じこめられていたところを、また別の人間に助けられたなんて、恥の上塗りもいいところである。



 全ての元凶である柴田結衣は絶対に許さない。

 ようやく成り代わり終わったから、さっさと始末してやろうと家に押し掛けたのに、柴田結衣がもう逃げた後だったというのも、余計にあたしの苛立ちを増加させる。

 こんなの、まるでアチラが一枚上手だったようじゃない。


 ──そして、もちろん、村の外からやってきた【霊能力者】たちだって、絶対に殺してやる。

 あたしを助けてやっただなんていい気になっているのだろうが、冗談じゃない。

 やはり、こちらも絶対に生かしておく訳にはいかない。



「さやか」



 部屋の外から【あたし】の名前が呼ばれた。

 普段なら、名前を呼ばれても、無視するところだ。

 機嫌が悪い今は、部屋のドアを勢いよく開け、ドアの前にいる相手を殴り飛ばしてやりたいくらい。


 だが、この声の主はダメだ。

 この声の主だけはダメなのである。


「・・・・・・はぁい、お父様」

 あたしは素直にそう返答し、思いっきり音を立てながら立ち上がる。

 面倒臭いがドアも開けてやるべきだろう。

 そう思って、ドアへと足を進めていく。



 秋本さやかの父親。

 いや、あたしの父親は、機嫌を損ねると面倒なことになる。

 秋本さやかを「我が儘で救いようのない奴」だと影で囁く人間たちがいるが、それでも秋本さやかの父親よりは余程マシな性格をしているだろう。

 むしろ、こんな男と比べるとあたしはずいぶんと心優しい。

 それほどまでに、コイツは救いようがない邪悪な存在なのだ。

 コイツの身体を乗っ取ることも、何度か考えたことがあるが、あの油断のならなさは怪異相手にも発揮される。

 乗っ取ろうとして失敗したら、目も当てられない事態になってしまうことだろう。




 正直、あたしが【秋本さやか】に成り代わっていることも、コイツは分かっているのではないかと思うことがある。

 分かっていて、放置しているといわれても驚かない。

 なぜなら【自分の娘】のが中身が【自分の娘】のままでいるよりも、中身が【あたし】という小賢しい【怪異】に成っている方がコイツにとって都合がよく、利益になるからだ。


 だからこそ、新しい【秋本さやか】を用意したのも【あたし】を呼び戻すためのコイツの作戦なのではないかとすら思っているくらいだ。

 本当に悍ましい男だ。

 あたしは【怪異】だが、コイツこそは【化け物】何じゃないかと思う。



 あたしの部屋にそんな【化け物】がドアを開けて、入ってきた。

 いつも通り傍若無人に、いつも通り堂々と──そう、いつも通りである。


「?」

 違和感。

 そういえば、秋本さやかの父親は、いや、あたしの父親は部屋に入る時に、わざわざ声をかけてくるような男だっただろうか。

 傍若無人なこの男は、それが一体誰の部屋だとしても、勝手に入り込んでいた気がしていた。

 父親は額から、顎先から零れる汗を拭いながら、こちらへと近付いてくる。


 ・・・・・・いや、と頭を振り、その違和感を振り払う。

 こちらがドアを開ける前に入ってくるあたり、やはり根本は変わらない。

 コイツはいつも通り、ただの自分勝手で傲慢な化け物だ。

 あたしは近付いてくる父親に【秋本さやか】らしく縋り付き、強請り始める。



「お父様! あたし、柴田結衣も、村の外からきた霊能力者も、殺さなくちゃいけないの。あたしに恥をかかせた奴らは一人残らず、絶対に絶対に殺さなくちゃいけないのよ、お父様」

 この傲慢な父親にだけは、愛想良くしなければいけない。

 そうは思うのだが、苛立ちが抑えられず、声が大きくなっていく。

「だから、はやくアイツ等の居場所を探してよ! 早く、殺して! アイツ等は生きてちゃいけないんだから!!」



 何もかもが気にくわない。

 殺してやりたい。



 特に、柴田結衣。

 アイツ、ただの人間のガキのくせして、このあたしに反抗しやがって。

 絶対に、絶対に許さない。

 必ず、あたしに逆らったことを後悔させてやる。

 前にあたしが殺したガキの霊魂まで、態とらしく引っ張って見せびらかしてきやがって──そのうえ、まるで仇討ちでもさせるかのように、あの雑魚霊魂にあたしを殺させやがった。

 正義の味方にでもなったつもりなのかよ。

 本当に生意気すぎる。

 自分のことを正義の味方だと思いこんでいるガキほど、ムカつくものはない。



「・・・・・・あぁ、あと、佐々木隆也。アイツも死んじゃったんでしょ? 早く、次の新しい駒が欲しいの」


 そう、もう、ずいぶんと駒も減ってしまった。

 秋本さやかの母親も壊れたし、扱いやすかったあのお人好しの警察官も、もういないらしい。

 だから、手駒を増やして・・・・・・そこで思考が停止した。





 目の前の父親の顔が歪んでいく。



ここで一先ず一区切りです。

お付き合い頂きありがとうございました。

というより、ここまでお付き合いしてくださる方はちょっと凄すぎる……本当にありがとうございます。


昨年は非公開分など諸々含めて百万字以上書くのを目標とし、達成はしたのですが、十万字(文庫本文字数)は今作含め五作しか書けませんでした。

やっぱり、文庫本をバシバシ出される作家さんはパネェなとは思うのですが、一作で百万字を超えている神作さんはさすがに次元の歪みとかできてませんか?

凄すぎて、逆に何も分からず、怯えることしかできないです。

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