四十五話 ひきづり村と空亡
──空亡。
それは干支において天が味方しないとされる時の事である。
算命学では天中殺。
そして、中国、陰陽五行説を元にして作られた四柱推命においては、亡空または空亡と呼ばれるもの。
または、そらなき、くうほうと呼ばれる怪異。
数多の百鬼夜行絵巻の最後は太陽で締めくくられる。
それは、百鬼夜行の終わりを告げる太陽だ。
その太陽こそが百鬼夜行を【終わらせる】怪異ではないか、という側面で語られた存在。
怪異の歴史でいえば、極々最近に現れた新しい怪異である。
語るべき歴史など、あってないようなものだ。
だが、そう、ここで、大事なのは空亡が【終わりを告げる怪異】であるということだ。
怪異、空亡──尾張わをんは終わりを告げる。
そういう、存在なのである。
たとえば、それが世界が終演に逝く最中だとしても。
たとえば、それが異界に隔離された最中だとしても。
必ず、終わりは告げられる。
ましてや、それが怪異にも何者にも成れていない、微弱な霊魂達の寄せ集めであるならば──それを、尾張わをんが終わらせられない道理はない。
尾張わをんこそ、
百鬼夜行の終演。
全ての終わりで、
ここが最果てだ。
遙か上空、浮かんでいた大きな眼球がぱっくりと上下に割れる。
そこから光が漏れ、ついには、眼球が霧散していく。
──その終演は日の出と共にやってきた。
「・・・・・・はい、これにて、終演。私が君たちの終わりだ」
柏手を打ち、尾張わをんが【鬼】に告げる。
それが、合図であるかのように、小枝が折れたような小さな音を立てて全てが消えた。
犬神あぎとの口腔を塞ぎ、ついには胃まで伸びようとしていた腕すらも跡形もなく消えていく。
そこら中から、先程と同じく小枝が折れるような音が聞こえてきた。
先ほどの現象を再現するように、後を追っていくように、他の左足が、腕が消えていく。
それぞれというものがない、一つの物。
ならば、一つ消せば、全てが消えていくのは、やはり道理である。
そして、相手は所詮、まだ成ったばかりの霊能力者と名前もない霊魂の集合体。
正体が分からなければ、対処を間違うこともあるだろう。
だが、正体が分かり、なおかつその【鬼】自体が異界を作るほどに【形を定めている】のだ。
そういう風に【形を定めている】ならば【存在しているもの】となる。
ならば、終わる。
全ては、終わらせられる。
いや、終わらせられない道理がない。
尾張わをんは──空亡は──終演の日の出そのものでもある。
ならば、日の出さえでれば、全てを終わらせることができる。
【そういう存在】なのだ。
腕が消えていく。
そして、視界は段々と開かれていった。
「あぎとくん」
いつの間にか傍に来ていた尾張わをんが犬神あぎとに【ソレ】を手渡した。
犬神あぎとが【ソレ】を受け取り、布を解く。
錆びきった包丁──秋本さやかが佐伯桃花の左足を切り取った凶器、そして、柴田結衣が媒体にした鍵にして、核。
犬神あぎとは何の躊躇もなく、それを振り上げ、未だに自分の身体に絡み付いていた腕に振り落とした。
──そして、物語は終わる。




