四十四話 ひきづり村と終演
<side:犬神あぎと>
「コイツらは【個】じゃない!! 一つだ!! 一つ!! 何か一つでも【廃神社の包丁】で刺せば【僕たち】にも終わらせられる類の物だ!!」
腕の濁流に飲み込まれながら、犬神あぎとが吼えた。
しかし、その言葉が最後まで、二人の耳に届いたかどうかは分からない。
「──!!」
「──」
どこかで人間の叫び声が聞こえた気がするが、それが誰の声かはもう分からない。
腕の濁流には犬神あぎとの身体を蛇のように飲み込み、全ての音を遮ったからだ。
無数の腕に殴られているような撫でられているような、暴力的でおぞましい感覚が全身を襲う。
頭を庇っていたはずが、四方からの腕に圧されるせいで、庇えているのかいないのか分からなくなってきた。
いや、それどころか、全身が腕に押しつぶされているせいで、呼吸すらもできなくなっていく。
わずかでもある酸素を吸おうと開けた口から腕が侵入し、口腔を、首を内部からも圧迫し始める。
暑い。
足りない酸素に、内側からも外側からも締め上げられる感覚。
自分の腕を伸ばしたはずだが、視界は怪異の腕に覆われて、伸ばしたはずの自分の腕が今どこにあるのか分からなくなる。
全ての感覚が遠のき、遮断されていく
外の声が届かない。
酸素が頭に巡らない。
蒸し暑い。
押しつぶされる。
段々と苦痛に感じていたはずの五感が遠のき、何も感じなくなっていくのが酷く恐ろしい。
「あぁ、くそ・・・・・・今回は、今回こそは僕が・・・・・・」
そう口にしたかったが、さらに侵入した腕のせいで言葉にはならない。
腕がさらに口腔に侵入し、顎が、口が、裂けそうになる。
酷い絶望が胸を襲う。
どうしようもない無力感。
視界が段々と白くなっていく。
その視界の先に、どこか見覚えのある少女が映る。
そして、日の出がやってきた──




