四十三話 ひきづり村と個の意識
「うわ、キッショ!!!!!」
最後の視界まで共有してしまった私はお腹から声を出した。
「いや、キッショ!!!!!」
だが、共有した視界だけがキショいわけではない。
そう、私は私で実にキショい目に会わされている。
食品工場跡でこちらを振り返った佐伯桃花の死体達。
まぁ、怖いけど、吊されているしな・・・・・・と思ったのだが、それは甘かった。
その内の一体が落ちたと思った瞬間に、次々と佐伯桃花の死体達が地面に落下。
そして、それが、私の背後から押し寄せてきている──というわけである。
逃げている最中に、あぎとくんの方でも鍵になるものを見つけることができたのか、異界同士の交わりが濃くなり、干渉できるようになった。
だからこそ、伝言を伝えることができたのだが──
振り返ると、そこには右足のない少女の大群。
それが片足で飛びながら追いかけてくる──まさに悪夢のような光景。
しかも、その少女達は一人残らず同じ顔というおまけ付き。
「さすがにキッショいて!!!」
コーナーで差を付けて撒きたいが、少女達は片足跳び移動だというのになかなか距離が開かない。
もしかすると、私の走行速度が遅すぎるのかもしれない。
異界から帰ったら、ランニングとかした方がいいだろうか。
再び、眼前に現れたコーナーを曲がりながら、後方に視線をやる。
当然のように、死体達の顔には全く疲労の色は見えない。
もしかすると、死体だから疲労などないのかもしれない。
だが、いくら死体といえども、片足跳びなのだ、誰かは脱落したり、転けても良いと思うのだが、そんな様子は微塵もない。
しかも、全ての佐伯桃花の脚が寸分違わずに地を蹴るので、彼女が飛ぶ度に辺りには轟音が響いている。
その音は巨大な一体の獣の足音のようだ。
なんて、心臓に悪い行進なのだろう。
しかも、行進しているのは片足の死体の大群なので、余計に心臓に悪い。
心臓の弱い方はご遠慮ください、なんていうものの筆頭にくるべき光景だ。
「年寄りの心臓止まるでしょ、これ!! あー、やだー!!!」
再び、コーナーを曲がる。
佐伯桃花の大群の最後尾が見えた。
「はい!! 一周!! まわりすぎた!!」
最悪だ。
とにかく角を曲がりすぎて、ついに一周まわってしまったらしい。
佐伯桃花を撒きたい一心で何度も角を曲がったら、この有様である。
「私の馬鹿!!」
その大声に反応し、最後尾にいた佐伯桃花が此方を振り返った。
佐伯桃花のどろりと濁った瞳と、しっかりと目が合う。
そして、それに続いて次々と佐伯桃花達が此方に振り返ってゆく。
「無理無理無理無理!!!」
跳ねるように方向を変えるも、その先にはやはり佐伯桃花がいた。
避けようとして方向を変えるが、それもまた失敗する。
というか、四方八方を佐伯桃花に囲まれている。
「ちょっ!! 無理ぃ!!!」
自分の身体にブレーキをかけようとして失敗した。
止まることに失敗した身体は、そのまま勢い余って、バランスを崩す。
「あ”!?」
そして、バランスを崩したせいで、そのまま佐伯桃花にタックルをしてしまった。
そう、そのままタックルしてしまった。
霊魂といえど、その姿形は幼い子供のソレに。
思ったよりも、ずっと小さくて軽い身体が地面に倒れた。
「うわ! ごめん!!」
反射で謝ってしまった。
なにせ、姿形は子供だ。
罪悪感も生まれる。
だが、声をかけている間に、再び佐伯桃花倒れた。
そう、再び佐伯桃花倒れたのだ。
倒れた佐伯桃花ではない、彼女が──次々と。
そして、全ての佐伯桃花が地面に倒れていく。
食品工場。
そこで、靴を落とした時のことを思い出す。
そう、一つの脚から靴が落ちた瞬間、全ての脚から靴が落ちた。
今と同じように。
──つまり、そう、コレは【個】ではないのだ。
否、これは【個】をまだ認識できていない。
まだまだ、未熟すぎて【個】へ切り離しが失敗している。
もしかすると、切り離すという考え自体がないのかもしれない。
だとすれば、一つ。
そう、一つで良い。
一つを倒せば、全部倒れる。
「・・・・・・いや、もう、日の出が来る!」
私は追い立てられたネズミのように走り出す。
「さっさと廃神社に行って包丁を回収して、向こうに──」




