四十二話 ひきづり村と繋がり
<side:犬神あぎと>
「鍵は包丁だ。あの神社にあった【君が私を刺そうとした錆びた包丁】」
犬神あぎとの口が動く。
彼の意志とは関係なく。
動いているのは、否、動かしているのは、そう、尾張わをんなのだと彼は直感した。
「は? 急にどうした、お前」
「何ですって? あぎとさん? あぎとさん今なんて言ったんですか?」
戸惑う大人たちを放置し、犬神あぎとは思考する。
繋がっている。
否、繋がっていたのだ、元々。
異界に放り込まれようとも消しようのない、強い強い繋がり。
そう、どうあろうとも犬神あぎとと尾張わをんの繋がりは消えない。
だからこそ、どれだけ阻まれようとも、異界の鍵さえ手に入れられれば、そのか細く柔くされてしまった繋がりだって手繰り寄せることができる。
尾張わをんはそうやって、確かに犬神あぎとにソレを伝えてきたのだ。
こういう風に干渉をできるということは、彼女は現世ではなく、異界にいるのだろう。
現世と異界で離されていたのでは、いくら繋がりがあったとしても、こういう干渉の仕方はできない。
そして、同じ異界にいたならば、尾張わをんは必ず犬神あぎとの傍にいるはずだ。
こんな干渉などする前に、全力で探してくれている。
つまり、自分たちがいるのとはまた違う異界があり、そこに尾張わをんがいるのだという確信を犬神あぎとは得た。
そう、同じ【鬼】が作った異界同士だからこそ、尾張わをんも異界同士をむりやりに繋ぎ合わせ、干渉できたのだろう。
もう日の出が近い。
だからこそ、無理ができたというのもあるのだろう──だが、その無理を他でもない自分の為にしてくれたのだ。
そう思うと犬神あぎとの口は自然と歪む。
──いや、今は包丁について考えなくてはいけない。
そう、包丁だ。
あの廃神社にあった包丁。
あの【秋本さやか】は本物だった。
正真正銘、本物の彼女の幽霊だったのだ。
そして、いや、だからこそ、あの包丁を渡してきたのだ。
あの錆びた包丁を。
あれが、あれこそが【佐伯桃花】の左足を切り落とした包丁なのだろう。
そして、柴田結衣が【佐伯桃花】の霊魂を与えるために使用した鍵であり、核。
その包丁を隠したのは【佐伯桃花】の左足を切り取った証拠を隠したかった【秋本さやか】なのか、末の娘の為に動いた秋本家の人間なのか、【佐伯桃花】の霊魂に力を与えるために使用した証拠を隠滅したかった柴田結衣なのか、自分たちの弱点を隠したかった【佐伯桃花】なのか、ソレは不明である。
だが、それでも、その隠蔽は行われた。
その誰かは、包丁をあの廃神社に隠したのである。
左足たちの大事な核であり、弱点であるそれを──【鬼】にとっては大変に都合のいいことに、誰も来ないはずの忘れられた廃神社の中に。
犬神あぎとの思考は回る。
否、これは尾張わをんの思考なのかもしれない。
今二人は繋がっているのだから、どちらも同じ様なものではあるが──それは回り回って、犬神あぎとに、もしくは尾張わをんに、解を導き出す。
そもそも、なぜ誘拐された【犬神あぎと】は真っ先に廃神社に放置されたのか。
それは、そうしなければいけなかったからなのだ。
高倉護が腐っても政府の怪異事象部門の者であるならば、無意識下か有意識下かは知らないが、分かっていたのだろう。
廃神社には解決に繋がる何かがある、と。
だから、事態を解決させる為に動かしたい【犬神あぎと】と【尾張わをん】を真っ先に廃神社へと導いた。
そうしなければならない、と本能で感じたのだろう。
あまりにも強制的なやりかたであったが。
そうだ。
そうに違いない。
そして、あの【左足】の始まりである【包丁】は、間違いなくこの化け物を終わらせるための鍵だ。
犬神あぎとは確信した。
そして、その確信を肯定するかのように、白い腕の濁流が柴田結衣の家を襲う。




