四十話 ひきづり村と柴田結衣
<side:犬神あぎと>
「柴田結衣ちゃんは東京で【能力を暴走させて、人間を殺した要観察霊能力者】なんです」
高倉護が漸くその重い口を開いた。
そして、懺悔するように続けていく。
「父親が亡くなったことによるストレス、その精神不安定からくる、暴走と判断されました。そして、母親の親戚が住むひきづり村に越してきた、というわけです」
「はぁん」
加山和雄が鼻息か感嘆か、判断を付かない音を出した。
「それで、テメェが【東京からの監視役】として付いてきたわけだな。余所者野郎。完全に監督不届きって奴じゃねぇか」
そして、高倉護を心底馬鹿にしたように見下ろす。
「監視対象にここまでしてやられやがって」
監視役。
犬神あぎとはその言葉に反応した。
監視役。
犬神あぎとにも、かつて付けられたことがある。
怪異事象部門からやってきた自称天狗。
鼻は長くはなかったし、怪異の気配はしなかった。
だから、自称天狗なのだと、今でも犬神あぎとは思っている。
監視だと宣いながら、ほぼほぼ犬神あぎとについてはいなかったあの監視役。
かと思えば昼飯時にはやってきて、わをんちゃんお手製弁当の梅干しだけをカッ攫っていったものだ。
要注意人物や霊能力が安定しない人間、暴走の危険性が高い人間につくのがその監視役である。
そして、犬神あぎとは長い時間とボランティアによって、監視対象からは外れた人間である。
そう、監視対象からは外れている。
だが、未だに【保護対象】には戻れていない。
そのために、上からの、犬神本家からの依頼に応え、自身の実用性を示して綱渡りしているのが現状だ。
名目上、その犬神本家の──いや、全ての憑き物筋の管理を行っているのが日本政府である。
高倉護が監視役という事は、つまりだ。
あの誘拐も犬神家公認か政府公認の可能性が高い。
もしかすると、保護対象に戻るための試験の一つなのだろうか。
だからこそ、無理矢理にでも、犬神あぎとに解決させるために呪いまで用意したのだろうか、と脳に思考を巡らせる。
いや、どう考えても、犬神憑き相手に、呪いまで用意するのはやりすぎだろう。
憑き物筋といえども、犬神あぎとも人間である。
こいつ、本当に監視役なのかという疑いを犬神あぎとが抱き始めた。
「・・・・・・確かに土地は良いとは言えませんでしたが、人口が少ない分、霊も少ない。霊能力の封印もしてあったんです。何の問題もなく押さえ込めるはずだった。はずだったのに、この有様ですとも」
高倉護が説明なのか、弁解なのか分からない言葉を続ける。
「ですが・・・・・・まさか、この土地の性質のせいで、質の悪い霊魂の残滓がまだ残っていて、しかも柴田結衣をピンポイントで見つけ出し、その霊魂に共鳴までして、手を組んでしまうとは思わないじゃないですか!
誰が、予想できるんです、こんなこと!」
もう、言葉の後半は半ばキレ気味である。
犬神あぎとが呆れた表情を作った。
「はぁ? おいおい、一体何のために、俺たちが普段から怪異税なんてものを取られていると思ってんだ。こういう時に、テメェらが怪異を何とかするためだろうが!!」
「職務中に飲酒している人間がよく言いますよ!!」
「あんだと!!」
「やるって言うんですか!?」
加山和雄と高倉護が掴み合いそうなほどに近づき、睨み合う。
犬神あぎとにも、ぶつけたい不満は多々あった。
何時間でも詰りたい気分である。
しかし、時間とは有限であり、犬神あぎとは尾張わをんに一秒でも早く会いたい。
もう一秒でも、尾張わをんに再会するため以外の、余計な行動をするのは耐えられない。
「つまり、柴田結衣ちゃんは──」
犬神あぎとの口が動く。
彼の意志とは関係なく。




