三十九話 ひきづり村と吊されたもの
<side:犬神あぎと>
柴田結衣の家が爆発した。
否、違う。
爆発にしか見えなかっただろうが、爆発ではない。
犬神あぎとが柴田結衣の家を腕ごと蹴り飛ばしたのだ。
ただ加山和雄と高倉護が言い合いをしている間に、屋根を蹴り飛ばして繭の家へ向かい、繭の家を滅茶苦茶に蹴り飛ばして破壊し、二人の隣へと戻ってきただけである。
犬神あぎとは最初から高倉護を納得させようとは思っていない。
ただ、宣言し、宣言の通りに行動しただけである。
破片や煙で覆われ、まだ視認はできないが、周りの白い腕達は蜘蛛の子を散らすように家から離れていっているようだ。
「よし、腕が戻る前に探索するぞ。まずは柴田結衣の部屋だ」
だが、柴田結衣の部屋を探す必要はなかった。
探すまでもなく、一目瞭然だったのである。
視界が晴れた瞬間。
左足のない子供の死体を見つけた。
否、その言葉は正しくないだろう。
コレが国語や現代文の授業であれば、酷い減点をされていたところである。
正しく言うのであれば、三人が見つけたのは【左足のない子供たちの死体】だ。
柴田結衣の部屋。
犬神あぎとに壊れた家の中で、その部屋だけは無事だったようだ。
否、壁は壊されて、外から、三人から視認できる。
だが、無事だった。
その中身は全くの無傷である。
瓦礫も埃さえも、その部屋だけを避けたかのように無傷。
そして、そこに居たのは、否、あったのは──左足のない子供達の死体だった。
そう、左足のない子供たちの死体がこの異界には吊り下げられていたのだ。
「・・・・・・秋本さやかちゃんと佐々木隆也くんです」
高倉護が自分の目に映る物を改めて確認するように呟く。
他の二人にも同じ物が映っていることを確かめる為なのか、自身の頭の中を整理する為なのかは分からない。
いや、もしかすると、二人の顔を知らないだろう、犬神あぎとへの説明の為なのかもしれなかった。
その理由を、彼自身がしっかりと説明できるかどうかは不明だ。
もしかすれば、混乱しすぎて、無意識で出た言葉なのかもしれない。
だが、それでも、彼は目の前の状況をしっかりと視認し、短く言葉にまとめてみせた。
「死んでいる・・・・・・」
死んでいる。
そう、二人は明らかに死んでいる。
距離はあるのだが、それでも、その顔だけは、なぜかしっかりと確認できた。
そして、吊されて足先が地面を着いていないことも、微動だにしていないこともしっかりと確認ができる。
脈を取って確認するまでもなく、秋本さやかと佐々木隆也は死んでいた。
狩人が獲物の剥製を家に飾るように、秋本さやかと佐々木隆也の死体は異界の柴田結衣の部屋に飾られている。
そして、人間の目では視認できないが、犬神あぎとの瞳は天井から四本の縄が吊り下がっているのを見た。
首を括るために作られた、四本の縄。
二本はもはや埋まり、あと二本を残している。
「あと二本縄が残っている。つまり、順当に行けば次に並ぶのはテメェの子供なわけだな」
犬神あぎとは加山和雄を向いて言葉を投げたが、彼は何の反応もしない。
縄が見えていないのから、そう考えていないだけかもしれないし、ただ犬神あぎとを無視しているだけかもしれなかった。
加山和雄は一切の反応を示さず、ただ静かにその鋭い双眸を柴田結衣の部屋に向けている。
「探すのは日記とか【おまじない】に使ってそうな怪しいものだ。腕が戻ってくる前に済ませるぞ」
それを無視して、犬神あぎとは二人に指示を出していく。
「僕に協力するつもりがあるなら、向こうに飛ぶから掴まってろ」
間を置かず、犬神あぎとの身体は両側から強く掴まれる。
両下肢に再び力が込められた。




