三十八話 ひきづり村と柴田家
<side:犬神あぎと>
「家を蹴り飛ばす」
「・・・・・・なんて?」
犬神あぎとの堂々たる宣言を高倉護が聞き返した。
「家を蹴り飛ばす」
「・・・・・・なんて?」
犬神あぎとが再び宣言し高倉護が再び聞き返した。
場面リピートが繰り返されている。
ちなみに、このやりとりはこれで五回目だ。
「よし、やれ」
ついに、加山和雄が、犬神あぎとをけしかけ始めた。
「もう、全部ブッ壊しちまえ」
「何言ってんだ、アンタ!!」
高倉護がそんな加山和雄に噛みつく。
興奮で目を血走らせ、唾を飛ばす様は尋常ではない。
そんな状態の高倉護が、犬神あぎとを掴んでいた両手を放し、加山和雄の肩を掴んだ。
そして、その巨体を前後に揺らそうとして失敗する。
加山和雄の体幹が良すぎて、全く揺さぶることができないのだ。
まさに山の如き不動である。
「ひ、人の家なんですよ!!」
「あぁ? どうせ、ここはイカの世界なんだろ? なら、別に壊そうがどうしようが、別にどうでもいいじゃねぇか」
「異界!!」
「だぁかぁら! つまり、ここにあるのは偽物じゃねぇか! なら、いいだろ、別に」
加山和雄の手が犬神あぎとから放され、煩わしそうな様子で迫る高倉護の顔を押し返す。
どうやら、顔が近くて不快だったらしい。
そのまま、退かせようと押し続けるも、高倉護は頭を振って口を解放すると更に大きな声で続けた。
「異界って奴はかなり繊細なんですよ!! アンタには何も分からないから、そんなことが言えるんです!! つまり、つまりです! ここでこの家をブッ壊したら、この異界に何が起こるか分からない! そして、繋がりようによっては、現実世界の方もこの異界に引っ張られて、何かの影響が出る可能性があるんです!!
いいですか、こういう異界はですね、現実とはオブラート一枚挟んでいるが、逆に言えばオブラート一枚しか挟んでな──」
高倉護の言葉は破壊音で遮られた。
柴田結衣の家が爆発したのだ。
「は」
高倉護の口が開く。
「は」
高倉護の口が外れそうになるほどに開く。
「はぁああぁぁあああああああ」
加山和雄が押していたせいで、漫画か何かのように眼鏡もずり落ちる。




