三十七話 ひきづり村と子供たちの死体
左足のない子供の死体を見つけた。
否、その言葉は正しくないだろう。
コレが国語や現代文の授業であれば、酷い減点をされていたところである。
正しく言うのであれば、私が見つけたのは【左足のない子供たちの死体】だ。
食品工場跡の天井。
あちらはここに校長の死体が吊してあった。
そして、ソレを囲む小動物や昆虫の死体が並んでいた。
この食品工場の天井を飾る、オーナメントに並んでいた死体たち。
ここではその代わりと言ったように、左足のない子供の死体が吊されている。
いや、代わりというわけではない。
なぜなら、天井を埋め尽くすように、左足のない子供たちの死体が吊り下げられていたからだ。
代わりなどではない、それ以上の熱量と密度である。
ふと、映画で見た海外の豚肉を吊り下げ、冷凍保存していた場面を思い出す。
不謹慎だが、一定の隙間を空け、子供の死体が並べて吊されているのはそういう肉の保存法方に見えた。
何か人間にはどうしようもない存在が、人間の子供の肉を食べるために、保存してある施設。
それが元人間が作った食品工場に保存されているというのは、なかなかの皮肉に思える。
何体か確認をしてみたが、並んでいるのは全て同じ少女の死体に見えた。
もしも、間違い探しであれば、私は失敗しているだろう。
ゲームオーバーというやつだ。
少女の顔は憎しみに歪んでも、苦しみに歪んでもいない。
ただただ、空虚。
まるで、かつてのあぎとくんの様だ。
見覚えはない。
ひきづり村に子供の知り合いがいないので当然である。
高倉さんに子供たちの写真でも見せて貰うべきだった。
だが、そう。
異界といえどもここは食品工場跡地だ。
そこに吊された左足のない少女の死体。
だとすれば、この少女が──いやこの死体こそが、ここで亡くなったという佐伯桃花なのかもしれない。
とりあえず、校長が吊されていた場所を目指して少女たちの死体の海を進む。
時々、だらりと下ろされた少女の爪先が私の肩を、頭を掠めていく。
何度目かの少女の爪先との接触。
その後、軽い音が背後で鳴った。
振り返る。
──靴だ。
瞳の大きなかわいらしいドレスを身に纏ったキャラクター。
それがプリントされた靴が一足落ちていた。
どうやら、私が少女の足に接触したせいで、落ちてしまったらしい。
しゃがんでその小さな靴を拾い上げる。
その靴の小ささに改めて心が痛んだ。
とにかく、靴を落としてしまった脚に返そう。
そう決意し、靴のない脚を探そうと顔を上げ──
拍手のような音が連続して響く。
顔を上げた私の視界。
そこには、見渡す限り靴が地面に落ちている。
無論、私が手に持っているものと同じものだ。
落ちているその全てが、全く同じ靴。
視線を動かすと、目に入る吊られた少女の右足は全て靴下だけに見える。
靴は薄桃色、靴下は鮮やかなオレンジなのだから、間違いない。
一つの脚から靴が落ちたら、連動して他の脚からも靴が落ちた・・・・・・そういうことなのだろうか?
ならば、この靴を脚に戻したら、他の靴もそれぞれの脚へと戻るのだろうか?
それとも、他の靴も私が手動で戻さなければ【間違い】にでも、数えられてしまうのだろうか?
数瞬迷う。
だが、それは数瞬だ。
私は地面にそっと靴を返した。
そして再び、校長が吊されていた場所を目指して進む。
頭上に気を付け、そして、足下の靴も踏まないように気を付けて進んでいく。
靴の海を泳ぎ、頭上の右足の雨を避け、そして、そこへと辿り着く。
校長がぶら下がっていた場所。
彼女は寸分違わず、佐伯桃花の様に死んでいたのだという。
ならばここなのだろう。
こここそが、佐伯桃花が死んでいた場所。
佐伯桃花が左足を切り取られ、吊り下げられていた場所。
佐伯桃花が【自殺体】で発見された場所。
そこだけはゲームのバグのように何もない。
そう、何も吊されてはいなかったのである。
「つまり【本体】はここにはない、って事か」
そう呟いた瞬間、異変は起こった。
視界に映る全ての少女の死体の眼球が動く。
否、視界に映っていない全ての少女の死体の眼球もそうなのだろう。
佐伯桃花の死体達が私を見ている。
どこか遠くで、烏が濁った声で叫ぶ声がした気がした。




