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二十八話 ひきづり村と手




 三階から、腕の群が私たちへ迫っている。


「無理無理!! キショいて!!」

「なんじゃ、ありゃあ!!」

「あー!! 部屋がぁあ!!」

「わをんちゃん、しっかり手を繋いでいてね。あ、恋人繋ぎする? その方が事故で手が外れたりしないし、いいかも」

「言ってる場合じゃないんですよねぇ!!!」

 三階から落下したにしては、全員元気に叫んでいる。

 いや、元気というか、活きがいいというか、錯乱状態というか。

 もしかすると、恐怖や混乱で痛みを感じることができないのかもしれない。


 いや、今はそんなことを考えている場合ではない。

 現実を、キチンと見て、認識して、脳に処理させなくてはいけない。

 現実逃避をしてはいけない場面だ。


 そして、私は現実と向き合う。


 その瞬間、全身に鳥肌が立つのを感じた。

 腕の一本一本が、いや、指の一本一本がそれぞれの意志があるかのように伸びて蠢いている。

 獲物を探す動き。

 虫だ。

 完全に寄生虫の動きだ、あれ。


 だ、駄目だ。

 気持ち悪い。

 吐きそうだ。

 本当に無理。


 昔、蟷螂から出てきたあの寄生虫を思い出す。

 あれは・・・・・・、駄目だ。

 本当に気持ち悪い。


「走れ走れ走れ!!!」

「無理無理無理!!!」

 加山さんが転げるように道路へ飛び出していく。

 かなり足が速い、というか動きが素早い。

 あぎとくんがそれに続こうと私を引っ張る。

 だが、数歩引っ張られた後、私はその場で踏ん張った。


 走り出したのは私を含めて三人。

 そう、三人しかいないのだ。


「ちょ、高倉さん!! 高倉さん!!」


 そう、一人、高倉さんが足りない。

 あぎとくんに引っ張られる腕に逆らいながら、振り返る。

 彼はまだ先ほどの場所でうずくまっていた。


「高倉さん、まさか、怪我して立てないの!?」

 その姿に思わず責めるような勢いで問いかける。

「こ、腰がぬけて・・・・・・」

 高倉さんは四つん這いのまま、全く動かない。

 青い顔が此方を見ている。


「た、たてないといいますか・・・・・・」

「うっそでしょ!! マジで言ってる!?」

 ソレを聞いて、顔を引き攣らせる。

 マジかよ、本当に最悪だ。


 なんで、このタイミングで腰が抜けんだよ?

 いや、そうか、三階から落下したのだ。

 怪我の可能性もあるし、一度アレから逃れたことで安心してしまったのかもしれない。


 立ち尽くすあぎとくんの手を引っ張り、高倉さんの元へ駆ける。

 そして、あぎとくんに握られている手とは反対の腕で、高倉さんの腕を掴む。

 何とか持ち上げようとするが、高倉さんは一切立ち上がる素振りがない。


「立って立って!!」

「いや、ほんとに足に全然力が入らなくて・・・・・・」

「そういうの逃げ切ってからにしてくださいよ、マジで!! あ”~無理ぃ!!」


 叫び続ける私たちに、空中でのたうち回る寄生虫の様な青白い手が此方に伸ばされてきた。

 腕も指も伸びきって、もはや手と呼ぶこともはばかられるソレが、確かに自分の頭上まで迫っていた。

 伸びきってウネる指の先端が裂けていく、そしてその裂けた部分からお歯黒を塗りたくられた口が覗いて──



「いや、キッッッショ!!!」

 私は思わず腹から声を出した。

「いや、キッッッショ!!!」



 寄生虫に人間の口が生えたかのような物体。

 それが私の顔めがけて急降下してくる。

 ダメだ、思ったより、ビジュアルが生理的に無理だ。

 本当にキツい。

 吐きそうだ。



「頭下げろ!! わをんちゃん!!」



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