二十七話 ひきづり村と落下
「おいおいおいおいおい」
あぎとくんが嫌そうな声を上げながら、腰を落として構える。
私も地面につけていた両手を持ち上げて、後ずさった。
【鬼】
噂をすれば影どころではなく、名前を呼んだ瞬間に玄関を削ってのご登場だ。
どう考えても友好的な態度ではない。
いや、そもそも、コレは新田さんを殺しているのだから、それ以前の問題か。
眼球が削れたコンクリートの向こうで揺らめく。
そして、その姿は幻のようにして消えた。
一瞬の静寂。
だが、次の瞬間には、玄関があったはずの場所から濁流のように青白い手がなだれ込んできた。
ブチブチと何かが千切れるような、不快な音。
そんな音をどこからか立てながら、腕が此方に伸びてくる。
ぞわりと肌が粟立った。
「逃げろ!!!」
あぎとくんが私の手を取って、ベランダに続く窓ガラスを蹴り砕いた。
腕に捕まるまいと逃げたのか、恐怖で発狂して転げ落ちたのか分からないような勢いで、あぎとくんが三階から転げ落ちる。
しかし、その着地はいっそ見事なモノだった。
あぎとくんと一緒に落下した私は、気が付けば地面に立たされていた。
すぐ近くで凄まじい音が響く。
反射的にそちらに目をやる。
真っ先に視界に飛び込んできたのは、加山さんだ。
彼も近くに落下していたらしい。
そんな彼は睨むようにアパートを見上げている。
そして、その背後、高倉さんが無様に転げて四つん這いになっていた。
さっきの音は彼だろうか?
いや、今はそれどころではない。
私も加山さんに倣って視線をアパートへ向ける。
自分たちがどこから落下したのかは、一目瞭然だった。
明かりがついているから、ではない。
私たちがいた部屋のベランダから、青白い手が手押しの心太のように押し出されているからだ。
そして、その腕はパーティーを賑わわせるクラッカーの紙吹雪のように空中で踊り続けている。
暫くはその場で舞っていたソレだったが、獲物を見つけたケダモノのように空中で折れ曲がり、また伸び始める。
もちろん、私たちの方へ向かって。




