二十三話 ひきづり村と霊魂たち
「鬼だと?」
加山さんがいの一番に噛みついてきた。
とにかく私たちに敵対したいし、霊能力者の粗をつつかなければ、その気が済まないのだろう。
「鬼なら怪異だろうが!! テメェらの仕事だ!!」
こうしてみると唸る熊そのものだ。
頭部を狙ってきそうな凶悪さがある。
「いや、鬼は鬼でも、怪異の方の鬼ではない。そもそも、日本でいうところの【鬼】じゃあないんですよ、これは・・・・・・」
鬼。
鬼文化。
それは元は隠からきたといわれる、こともある。
いくつもの時代が過ぎた為に、その由来が沢山あるということだ。
その説の一つが中国からやってきた概念と交わった、というものである。
そもそも、中国の【鬼】とは【死んだ人間】のことなのだ。
日本で言うところの幽霊である。
中国では死んだ者は鬼になるのだ。
そしてその鬼は二つの性質、善い鬼と悪い鬼に分けられる。
善い鬼は神に近い性質となり、悪い鬼は人に徒なす性質となるのだ。
そう、そこには確かな区別があるのである。
区別はあるのだが、それでも中国の考えでは、全ての死人は鬼となるとされていた。
──そう【これ】はそういうものなのだ。
そもそもが、霊魂、いや中国の鬼に近い性質──だったはずのもの。
ただの死人、ただの幽霊、ただの鬼──だったはずのもの。
それは【日本】という国では、その大半が上手く形を取ることができず、いずれ自然に消えていくはずのものだった。
それが【核】という名の【起爆剤】を得てしまったのだろう。
いや【何者か】に与えられてしまったのだ。
その結果【鬼】が寄せ集まって、全く違う【何か別のモノ】になろうとしている。
──ただの【霊魂】だったはずのものが【怪異】になろうとしているのだ。
・・・・・・きっとここまで形を作るために、いくつかの【きっかけ】があったのだろう。
いや、あったというよりも、それが【きっかけ】を作ったというべきか。
そして、その【きっかけ】を補強し、更に追加しながら、それは【怪異】としての自分に名前が与えられるのを待っているのだ。
左足を持って帰る子供。
左足を残して失踪する子供。
かつて、左足を切り取られて【自殺】した子供。
子供というのは、霊魂や怪異からの影響を受けやすい。
それと同時に、霊魂や怪異への影響を与えやすい存在だ。
だから、子供を餌にして、材料にして、より力を得るのは賢い選択だろう。
その事件が、噂が、人々に囁かれ、畏れられ、より力を蓄えることとなったに違いない。
──子供たちも校長も、いや、もしかすれば村全体が「もしかしたら、あの子の祟りなのでは」と一人の姿を思い描いた。
同情か、恐怖か、悔恨か。
知ったことではないが、ソレはそこに漬け込んだ。
いや、ソレは最初からそうなるように、誘導さえしていたのかもしれない。
そうして、ソレは力を付けていき、ついに大人の校長にすら影響を出して、殺した。
──かつて、亡くなった少女の死をなぞるように。
・・・・・・いや、恐らく、その少女もソレの核を担う一つではあるのだろう。
だが、これは一つの【鬼】という存在ではなく、集合体だ。
殺した校長も取り込んで、更に力を増し、また一人大人を殺した。
ソレの一つが新田さんに恨みがあったのか、それともただ目に付いただけかは分からない。
だが、やはりまた【左足】に纏わる物語を紡ぐように、殺された。
左足。
左足。
成る程、怪異譚を作りやすそうな題材じゃないか。
わざとらしい程に。
「・・・・・・じゃあ、僕らが見た校長や、わをんちゃんが見た新田さんって」
「幽霊だよ、勿論」
あぎとくんの疑問に、私は答える。
幽霊かどうかなんて、そんなものは愚問である。
「死んだ人間が現れたなら、勿論それは偽物か幽霊に違いないでしょ」
「まぁ・・・・・・だろうね」
「今この村はその【鬼】の影響で「幽霊が出やすい」土地になっているんですよ。まぁ、元々いい土地じゃあなかったみたいですけどね。そこに【左足】のコレですよ。いや、【左足】を使う何か・・・・・・【鬼】の登場です。
そりゃあ、出やすくもなりますよね。
そして、ソレが更にその幽霊達を呼び込んで、取り込んで、人間に手を出している。食事をして、物語を作りだし、何者かになるための準備を重ねている。
きっともうすぐ産まれますよ、名前を得た化け物、が」
霊能力者が失敗するはずだ。
ここには【怪異】など存在しないのだから。




