二十話 ひきづり村と訪問者
*軽くグロめの死体描写あり*
「っぁあ”~」
風呂上がりに瓶に入ったフルーツ牛乳を頂く。
これが私の最近の習慣だ。
場所は高倉さんの自宅。
かつて、食品工場に勤務していた人たちが使用していたアパート、それを村が安く買い上げた物らしい。
家族向けにしてはそこまで大きくはないが、そこまで汚くもない。
そして、ここが一番大事なのだが、私達を取り調べた刑事たちの姿がない。
当然、私を追い回していたあの女性の姿も見えない。
正直、ひきづり村まで来てようやく落ち着くことができた気がする。
ぼんやりと三階、つまりはこのアパートの最上階の窓から、階下を見下ろす。
外には全く人通りがない。
そして、かなり暗い。
街灯が少ないせいだろうか。
いや、田舎の夜というのはこういうものなのかもしれない。
時計が指しているのは午後十一時半。
もはや、日を跨ごうとしている時間帯である。
さすがにこの暗さと時刻であれば、家の窓から私達を観察する人間も居ないだろう。
あぎとくんはお風呂に入っているし、高倉さんは村役場で残業だ。
漸く訪れた、誰も気にしなくていい穏やかな時間である。
何となく、テレビをつけてみる。
どうやら、チャンネルが三つしかないようだ。
しかも、ニュースだけで、バラエティーはない。
特になにも考えずチャンネルを回し続け、明日の天気を読み上げる女性キャスターのところで指を止める。
明日、木曜日から一週間の天気が映し出されていた。
そういえば、今日は水曜日だったのか。
だとすれば、観たいドラマはもう終わっているだろう。
リアルタイムで観たかったのに、見逃してしまった。
「まぁ、この村では映るかどうかわからないか・・・・・・」
ぼんやりと、更に何周かチャンネルを変えていく。
やはり、代わり映えしない。
諦めて、テレビを消す。
部屋は二部屋。
両方とも和室だ。
かつてはここに家族も住んでいたのかもしれない。
──例えば、工場で亡くなった佐伯桃花とその家族とか。
パチンと軽い音がして、リビングの電気が消えた。
まるで、私の考えていたことに対する、返事のつもりかのようなタイミングである。
「・・・・・・帰りてぇ」
私の口から思わず弱音が漏れた。
正直、この村に来る前から帰りたい気持ちでいっぱいだったが、ここに来て更にその気持ちが強固になっていっている。
いや、駄目だ。
ここで負けるわけにはいかない。
なぜなら、あぎとくんが呪われているからだ。
つまり、呪われていなければ、すぐにでも帰っていた。
「・・・・・・土着系の怪異って皆そうですよね!! 余所者の事何だと思ってるんですか!! こっちが下手に出てればチッカチッカと電気のブレーカーで遊んじゃっ」
やけくそで叫んでいると、扉を激しく叩く音が響いてきた。
ちなみにチャイムは切ってあるらしい。
電池が切れている、ではなく、切ってあるというのが味噌なのだと思う。
おそらく、高倉さんの自宅までご意見を述べに来る人間がいたのだろう。
もしくは、いるのだろう。
田舎の公務員の闇だ。
「高倉さん!! 高倉さん!! 霊能力者の方いないんっすか!?」
息を潜めていると、聞き覚えのある声が耳に届いた。
足音を殺しながら玄関へ向かっていく。
「高倉さーん!! 電気ついてるからいますよね! 大変なんっすよ!!」
覗き穴から見れば、それは警察官の新田さんその人だった。
制服姿のままだ。
いや、これは──
「人が死んでいるんっすよ!!」
それを聞いた瞬間、ガシャンと音を立てて鍵を開く。
「!! あ、霊能力者の!!」
「案内してください」
勢いよく扉を開き、新田さんと対面した。
新田さんの後を追って暗い住宅街を走る。
住宅街、と言っていいのだろうか。
廃墟も混じっているのだろうし、納屋もあるはずだ。
なにせ、そう、人の気配という物が全くしない。
新田さんの後を追いかける自分の息遣い、そして心臓の走る音があるだけで、あとはただただ静かだ。
世界が終わったかのような、人間が絶滅した後のような、静けさ。
「俺、俺、事情聴取が終わって──帰ろうとして!! そして、そして──」
電柱の上に奇妙な影があった。
スピードを緩める。
嫌な予感がした。
いや、それは嫌な確信、と言った方が正しいだろう。
街灯の光が当たらない、電柱の上の影。
それが何か、誰なのか、それをしっかり判別するために目を細める。
電柱の頭に何か刺さっていた。
それは鳥ではない、鳥にしては大きすぎる。
鼻孔を生臭いものが刺激する。
電柱を伝って、糞尿が地面にしたたり落ちていた。
それは──
それを私はかつて見たことがあった。
百舌鳥だ。
百舌鳥の早贄。
「そして、【俺】が殺されちゃったみたいなんすよ!!」
それは、電柱を肛門から胸部まで貫通され、四肢をもいだ代わりのように左足を四本縫い付けられた新田さんの死体だった。




