十八話 ひきづり村とXXX
「無理無理無理無理無理」
大混乱で踵を返して走り始めた私を、動物としての本能かなんなのか、玄関にいたボロボロの女性が追いかけてくる。
滑りそうなほどに磨かれた廊下。
それを裸足の足が蹴る音、それが後ろからずっと付いてくるのでよく分かるのだ。
しかも、磨かれた廊下のせいで、自分が踏み込む音もよく響き、全くもって女性を巻くことができない。
少し離れても、音で場所がばれてしまうようなのだ。
「無理無理無理無理無理」
廊下を曲がり、無意識に元々居た事情聴取部屋を目指す。
いくら逃げても場所がばれるなら、そこに行くしかない。
あそこならば、犬飼刑事とハイイロクマが居るはずだ。
現役刑事たちならば、何とかしてくれるはず。
それだけを信じて、精一杯に腕と足を動かす。
急に首が締まった。
後ろから、マフラーが引っ張られたのだ。
「っったああああ!!」
両手でマフラーを投げるようにして首から解く。
そして、後ろは振り返らずに、そのまま走る。
振り返ってはいけない。
頭にあるのはそれだけだ。
「あぎとくんあぎとくんあぎとくん!!!」
恐怖のあまり口が叫び続けている。
「無理無理無理無理なんなんなんなんなん」
「尾張さん!!」
自分の名前を呼ぶ声。
犬飼刑事!
救われたような気になって、勢いよくソチラに振り返り、壁に顔をぶつける。
「ぽぺ」
空気を入れすぎた風船のような音が自分の喉から出た。
壁。
壁に両手をつける。
堅い、いや、思ったよりは柔らかい。
そして、凹凸がある。
嫌な予感を感じながら、恐る恐る、目線をあげていく。
壁。
いや、違う。
そこにはあのハイイログマがいた。
「でたああああああああああ!!!!!」
文字通り飛び上がった私の体を、ハイイログマは心底どうでも良さそうに横に押し退けて、背後の女性に対峙した。




