十七話 ひきづり村と女
玄関に佇むボロボロの女。
彼女の姿を視認した瞬間、全ての思考が停止させられた。
女。
そう、女だ。
村役場の玄関にボロボロの女がいる。
一体どうするべきなのか、判断に迷う。
そんな私の鼻を突く腐乱臭。
強風のせいで、臭いが建物内まで、なかなかこなかったのかもしれない。
それとも、視認したせいで、臭いにも気が付いていくことになったのだろうか。
「許してやってください」
人間の声とは思えないほどに、ひび割れて歪んだ声。
それが耳に侵入してきて、私の肌を粟立たせる。
汚れていて分かりにくいが、女の足は裸足だ。
所々、血が滲んでいるから間違いない。
その身体にはサイズが合わない──辛うじて女児物のワンピースとわかるものの残骸──それを纏った女がぺちん、と間抜けな音をたてて、玄関のガラス扉に額を押しつけた。
ぎょろりとそのズタボロの姿には不釣り合いな程に、煌々とした瞳が私を捉える。
「許してやってください」
女が腕に大切そうに抱えているのは・・・・・・肉だ。
腐った肉。
その腐った肉は・・・・・・靴下をはいていた。
「許してやってください」
私はポケットの中のスマホを掴もうとして失敗した。
スマホが廊下を叩きつけ、音が消える。
遅れて、視線の端でノートの切れ端が廊下に優雅に着地したのが見えた。
「許してやってください」
「あっっっだああああぁばぁあああああ!!!!?????」
私の元気な悲鳴は村役場を揺らしたらしい。




