十四話 ひきづり村と死体
「一体何をしてるんですか!!」
下駄箱の中身を改めようとした瞬間、怒声が耳を貫いた。
反射的にノートの切れ端らしき物を掴んで手に隠し、振り返る。
廊下の向こうから、恰幅のよい人影がズンズンと勇ましく此方に近づいてきた。
肩を怒らせ、堂々たる登場である。
「ちょっと、学校には関係者以外の立ち入りは禁止です! アンタ等一体・・・・・・高倉さんやないですか!!」
近付いてきてわかったのだが、恰幅の良い人影は眼鏡をかけている年輩の女性だったらしい。
ギャンギャンと高倉さん吼えるその姿をみて、脳裏にブルドックが浮かぶ。
「なんっで、うちの小学校に侵入しとるんですか!!」
怒り狂ったブルドックの顎が興奮で揺れている。
「ぁ・・・・・・い、いえ、すんません・・・・・・」
高倉さんの顔が引き攣り、一歩二歩と後ずさる。
この女性をずいぶんと怖がっているようだ。
「そ、そんなつもりではなくて・・・・・・」
「出て行って!! 出て行きなさい!!」
弁明しようとする高倉さんを女性が突き飛ばす。
高倉さんは、人形のように吹っ飛び、そのまま玄関から飛び出していってしまった。
「アンタらもよ!! さっさと出て行って!!」
物理的に噛みつかんばかりの形相の女性に、私とあぎとくんも飛ぶように玄関から退散した。
「全く、これだから余所者は恥というもんを知らん・・・・・・」
大きな呟きが私達の背中を追った。
「あ、あん人がっ・・・・・・この学校の、校長兼・・・・・・あん子らの、た担任ッ・・・・・・担任の・・・・・・福、本先生ッ、です・・・・・・わ」
胸を押さえ、喘ぐように高倉さんが私たちにそう言った。
何度も咳込み、ずいぶんと苦しそうである。
もしかすると、あのずいぶんな警戒は、福本先生がいないかを確かめていたのかもしれない。
「そうなんですか・・・・・・」
振り返ると、その校長、福本さんはまだこちらを睨んでいた。
見送られ、否、追い出されながら、私達は学校に背を向けて歩き出す。
「よそもの・・・・・・いつも・・・・・・しば・・・・・・しょくひん・・・・・・」
福本さんはまだブツブツと何かを呟き続けている。
離れていっているので、内容までは聞き取れないが、少なくとも褒め言葉ではないだろう。
そして、その顔はまだまだ此方に固定されている。
ちゃんとここから去るかどうか、最後まで見届けなくては気が済まないのだろう。
何となく、視線をあげれば、勢いよくカーテンを閉めるような音がいくつか響く。
学校の周りの家から聞こえたのだろうか。
だとしたら、恐らく観察されていたのだろう。
もしかしたら、福本さんに連絡して伝えたのも、彼らのうちの誰かかもしれない。
監視社会って感じだ。
それも、監視カメラがいらないタイプの。
「大歓迎って感じですね」
「本当にね・・・・・・高倉さん、わをんちゃんに近くない? 僕より近いのはちょっと耐えられないって言うか、許せないって言うか、それ以上は刺されても文句は言えないって言うか」
「滅茶苦茶、早口になりますなぁ」
高倉さんが私達からそっと距離を取った。
面倒ごとに巻き込まれたくないのだろう。
「・・・・・・で、工場で何があったって?」
あぎとくんが随分と話を戻した。
「あぁ、人死にですわ。小学生が一人、深夜の工場内で死んでしもうて、その親が「もう、こんなとこ居たくない」って、こん村から手を引くついでに、自分とこの工場の場所も移すことにしたんや」
呼吸が整ってきた高倉さんが、歩きながら説明をする。
「で、あそこん見える黒いのが工場跡の廃墟」
高倉さんが指さした黒い建物に目をやる。
いや、違う。
黒い建物ではない。
黒い何かがその工場を囲んでいる。
黒い、蝶だ。
無数の蝶がまるで一つの意志を持つ生き物のように、工場に集っている。
光に集まる蛾のように、獲物に群がる蟻のように、死体に集る蠅のように。
「あぎとくん」
「あぁ、わをんちゃん」
私が呼んで、あぎとくんが答えた。
「あそこで人が死んでいる、な」




