十二話 ひきづり村と人殺し
佐々木隆也が失踪した。
やはり、自身のものらしき左足を残して。
「だから、言ってるじゃないの!! あいつよ!! 柴田んとこのクソガキ!! あいつの仕業なのよ!!」
左足を離そうとしない、佐々木隆也の母親、佐々木元子がヒステリックに叫んだ。
片手で新田さんに掴みかかって、キィキィと耳障りな声を上げる彼女。
その大きな声が聞こえたからだろう。
家から出てきた村人達が遠巻きに集まり、静かにその様子を観察し始めた。
「あのガキ、秋本さやかをずっと恨んでたのよ!! それで、秋本さやかと一緒にいたからって、うちの隆也のことも逆恨みしてるのよ!! それで隆也の左足を!! あのガキ!! 殺してやる!!」
「まぁまぁ、佐々木さん・・・・・・落ち着いて・・・・・・こんなところで騒ぐのはよくないっすよ。とにかく、近くの警察署から応援がきますから・・・・・・詳しいお話をっすね・・・・・・」
新田さんがなんとか彼女を宥めようとしているが、佐々木元子は一向に落ち着きを取り戻しそうにない。
むしろ、宥められれば宥められるほどに、その怒りはより一層燃え上がっているように見えた。
「話すことなんてないわよ!! さっさとあのガキ捕まえてよ!! 人殺しなんだから!!」
佐々木さんは興奮しすぎて、新田さんの腕をへし折らんばかりに握っている。
血走った目を見開き、新田さんをみる形相はとても正気とは言えない。
「いたたたた、さ、佐々木さん、落ち着いて・・・・・・」
新田さんが情けない悲鳴を上げている。
「ちょ、痛いっすって!! 取れちゃう取れちゃう!!」
その声色は半ば鳴き声のようだ。
「秋本さやかちゃんと柴田結衣ちゃん、あんまり仲が良くなかったんですね・・・・・・」
そんな彼らから距離を取り、騒ぎに集まった群衆に紛れながら呟く。
「・・・・・・まぁ、秋本さんの娘さんもなかなかハッキリとした質でして」
高倉さんはボカして答えたが、恐らくハッキリどころか、苛烈な性格をしているのだろう。
苛烈な性格をしている、地元の名士の末娘。
正直、いい予感はしない。
「やっぱり、秋本さやかちゃんにも、話を聞いた方が良さそうじゃないか? 居なくなった時のことを覚えていたら、佐々木隆也くんを探すこともできるだろうし。まぁ、勿論、柴田結衣ちゃんにも、話は聞くとしてだけど」
あぎとくんがジッと揉める二人の奥にある一軒家を見つめていた。
それに倣って、私もその一軒家を観察してみる。
あまり綺麗だとは言えない、古ぼけた一軒家だ。
所々が継ぎ接ぎのようになっており、壁も塗っている途中で止めてしまっている。
もしかしたら、古民家に憧れ、自分の手でリフォームをしているタイプの住人なのかもしれない。
窓から人影でも見えはしないかと思ったが、カーテンはしっかりと閉まって揺れもないようだ。
そして、怪異の気配はやはりない。
・・・・・・ないのだが、何だか嫌な感じがした。
そして、それはあぎとくんも気が付いているのだろう。
「事の発端かもしれないぞ」
「・・・・・・まぁ、怪しいよね」
あぎとくんに同意する。
うん、ちょっと嫌な感じなんだよなぁ。
「にしても、事の発端がそこなら、秋本さやかちゃんが【戻ってきた】っていうのは引っかかるな」
あぎとくんが佐々木元子を見ながら、考え込んだ。
「それなんですよねぇ」
私もそれに同意する。
柴田結衣が【黒】で、なおかつ秋本さやかとのトラブルの結果【何か】していた場合──連れ攫われた秋本さやかは、ただではすまない筈だ。
なのに、普通に戻ってきたというのが引っかかる。
あぎとくんから聞いた限りでは、五体満足の怪我のない状態で廃神社にいたらしいし。
ならば、秋本さやかが狙いではない?
それとも、柴田結衣の狙いは別にある。
もしくは、柴田結衣と何かの意志疎通ができていない。
それとも、柴田結衣は無意識でやっていて気が付いていないのか?
──いや、核は柴田結衣ではない、のか?
・・・・・・そう、柴田結衣が核だとすれば、こんなにも怪異の気配が薄いはずがないのだ。
「秋本さやかが【戻ってきた】やて? あれが? 兄ちゃん達、本当にそう思ってんのか?」
嗄れた声に思考が乱され、現実に引き戻される。
群衆の一人、近くにいた女性か男性か判別できない老人があぎとくんを見上げていた。
本当に見えているのか、分からない白濁した瞳をしている。
もしかすると、声のした方をただ見上げただけかもしれない。
丸まるように曲げられた腰は今にも崩れ落ちそうなのに、異様な雰囲気があった。
百年どころか三百年は生きていそうな貫禄がある。
容姿と雰囲気だけで言えば、随分と怪異めいた老人であった。
「・・・・・・どういうことです?」
「まぁ、あんたらよそもんには、そう思えるんかもね」
それだけ言うと、老人は此方から興味をなくしたようだ。
白濁した瞳でぼんやりと柴田結衣の自宅の方を見ていた。
私が黙り、あぎとくんが黙り、高倉さんが黙る。
「・・・・・・学校だ」
あぎとくんが口を開いた。
「学校に行ってみよう・・・・・・何か、分かるかもしれない」




