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十一話 ひきづり村と襲撃者




 なんの戦績もなく、私達は村役場への帰路につくことになってしまった。




「あ、あー、あー、はいはいはい」

 好青年、新田海斗は随分と間の抜けた相槌をうった。

 村役場まで送るといってついてきた彼のソレは親切心なのか、それとも、あの怒れる加山さんのもとに帰りたくないだけなのかは分からない。


「あれね、あの加山さんの息子さん達のあれ!」

 そう言って、マジマジと私とあぎとくんを見つめる。

 上から下までじっくりと眺めて、また上へと視線を戻し、何往復かし始める。

 観察されている。

 恐らく、明日からの話のネタにするのだろう。


「今回の霊能力者の方達は・・・・・・随分とまぁ、若いんすね~」

 初対面の私達・・・・・・それもどう見ても若すぎる霊能力者に嘘でも「有能そう」なんてことは言えないようだ。

 私達の前の霊能力者達が何歳くらいで、どんなご立派な格好をしてきたかは知らない。

 だが、霊能力者というのは、結構派手に自分をプロデュースするきらいがある。


 以前会った霊能力者達もなかなかキャラが濃かった。

 自称神であったり、山伏姿だったり、七色に発光していたり、クリスマスツリーみたいだったり。

 まぁ、そうやってゴテゴテに飾り付けるのは、まずは形からソレっぽくみせていく、武装というやつだ。


 それを、私たちはしていない。

 なぜなら、好き好んで商売をしているわけではないからだ。

 だから、それらと比べられると私とあぎとくんのキャラは薄い。

 一般人にも程がある物だろう。

 少なくとも、霊能力者には見えないはずだ。


「・・・・・・まぁ、ただの高校生ですから。ね、あぎとくん」

「うわぁ、わっかぁ・・・・・・、偉いねぇ~、高校生! 高校生かぁ」

 私が答えると新田さんは猫のように目を丸めた。

「いやぁ、若い、めちゃくちゃ若いっすね。え、ヤバい。俺、高校生の時とか何してたんだっけ。何もしてなかったな? うん、何もしてなかった。蝉とか捕まえてたっすね~」

 へらりと笑う新田さんに癒される。

 この村に入って初めての癒しキャラだ。

 荒んだ心が整えられていくのが分かる。


「おい、テメェ」

 あぎとくんから低い声。

「何、わをんちゃんをジロジロ見てやがる、間男か?」

 殺人現場のような表情をしたあぎとくんが新田さんを睨んだ。


「・・・・・・えぇと、自分に答えれることだったら何でも聞いてください! 自分、まだこの村に来たばっかっすけど、それでも、この村の為にがんばるんで!」

 新田さんはそんなあぎとくんを無視した。

 正しい反応である。

 この世界というのは、聞かれたら答えるというのを続けても、正しいわけではない。

 そして、あぎとくんは目に入った物には、何に対しても喧嘩を売るミーアキャットのような男。

 下手に喧嘩を買うと、次の瞬間には、呪いを飛ばして来かねない。

 まぁ、今はあぎとくんの方が呪われてしまっているわけだが。


「ありがとうございます。あい、私達もね、この村のために情報収集しようとして・・・・・・で、加山さんにお話を聞こうとしたら『あぁ』やったんですわ」

 高倉さんが額をハンカチで抑えた。

 先ほどよりは、額を押さえる速さが落ち着いている。

 そして、大きく息を吐き、肩を落とす。

 まさか、加山さんからも話を聞くことができないとは、思ってもいなかったのかもしれない。


「あ~・・・・・・」

 新田さんが目を逸らし、遠くを見つめる。

 遠くにいる加山さんの姿を思い浮かべているのだろう。

 駐在所の方へと一瞬だけ目線をやって、頷く。

「・・・・・・他の霊能力者の人たちにも、散々聞かれてましたからねぇ、加山さん。で、未解決じゃないっすか? 解決して欲しい人たちからは、加山さんが嘘言ってんじゃないかとか言っちゃうし、隠蔽したい人たちからは、余計なことを言って村をめちゃくちゃにいているって言われちゃうしでしょ? 加山さんも、なかなか大変みたいなんっすよぉ~」

 新田さんが河童のミイラを齧ったかのように顔を歪める。

 もしかしたら、彼の頭の中では、数名の村人の顔が浮かんでいるのかもしれない。

 恐らく、彼は高倉さんよりも、村人達とよい関係を築けているのではないだろうか。

 まぁ、この人なつっこい性格だし、懐には入りやすいだろう。


「それに、加山さんは、元々、奥さんのこともあって、コレっすからねぇ。参っちゃって、最近はず~っとお酒呑んでるんっすよね」

「奥さん?」

 思わず新田さんの発した単語を繰り返す。

「奥さんも何か・・・・・・おかしなことに巻き込まれたんですか?」

「あぁ、いやいやいや、浮気っすよ浮気。自宅に弁当取りに戻ったら、知らねぇ男が奥さんを襲ってて、ブン殴ったらなんと奥さんの浮気相手だったんっす。しかも、それがどこぞのお偉いサンの息子だった、みたいな。で、外にでてバリバリ出世してたのに、地元に戻されちゃったんですって」

「うわぁ」

 私はドン引きし、あぎとくんは黙る。

 高倉さんは元々知っていたからか、無反応だ。


「しかも、奥さん子供置いて、すぐに相手のとこ行っちゃったんだって吉田のおばちゃんが言ってたんっすよね。いやぁ、元々、子供の世話もあんまりしてなかったみたいだし、子供さんにとってみればよかったのかな?」

「うわぁ」

 私は更にドン引きし、あぎとくんは更に黙る。

 高倉さんはやはり無反応だ。

 知った話なのだろう。


 流石、田舎。

 真偽不明だが、情報が完全に筒抜けだ。

 しかも、それがさも事実のように語られてやがる。

 私は心底どん引きした。

 なんて酷い話だ。

 二重三重の意味で。


 高倉さんが咳払いした。

 恐らく、これ以上はこの村の情報を流すなという忠告だろう。

 余所者に村の内情を喋りすぎだって感じの。

 それとも、高校生にそんなドロドロした話を聞かせるな、という感じだろうか。


「おっと、すみません」

 新田さんがパチンと自身の口を叩く。

「君たちも変なこと聞かせてごめんね」

 そう言って私とあぎとくんに軽く頭を下げる。

 恐らく、新田さんは後者の意味──子供に下世話な話を聞かせるなという意味でとったのだろう。

 気まずそうにその眉が下がる。


「いえいえ、私が聞いてしまったからですし」

 私は新田さんに苦笑してみせた。

「は? なんで今あの男に微笑みかけたの? 浮気? 今浮気したよね?」

「落ち着こう」

「なんで、今堂々と浮気したの? は?」

「落ち着こう」

 あぎとくんが荒ぶり始めた。

 嘘でしょ、苦笑もアウトなの?

 なんだか段々とアウト判定が広がってきているようで恐ろしい。

 何でだろう。

 もしかして、加山さんの元奥さんの浮気の話を聞いて、不安になったのだろうか。


「・・・・・・他の【関係者】のご家族はどうか、知りませんか?」

「他の関係者っすか・・・・・・」

 高倉さんの言葉に、新田さんが考え込むように視線を彷徨わせる。



「加山さんとこの信二くんは今、親戚の家に預けられてるらしいし、話を聞こうとしたら、加山さんブチギレちゃうんじゃないっすかね。松本さんは入院中で面会謝絶。当然話を聞ける状態じゃないみたいっすよ。佐々木さんは・・・・・・」

 新田さんの視線が明後日の方向を向く。

 その視線を辿る。


「ちょっと!! いるのは分かってんのよ!!」

 三十代かそこらのジャージ姿の女性だ。

 金髪に染められたその髪の根本数センチは、元々の黒髪がのぞいている。

 その女性は怒り狂ったバッファローの様に、小さな一軒家の扉を叩き続けている。

 このままだと扉が壊れかねない勢いだ。


「出てきなさいよ!! 人殺し!! 人殺し!!!」

 髪を振り乱し、形振り構わず叫ぶ女性はいっそ怪異めいていた。

 だが、怪異の気配はない。

 生きた人間なのだろう。

 しかし、怒り狂ったその女性は怪異並にはやっかいそうだ。





「・・・・・・えっと、今、柴田さん家を襲撃してるみたいっすね」

 新田さんが頭を掻く。

「まいったな」

 どうやら、本当に参っているらしく、声のトーンが何段階か下がった。

 いや、これ、参ったなですむレベルなのだろうか?

 怖いんだけど。


「鉢合わせにならないうちに、村役場に戻りましょう・・・・・・柴田さんの家に行きたいのなら、また明日に日を改めて行けばえぇです」

 高倉さんがさっと踵を返す。

 今日一番の素早い動きだ。

「あの小道に入ってそのまま進みましょう、このままだと見つかって絡まれかねません」

 どうやら、本当に佐々木さんのお母さんとは、顔を合わせたくないらしい。


 そういえば、【癖のある人】と言っていたな。

 そして、霊能力者を追い回したとも。

 その話をする時、かなり疲れた顔をしていたし、彼にも嫌な思い出があるのだろう。

 ああいうタイプが村役場のお役人相手だからと、大人しくしているとは思えないし。



「さぁ、早く行きましょう」

 高倉さんから急かされる。



 しかし、私はそこから動けなかった。

 女性は片手で扉を叩きながら、もう片方の手で何かを抱えている。

 そこに目を吸い込まれたのだ。

 さっさとこの場から去りたいのに、ソレから目が離せない。

 何かは分からないが、ソレを注視しなくてはいけないと感じている。




「いや、あのさ」

 あぎとくんがジッと女性を、いや、女性の腕に抱えた何かを見ている。

 彼の暗澹とした瞳は、ソレが何であるか、しっかりと見えているらしかった。




「あの、女の人が抱えてんの、子供の足じゃないか?」





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