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九話 ひきづり村と余所者




「・・・・・・で、最後の柴田結衣ちゃんってのはどんな子?」

 私の悶々とした思考に終止符を打つように、あぎとくんが高倉さんに尋ねた。

「・・・・・・さぁ?」

「さぁ?」

 高倉さんの反応をミラーリングするようにあぎとくんが首を傾げる。

 ふざけているかとぼけているのかと一瞬思ったが、高倉さんの顔は真剣そのものだ。


「彼女の家は最近村に来た余所者なので・・・・・・情報はあまりないんですよね」

「余所者・・・・・・」

 あぎとくんが此方を見る。

 私もジッとあぎとくんを見つめる。


 余所者。

 ひきづり村に住んでいるのに余所者か。

 あぁ、そういえば、前に依頼で行った村でも、百年前に越してきたはずの家に対して「新参」と呼んでた人が居たな。

 そして、思わず、河童に相撲を申し込まれたときのような顔をしてしまったのだった。

 それを思い出し、何とも言えない気分になる。


「・・・・・・まぁ、貴方達からしたら、一番接触しやすいかもしれません。ですが、あちらもよく知らないんやないですかね。余所者やしなぁ」

 高倉さんがお座なりに答えた。

 何の感情ものっていない声である。

 いや、本当に何の感情もないのだろう。

「まぁ、まずは加山さんですわな」









 ひきづり村駐在所。







 その中で熊のような大男が一升瓶を呷っていた。

 一瞬、不埒な輩や乱暴者が大胆不敵にも駐在所で酒盛りをしているのかと思った。

 しかし、その男が身に纏っているのは・・・・・・派手に着崩してはいるが警察官の制服である。



 高倉さんを見る。

 彼は控えめに頷いた。



 つまりは、彼こそが加山信二の父親、駐在の加山和雄であるということだ。



「・・・・・・最近の警察は勤務中に酒を呑むのか」

 あぎとくんが呆気にとられたように呟いた。

 未知と遭遇した、と言う顔だ。

 初めて西洋妖怪に出会った小豆洗いは、恐らくこういう顔をしただろう。

 今まで自分が知らなかった、別に知りたくもない常識を知る羽目になった、という様な顔だ。


「いや、呑まないでしょう」

「えぇ、普通は呑まんでしょうな」

 それに私と高倉さんが間をおかずに答える。

 当然、許されない行為である。

 この現代社会においては、そんなことをした瞬間、ネットで大炎上確定の行為である。

 そして、当然、処分されるようなことだ。


 今まさに、現役高校生にとんでもない社会常識が刷り込まれそうになっていることに、高倉さんに目で抗議する。

 だが、高倉さんの目はサッと逸らされ、此方をチラッとも見ない。



「なに、見てんだ、おい!! 見せもんじゃねぇぞ、高倉ぁ!!」

 私と高倉さんが無言の攻防を続けていると、警察官の加山さんが管を巻き出した。

 もう大分アルコールがまわっているらしく、座っているはずなのにまっすぐに姿勢を保つこともできないのか、ユラユラと上半身が揺れている。

 それは、熊かなにかの野生動物が獲物を狙うかのように見えた。

 かなり酔っぱらっている。

 きっと、彼の足下に転がっている酒瓶は彼一人で空けたのだろう。

 一日で空けたのではないと信じたいが、どうだろうか。


「あい・・・・・・いや、お話をね・・・・・・この方々が聞きたいゆわれまして・・・・・・」

 高倉さんが弱り切ったように、額をハンカチで拭う。

 か細い声を上げながら、視線をあっちこっちにやって、逃げ場を探している小動物のようだ。

 酔っぱらった熊の前に放り出された、悲しくてか弱い小動物そのものである。

「えぇ、あい。別に見せ物にしようとは・・・・・・」


「ききてぇことだぁ!? お前、あれだけ俺から聞いておいて、今度は一体何を聞くってんだよ!」

「い、いえ、私ではなく」

「大体、テメェなんぞになぁ!!」

 加山さんが高倉さんに掴みかかろうとでもしたのか手を伸ばし、バランスを崩す。

 畳に倒れ込むようにというよりは寝転がるような体勢となった。

 鈍い音がして酒瓶が勢いよく吹っ飛ぶ。


 瘤でもできたのではないかと思うが、アルコールで赤黒く染まった加山さんの顔色は大して変わらない。

 いや、憎悪や怒りに燃えている。

 アルコールのせいなのか、感情的になっているからか、それとも、見た目通りの身体の頑強さか、全く痛みを感じた様子はない。

 むしろ、転けたのすら、高倉さんのせいだと思っていそうだ。


「なんっか、言ったところで、一体何になるってんだよ!!」

 加山さんは上体だけでも起こそうとしているのか、両手を地面につこうとして何度も失敗する。

 ひっくり返された蝉のような動きだが、身体のデカさと勢いのせいでちっとも笑えない。

 このままでは怪我をしそうであるが、余計な手出しをすればそれこそ怪我をさせられそうだ。




「いいか!!」

 肉食獣の様な瞳が高倉さん、私、そして最後にあぎとくんを捉えた。

「この村にはなぁんも起こってねぇ、起こってねぇもんを解決なんざできねぇんだよ!!」

 歯を剥き出した加山さんが続ける。

 威嚇する獣そのものだ。

「引っ込んでろ、余所者共!!」

 建物全体が揺れたような衝撃があった。

 いや、いくらなんでも大声で建物が揺れることはないはずだ。

 つまり、揺れたのは空気だろう。



 加山さんの瞳が親の仇でも見るようにあぎとくんを刺す。

 寝そべったままの体勢なのに、格好が付かないというよりも、野生の猛獣に会ってしまったかのような緊張感を感じる程度には、凄まじい気迫である。

 だが、あぎとくんは何時も通り、温度も光もない瞳でそれを見つめ返していた。

 加山さんの気迫に圧された様子は全くない。

 あぎとくんは加山さんに敵意を抱いているわけではないだろうが、その瞳にはあまりにも温度がない。

 これから死ぬ野生動物を見ているかのような瞳だった。



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