狂い始めた日
とても健康にすくすくと育っていった美羽だったが、小学四年生になる頃に世は変わりだし未知のウイルスが流行りだした。それまで放課後は外で遊びまわっていた日常とは一変し、学校から普及されたタブレットばかり触るようになっていた。今までの食事量は変わらなかったため体重だけが増えていたが、美羽は気にしなかった。当時、美羽が仲良くしていた親友と呼べる存在も似たような体型をしていたため、危機感を感じなかったのだ。
だが、学年が上がり小学六年生になる頃には太い脚を長いズボンで隠すなどして体型を隠すような服を選ぶようになっていた。美羽の中でも「自分はデブだ」という認識があったのだ。でも、自分の欲求には逆らえず、ダイエットという行為にはなかなか踏み出せなかった。そんな美羽はメンタルがあまり強くなく、太っている自分を誰かが蔑んでるとしか思えず、学校を拒否する日が続いた。それでも親はそれを一切許さない。なんといっても親の生きた時代はそんなに緩くなく、母の由里は無遅刻無欠席、父の則道は学校大好きな人だったからこそ当時の美羽の気持ちには理解に苦しんだ。幸い、美羽は周りの友達に恵まれていたため、学校を休むことなく無事卒業することができた。
そんな美羽が中学生になった。そこは今まで生活していた世界とは変わり、美羽は慣れるのに苦戦した。一番大変だったのが部活動だった。美羽は小学生の頃から親に言われて剣道を習ってきた。美羽自身が好きになったことは一度もなく、たくさん練習する割に大した戦績も残せなかったから。美羽は中学生では別のことに挑戦し、剣道から外れようとしたが、周りからの圧や親からのプレッシャーに負け地獄の生活が始まった。
顧問の細田は生徒からの人気は高いが、美羽はどうしても好きになれなかった。彼は人を選ぶのだ。お気に入りの生徒には明るく振舞うが、気に入らない生徒にはごみを見るような目線を浴びせた。その標的に彼女はなってしまった。そして何より美羽は小さい頃から男性が苦手だった。道を歩いているだけなのに怒鳴られたり、同級生の男の子から性的なことをされた経験もあるため、男性を好きにはなれなかった。そのことが余計に彼女を苦しめた。そんな美羽だが、怒られないように部活動には必死に取り組み毎日休むことなく参加した。ストレスはたまっていくばかりだったが、どこにも感情の捌け口などは存在しなかった。
久しぶりの部活がない休みの日、ソファに寝転がり休息をとっていた美羽に対して父は言った。
「でっかい太ももやな」
思えばこの日から、美羽の世界は変わっていった。