すべてが順調なはずだった
とある平凡な家庭に生まれた間宮美羽。彼女は小さいころから何事にも好奇心旺盛の活発な女の子だった。彼女は昔から人見知りが激しく、親にすがりつくことしかできなかった。だが、陽気な性格の親に背中を押され友達を作ることに成功した美羽は一度仲良くなると誰にでも心を許していた。
そんな彼女の口癖は、
「この世に嫌いな人なんて居ないよ。泥棒さんも犯罪しちゃった人も小さいころは絶対いい子やったからみんなすき!」
だった。純粋極まりない発言だが、美羽らしくてかわいいと周りは言った。一日一日がとても楽しく笑って、時に泣いてだけどどんな瞬間も愛しく思えた日々が続いていた。
一方美羽の親はというと、母親(間宮由里)は気が強いが笑顔がとても似合う人だった。美羽を頑張って人気の高い私立保育園に入れたりもして、自分の体調より美羽を第一優先として考えていた。家族を愛する心は誰よりも強く当時の美羽の憧れだった。由里は少しカッとなりやすい人だったが、それでも美羽は母親である由里のことが大好きだった。それは由里と美羽の間にはこんなエピソードがあったからだ。
美羽には三つ下の真衣がいる。真衣がまだ由里のおなかの中で眠っているときに、美羽の運動会は迫っていた。美羽は、その日の運動会のために何日も何日もかけっこで一番をとる練習を重ねてきた。すべては親にいいところを見せたかったから。そんな美羽を見ていた由里は運動会をとても楽しみにしていた。
そして迎えた当日、美羽がもうすぐ走るとなったときに激しい陣痛が由里を襲った。由里はそれでも「あの子は今までたくさん練習してきた。だからこれだけは見たい」とお腹に手をおさえながら苦しそうに言った。父親もそれを了承し。美羽を最後まで応援した。そして美羽が走り終えるとすぐに車に行き病院に向かった。
かけっこで無事一位をとった美羽にむけた母親からの褒め言葉と苦しそうだけどそれを隠すような満面の笑みでこちらを向いていた光景は今でも忘れられない、だから美羽は何をされても由里を嫌いにはならなかった。
その点、みうの父親(則道)は少々手荒で頑固な人だった。それでも自慢のユーモアあふれるギャグでいつだって美羽達を笑わせてくれた。ただ叱るとすぐ手を出す癖があるのが難点だった。もともと不良の道を進んできた人だったから、自分の思い通りにいかないと腹が立って手を出してしまう。ときに、叩き、殴り、髪の毛を掴んで外に出されたこともあった。美羽は次第に抵抗することをやめ、されるがままになっていった。だが則道が本当は良い人で自分が余計なことをしてしまったから招いた行動だとわかっていたからやっぱり、美羽は憎むことができなかった。
叱られて泣いて、楽しくて笑って、日常の一瞬一瞬がかけがえのないものなんだと幼いみうはわかっていた。ずっとこうやって笑い合える家庭が続くと思っていた。いや続かせたかった。