9.アレグロ・ソレムネ(クラウディア フローレスの寄稿)
クラウディアです。
アリリオの話の続きを書かせていただきますね。
あの後、ギターを弾いていたのが誰だったのか、聞いてみたんです。
なんと、リオコでした。びっくり!
ギターが弾けるなんて知らなかったわよ。
でも、リオコは誰もが驚くほど博識で多芸ですから、本人にしてみれば、これくらいは当たり前!って感じだったのかも知れません。あんなに若く見えるのに、いろんな分野の様々な知識を持っていて、こんなこと言ったら悪いんだけど、なんだか故郷のおばあちゃんと話しているみたい。
皆さん知っての通り、食糧生産部のアニタとは仲が良くて、アニタと時々「次に農園で栽培出来そうな作物は?」みたいな話をしています。そんな話まで出来るの?
歴史の知識も豊富で、何故か中世スペインにやたらと詳しい。まるで自分で見てきたような話を聞かせてくれます。
だから、あの曲のことも聞いてみたくなった。
あの、とても短いけど厳かな、まるで教会に居るみたいな気分になった、あの曲のこと。きっと、いろんな話をしてくれる。
式の翌日、リオコを捕まえて聞いてみました。
Q:「何ていう曲なの?」
A:「あれは、アグスティン・バリオスという、パラグァイの作曲家が書いた『大聖堂』という曲の第二楽章。三つの楽章から出来ていて、大勢の人達が大聖堂のミサに集まった様子を描いた曲なの。」
Q:「バッハみたい。」
A:「そうね。バッハにインスパイアされて書いたと言われているわ。」
Q:「とても短いけど?」
A:「あれは続きがあるの。第三楽章はちょっと長いわよ。」
Q:「弾いてくれる?」
リオコ、自分の部屋にギターを取りにいきました。
ロビーの長椅子に座って、調弦を始めた。
「じゃあ、第三楽章を。」
「待って全部聞きたい。」
第一楽章から、通しで弾いてくれました!
以下は、リオコの解説より引用。
◆第一楽章 前奏曲(郷愁)
色んな思いを抱いた人たちが、ミサのために大聖堂にやって来て、それぞれに思いを巡らす。ゆったりした分散和音の静かな曲。
◆第二楽章 アンダンテ・レリジオーソ
宗教的アンダンテ。ミサが始まる。厳かなミサは、本当は長いのだろうけれど、曲の中では象徴的に扱われていて、とても短い。
◆第三楽章 アレグロ・ソレムネ
荘重なるアレグロ。速いスケールが上下を繰り返しながら進んでゆく、バッハのフーガを思わせる一番長い楽章。ミサを終えた人々が、余韻に浸りながら、明るい太陽の下に出てくる、その人波の熱気を描いたもの。
大聖堂を描いているけれど、ミサが主役じゃなくて、人々が主役なんだね。
バッハの曲のような神への捧げ物じゃない。これはひとのためのフーガだ。そう思いました。
もっと聴きたくなりました。
リオコに我が儘を言って、他にもいろいろ弾いてもらいました。初めて聴く曲ばかりだったけど、「森に夢見る」が特にきれいだったな。
しばらくすると、だんだん人が集まってきた。
今は節電中で、観測機械もノイズが入るからデータが取れない。書き物やデータ整理は出来るけど調べものは難しい。
つまり、今、私たちは暇なのだ。
ロビーでこんなことやってたら、そりゃあ観に来たくなる。
結局、リオコのリサイタルが1時間位続きました。最後は「もう弾ける曲ないわよ!」ってリオコが叫んで終了。
まあ、こういう時だから、娯楽は必要よね。
ありがとうリオコ、お疲れ様!
次は、設備管理その他で毎日大変な思いをしている、管理部のサイトウさんに。みんな暴走機関車でごめんね。