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8.アンダンテ・レリジオーソ(アリリオ フローレスの寄稿)

 李君の指名で書きます。アリリオ フローレスです。


 専門は火山と地質なので、ミカンヤマ技師とは良く一緒に調査などやっていました。彼とオプロン技師が生んだ傑作機「aliena号」も何度か使わせてもらいました。安定して飛行できるいい機体です。


 妻のクラウディアとは、火星に行く前に式を挙げる予定だったのですが、直前になって母国チリで大きな地震と火山の噴火が起きてしまい、二人とも挙式どころではなくなってしまいました。


 妻は地震学者で私は火山学者。我々二人は、すぐに被災地の調査に出かけて、ここへ来る直前までデータの整理や解析に追われていました。でも、既に多くの時間と手間を割いて準備を進めてきた火星行きをキャンセルするわけにはいかなかった。

 被災地支援もろくにできませんでしたし、調査データが自分たちの手を離れてしまうのは心残りでしたが、我々には我々の役目がある、と考え直すことにしました。


 式なぞ地球に戻る5年後でいい、と思っていたのですが、コロニーの人たちが密かに私達の結婚式を計画してくれていたのです。口の悪いアルフォンソに言わせると、「結婚式と葬式は居住実験の予定に入っていなかったが、君たちのお蔭で片方は実施できることになった。」ということらしい。


 でも、この件をアルフォンソに伝えられてから5日後、2つの嵐がやってきました。

 当然、式も中止と思っていたのですが、皆さんいろいろと工夫してくれて、厳しい節電下での式を実現してくれました。本当に感謝に堪えません。


 ◇


「神父がいないから、私が代わりを務めよう。聖なるオリンポス山はこっちの方角だ。残念ながら外部カメラが切れているから映像はないが、皆であの大きな山体を思い浮かべよう。神様には昨日連絡しておいたから、今頃頂上付近にいるのではないかな。」


 皆、ロビーに集まり、アルフォンソの軽口で式は始まりました。


「夫アリリオは、妻クラウディアを、晴れの日も雨の日も、変わらず愛することを誓いますか?」

「誓います。」

「妻クラウディアは、夫アリリオを、太陽嵐で通信の途絶した日も、また火星の長い明けない夜の間も、変わらず愛することを誓いますか?」

「誓います。」



 誓いの言葉を述べる間、ギターの音色が聞こえて来た。


 アグスティン・バリオスの「大聖堂」、第二楽章「アンダンテ・レリジオーソ」。



 とても短いが、厳かで印象的な曲。パラグァイの偉大な作曲家の曲だ。私も知っている。

 オーディオも電子楽器も使えない中で、ガットギターの音色がロビーに反響して、まるでパイプオルガンのように聞こえた。誰が弾いているのだろう?


「では、誓いのキスを。それから、火星産のマッシュルームのソテーを二人に食べてもらおうかな。残念ながらケーキがないのでね。」


 アニタが電源を落とす前のファイトトロンから、収穫してとっておいたものだった。


 それから、照明を少しだけ明るくして、皆で保存食のオードブルをつまみながら、少しだけ酒を飲んだ。粉末を水に溶くと酒になる「粉末酒」というものらしい。何かのイベントのためにと、地球から持ち込んだ食糧品の中に入れられていたものだった。


 ◇


 本当に素晴らしい一日でした。皆さんにただただ感謝するばかりです。


 では、次はクラウディアにお願いします。










 


 




 

 


 


 


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