6.二つの嵐と明けない夜(石橋理緒子の寄稿)その2
はじめに分かったのは、砂嵐のほうでした。
火星の観測データよりも、地球から来た宇宙望遠鏡のデータのほうが、砂嵐の到来を早く知らせたのは皮肉だったけれど、これは火星全体の様子がわかるから、有り難かった。
そして、運が良かった。太陽嵐の方が先に来ていたら、通信障害でこのデータは手に入らなかったでしょうから。
我々はすぐに準備を始めました。
コロニー内の電気使用を節電モードにしながら、フライホイール蓄電機に、ありったけの電力を送り込んで、蓄電をはじめた。予想される今回の砂嵐の期間は約二週間。でもフライホイールは、まだ設置の途中。本当はコロニー建設時に全て揃っているはずだったのに、地球での製造が遅れて、必要な数がまだ届いていなかった。なんでそんな大事なこと放っておいて居住実験始めたの!?
だもんだから、これから準備して二週間の嵐をやり過ごすには、蓄電容量が少し足りない。発電できる時間の猶予もギリギリだそう。それでもあのVermilionの空が明るいうちに、太陽光パネルで目いっぱい発電して、その電気を蓄電するしかありません。
蓄電容量が足りない分は、使えるバッテリーを探しまくった。
最初に目をつけたのは、野外工事用の重機の内臓バッテリーと充電用定置バッテリー。フライホイールの充電が満杯になった時点で、これに充電を開始しました。
でも、まだまだ足りない。
そこで、水を電気分解して水素と酸素を作って貯めることにした。作った水素と酸素は燃料電池で電気に再度変換する。エネルギー効率は半分ちょっとになってしまうけど仕方ない。せっかく作った太陽光パネルの電気を捨てるよりはまし。
そして、結果的には、この水素と酸素が私達を救うことになりました。
やがて、砂嵐がやってきました。
そして、その翌日には太陽嵐が来て、地球との通信が途絶。外の設備やモニターも、ノイズが入るため大半が使用できなくなります。外出ももちろん無理。研究も作業もみんな一時中断。
皆、照明を落としたコロニーの中で、嵐の通過を待つしかなくなりました。
光ファイバーから太陽光も入っていたコロニー内は、節電のために照明を落とすと、やがて昼間でも夜のように暗くなりました。
それが、まだ誰も経験したことのない、火星の「明けない夜」の始まりだった。
このあとの話は、ぎりぎりまで電力確保に奔走してくれた、李さんにお願いします。