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4.火星の歌(アニタ クリステンセンの寄稿)

 オプロンさん、ご指名ありがとう。食糧生産部のアニタ クリステンセンです。

 良い機会だから言いたいんだけど、みんな私のこと「姉御」って呼ぶのやめてよね(笑)。


 さて、オプロンさんが書いてくれた「シカゴピザ計画」のことだけど、今はまだ下準備の段階ね。とりあえずコロニー内に必要なスペースを確保して、いま土を作っているところ。シカゴピザに辿り着くにはまだ大分かかりそう。


 あの時は「根菜と穀物は水耕栽培出来ない」みたいな説明をしたけど、実はジャガイモなんかは水耕栽培ができなくはないの。ただミストを使うからちょっと大袈裟な設備と大量の電力が必要。その点、土を上手く作ることが出来れば、細かいことは土壌菌類がやってくれる。電力は大幅に少なくて済むし、管理の手間も大分減らせる。解決方法は出来るだけ単純な方がいい。特に電力は大問題。このコロニーも一度電力ダウンの危機を経験してるしね。穀物は、どっちかというと規模の問題が大きいかな。


 電力ダウンの話は、この後多分色んな人が書いてくれるでしょう。なにしろ大事件だったから。


 で、仕事の話はこれくらいにしておきます。

 だって、この先の話をするには、あれのことに触れざるを得ないんだもの。ウンコよ。レディが人前でする話じゃないわよね。


 さて、アルフォンソ先生が書いてた「万葉集」のこと、ちょっと興味が沸いたので、調べてみました。日本のとても古い詩集で、「和歌」というとても短い定型詩を集めたものなのね。日本語で31文字。凡そ62音節ね。こんな短い定型詩なんて成立するのかしら?


 でも、良く考えたら、日本にはもっと短い定型詩がある。そう、俳句よ。俳句は今や世界中の色んな言葉で詠まれているわ。だから62音節の定型詩があっても全然不思議じゃない。

 でも、どう違うのかしら。俳句と和歌。

 隣の部屋の日本人のリオコに聞いてみた。リオコは「細かいことは自信ない」って言いながらも説明してくれた。


 和歌は、今は「短歌」と言うらしいの。

 俳句は五、七、五の十七文字。

 短歌は五、七、五、七、七の三十一文字。

 で、俳句は季節を表す「季語」が必要だけど、短歌には必要ない。

 それだけ?そう聞いたらリオコは「これは私の勝手な解釈だけど」って断った上で、こう言ったの。


「俳句は、言葉で描いた絵画。瞬間の風景を言葉で切り取ったもの。だから、作品の中で時間は止まっている。一方、短歌は世界一短い小説。作品の中には、時間が流れているの。」


 すごい。リオコは詩人だわ。

 でも、良くわかる。上の句の十七文字と、下の句の十四文字の間には、時間の経過が表現されるのね。

 万葉集、読んでみなくちゃ。


 読んでみました。翻訳した本ががあったので。

 正直に言います。良くわかりませんでした。


 いや、散文的な意味はわかるのよ。でも詩としての美しさは、訳された文からは十分には伝わらなかった。あと比喩的な表現なんかは、その時代や社会の背景を知らないと、理解が難しい。なにせとても短いから、多くのことが書かれた言葉の外に匂わせてある。難しいわ、って嘆いたら、日本人でも似たようなものよ、ってリオコは言った。そうなんだ。


 で、自分でも書いてみたくなっちゃった。

 以下は、私が詠んだ火星の歌。なにぶん自己流なのはご愛敬。ご笑覧下さい。



 西の地平線に青い夕陽が沈む

  昨日の砂嵐の恐ろしくも美しい置き土産


 太陽風で通信途絶の日

  ファイトトロンで大豆の小さな花が咲いた


 処理済のレゴリスに堆肥を混ぜる

  ここに命の火を灯すのだと誰かが呟く



 駄目ね。絶望的に下手だわ。

 まあ仕方ないけど。


 じゃ、次はリオコよ。

 よろしくね。


 






 


 









 











 





 

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