3.シカゴピザを作るには(ジャンポール オプロンの寄稿)
土木建設部のミカンヤマ技師からバトンを受け取りました。モビリティ開発室の航空機担当、ジャンポール オプロンと言います。よろしくお願いします。
水平軸ローター機の有人初飛行の経緯については、ミカンヤマサンに書いていただいたとおりです。私ではこんなに客観視した文章は書けなかったでしょう。ありがとうございました。
なお、あの機体は、ミカンヤマサンの「オオミズアオという蛾に似ている」という言葉から、”Aliena”と名付けました。オオミズアオの学名からとったものです。使ってみたい方がいましたら、私の所へご相談下さい。用途に合わせた機体を製作いたしますよ!
さて、私は何を書いたら良いのでしょう?困りましたね。
◇
食べ物の話をしてもいいですか?
アルフォンソ先生からは、その話題は皆が興奮するからやめておけ、と言われたのですが(笑)。でも皆さん関心がおありでしょう?
このコロニーは試験運用が始まったばかりで、食糧生産はまだ全然追いついておらず、当分の間は地球から運んできた保存食に頼らざるを得ないのは、皆さんもご存じの通りです。現在、レタスとトマト、大豆、それから水菜の水耕栽培が軌道に乗り始めているところだそうです。獲れたものは、今のところは量が少ないので、とりあえず加工して保存食にするそうです。
難しいのは根菜類、それと穀物だとか。理由は水耕栽培が難しいから。
ということは、炭水化物の確保が難しい、ということになります。
あと、チーズとか肉なんかは、代用品で良ければ大豆から作れるそうです。
以上の話を一言でまとめると、火星でピザを作るのは、現状では難しい。
私がなんでこんなことを知ってるのかと言うと、この間食糧生産部から管理用ドローンの製作依頼を受けて、そこで担当者から色々と話を聞いたからなのです。
いや、なかなか考えさせられました。
◇
「シカゴピザよ。」
第二農園管理担当のアニタ クリステンセンさんが、初対面の日に溜息とともに吐いた言葉です。
「目標はシカゴピザの材料が全部この農園で揃えられること。でもなかなか困難な挑戦になりそうだわ。」
「いや、単にピザでもいいのでは?」
「どうせなら豪華なほうがいいでしょ?この目標が達成できた日には、全員分のシカゴピザを焼いて配るの。いいでしょ。」
そう言って彼女は豪快に笑うのです。
「それは楽しみですけど、オーブンが足りないかも知れませんね。」
「じゃ、オプロンさんが作って。」
「私は航空機担当なんですけどね。」
小麦とジャガイモ、それにビーツ。これを水耕栽培ではなく、土に植えて育てる。それがクリステンセンさんが担当する第二農園の役割です。先程も書いたように、根菜と穀物は水耕栽培ではうまく育たない。そこで、土を用意してそこに苗を植えて育てる。
しかし、火星には砂や粘土はあるのですが、当然ですがその中には有機物が一切入っていません。畑土にするには土壌改良が必要なわけです。
「それだけじゃないわ。有害物質も含まれてる。例えば過塩素酸塩。」
「過塩素酸塩とは?」
「強力な酸化剤よ。生物に有害で、しかも有機物に触れると、強烈な酸化作用のせいで……」
「せいで?」
「燃えるし爆発する。」
「えええ。」
「固体ロケットの助燃剤に使われるくらいよ。」
「そんな所にジャガイモを……」
「植えられないでしょ。」
まずは土壌を「造る」ところからはじめないといけないらしい。
「とりあえず化学的に処理して無害化して、あとは高分子ポリマーなんかを添加して団粒構造を作る。要は水はけを良くするの。」
「なるほど。」
「それに有機物を混ぜて土壌菌類を接種すれば、なんとか土らしいものは出来ると思うわ。幸い有機物は割と豊富に手に入るから。」
「豊富に手に入る有機物って?」
「生ごみとウンコ。これに菌を接種して堆肥を作るの。」
「なるほど。」
この土づくりのために、温度管理用のドローンが必要らしい。サーモカメラで撮影して、過度に温度が上がっている所は重機で天地返しをして温度を下げたりするのです。
「下手すると100℃近くになるわ。そうなるとせっかく接種した土壌菌類が死んでしまうの。」
「でもそれ、菌が自分たちで発生させた熱ですよね。」
「ほんと。自殺行為よね。」
彼女がまた豪快に笑う。
それから、私はドローンに必要な性能や要件を彼女から聞き出し、帰るとさっそく設計にとりかかりました。2か月ほどで完成したドローンは納品され、今も稼働中です。
シカゴピザ、いつごろ食べられるでしょうねえ。
◇
では、次はクリステンセンさん、お願いしますよ。