16.掘れないお宝(テオドーロ ロマーノの寄稿)
調査部資源担当のテオドーロ ロマーノです。
アミさん「勝手に」はひどいよ(笑)。
まあ勝手に送ったんだけどね。だってリクエストあってのラジオでしょ? 僕はそう思うよ。
それにしても、あの日の夕方の初放送?に、ヴィラ=ロボスを選んだ君のセンスには脱帽だ。
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では、みんなよくやる例の前振りで話を始めましょうか。
「資源担当って、何やってるの?」ってね。
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コロニーの建設にはいろんな物資が必要だ。
今の所その多くは地球から宇宙船で運んでいるけれども、例えばコロニー本施工部の躯体を作るためのコンクリートや鋼材なんかは、宇宙船で運ぶにはちょっと重量がかさみすぎる。
今運用中の試験施工部は8割くらいが地球から運んだ物資で製作されたけど、実は2割ほどは火星で調達された材料が使用されている。そう、建設部門における現地調達の実験は既に行われているんだ。
欲しい資源のありかは概ね分かっているし、その資源を必要な物資に変える方法もある程度確立されている。問題は、それをコロニーの本施工用にスケールアップできるか、そして必要な量を実際に運搬できるか。
簡単に言ってしまうと、必要な量を掘れるか、運べるか、それを欲しいものに加工できるか、だ。この3つが大問題だ。課題の9割がここに帰結する。
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で、とりあえず今のところなんとか出来ていること。それは2つある。
ひとつは水資源。地下の氷床の採掘だ。
水は下水を処理して循環利用するから使い捨てではないが、それでも全量を再生することはできない。少しずつ減る分は掘って来なければいけない。地球のように大気圏を水が循環しないから、火星の水は今の所限りある資源ということになる。
飲料水に添加するカルシウムやマグネシウムは、意外にも調達はそんなに難しくない。まあ使う量が少ないからね。
もうひとつは、鉄とセメントの製造。建設材料の調達だ。
鉄については、少なくとも資源量の心配をする必要はない。周りにうんざりするくらいあるからね。ただし、必要な量を集めるのは意外と大変だ。そこから鉄を取り出す精錬は、太陽光を集めて使う。大きな鏡で太陽光を一点に集めて酸化鉄を加熱し、そこに酸素製造でできた副産物の水素を吹き付けて鉄を作る。
意外かも知れないが、鉄の精錬のためだけに使う電力はわずかだ。必要なのは装置の駆動のための電力だけで、あとは太陽光と酸素製造の副産物を利用するからね。
セメントの方が大変かも知れない。炭酸カルシウム鉱石は主に低地に分布するから、量を集めるためにはちょっと遠くまで掘りに行く必要がある。で、そこからどうやってリトプス1まで運ぶかも大きな課題だ。車両で運ぶには道が必要だし、車の電源をどうするかも考える必要がある。燃料電池車かな?
いっそAliena号のでかいやつを作って空輸できるといいんだろうけど、火星で大型機を飛ばすのはやっぱり難しいんだろうなあ。その辺どうですかねオプロンさん?
セメントが出来れば、骨材は周りにある。まあ採掘は大変だけど、これで鉄筋コンクリートは作れる。溶岩洞窟内に据えるコロニーの内殻が出来るわけだ。
あとは、シーリング用のゴムや樹脂類なんかが欲しいけど、大量生産でなければ人工光合成装置で炭化水素は作れるから、そこから化学合成していろんなものを作れる可能性はある。まだ実現はしていないけど、道筋はすでについている。今の所は地球から運んだものを使ってるけどね。
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まあ、いろいろ課題は多いけど、その課題は意外なペースで解決しつつあるのも事実。
でも、そんなこと今になって現場合わせで考えてるの?とか言われそうだけど、計画段階で全ての準備を済ませるのは、多分無理だっただろうと思う。実際にここに来て見て初めてわかることが沢山あったからだ。そういう意味で、今ある試験施工区の建設は、貴重な実験だったと思う。
とりあえず、今ここに住めているのは、実はすごいことなんだ。
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最後に、ちょっとだけ夢のある話を。
オリンポス東麓の溶岩台地で、今フローレス先生と一緒に資源探査の調査をかけているんだけど、この間「金鉱脈の可能性が高い」というものが何か所か見つかった。
火星で金が掘れるかも知れない?
ただし、深さがずいぶん深くて、今の設備ではちょっとそこまで掘れそうにない。
まあでも、夢はあった方がいいよね。
フローレス先生、そのうち金の採掘に成功したら、指輪作りましょうよ。
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さて、次は誰にしましょうか。
そうだなあ。ちらっと「人工光合成」の話をしたので、化学担当のアリ君どうですか、次。




