15.ラジオ・ヴァーミリオン(アマビリス・洪の寄稿)
オオタさんからの指名で書きます。
管理部のアマビリス・洪です。
◇
昔、大学の社会心理学の先生から言われた言葉があります。
「人間には儀式が必要なんだよ。こういうものを合理性を理由に排除しすぎると、どこかの時点で物事がうまく回らなくなってくる。」
儀式って何の話してるの?って思った人。
あれの話です。
毎朝私が館内に放送してる、あれです。
「今日の予定」!
◇
「8:00です。皆さんおはようございます。今日の予定を共有しましょう。
土木建設部の皆さん、本日9:30より本施工部分の設計会議です。場所は第3会議室で。
モビリティ開発室のオプロンさん、土木建設部のミカンヤマさん、オオタさん、13:00より『新自律測量システム』の企画打合せです。場所は第1会議室で。
アルフォンソ先生、調査部のイシバシさん、管理部のサイトウさん、13:00より機構本部とのコロニー計画検討会です。リモートにて。
アリリオ・フローレス先生、14:00より…………… 」
これ、PC開いてスケジュール表を見れば全部書いてあるんですけどね。
でも、それを見ない人が必ずいる。
ほんっとに必ずいる。
なので、朝から「予定共有」と称して、私がその日の予定を読み上げる。
ね、儀式でしょ。
でも、これをやり始めてから、会議をすっぽかす人がほぼいなくなった。
まあでも、人間そんなものよね。私も人の事言えませんし。
◇
スケジュール表の書き込み、管理してるのは実は私。
このコロニー全員の秘書みたいなものです。
今は人数が少ないから、それでもこれで管理できる。
本施工部分のコロニーが運用開始されたら、こんなやり方はもう無理。「だからみんなスケジュール表見ろよ」って言うのか、それとも幾つかのセクションにわけてこれをやるのか。
儀式って、大変。人間って、めんどくさい。っていう話でした。
閑話休題。
◇
例の「明けない夜」が明けた日のことです。
私は夕日は見に行かなかったんだけど、その日1日の太陽光パネルの発電で、ある程度電気が使えるようになって、館内放送くらいは出来るようになった。
私もほっとしたし、ちょっと嬉しかった。
それで、大アルバートさんに相談したの。皆が帰って来た頃合いを見計らって、音楽を流そうって。「皆さんお疲れ様」って言いたかった。そして、何か元気の出る音楽を流したかった。
そしたら、大アルバートさんが、
「音楽だけじゃつまらないだろう。何を流すのか知らないけど、アミがそれを選んだ理由があるだろうし、皆にねぎらいの言葉もかけたいだろう。準備の時間がないから1曲だけだけど、君がDJになって、ラジオ番組みたいに曲の紹介をしてごらんよ。」
つまり、小さなラジオ番組をやれってこと?
「そうだね、そんな感じだ。皆、喜ぶよきっと。」
◇
その日の夕方、夕日を観終わって、皆が帰ってきました。
私は館内スピーカーとマイクのスイッチを入れる。
そういえば館内放送、2週間ぶりなんだ。
さあ、いくわよ私。
リトプス1の皆さん、お疲れ様でした。
管理部のアマビリス・洪です。
夕日を観に行った皆さん、どうでした?
きれいでしたか?
私も見に行きたかったけど、
ちょっとここでやることがあったの。
これから皆さんに、私が勝手に選んだ音楽を、
1曲だけお届けします。
流行りの歌でもよかったんだけど、
人によって好みもあるし。
それで、色々探したの。結構悩ましかった。
でも、これならきっとみんな喜んでくれる、
そういう曲が見つかりました。
クラシックですけど、ぜひ聞いて欲しい。
元気が出ると思います。
ヴィラ=ロボスの「ブラジル風バッハ組曲」から、
「カイピラの小さな汽車」です。
♪♪♪
曲が始まる。
オーケストラが、力強い音で表現するのは、小さな蒸気機関車。
蒸気の音と共に、動き始める機関車。
大きな動輪が最初はゆっくりと、そして次第に力強く回り始める。
時折挿入される不協和音が、車体が軋んで壊れそうな田舎の機関車を表現する。
やがてスピードが乗ってくると、ヴァイオリンがテーマを奏ではじめる。
トロンボーンが汽笛を鳴らす。
そうして、次の駅までの短い区間を走った機関車は、やがてゆっくりと速度を落として、再び止まる。
ただそれだけの、4分ちょっとの短い曲。
♪♪♪
皆さんお疲れ様でした。
今日はゆっくり休んでください!
おやすみなさい!
お休みなさい、は余計でした。
ちょっと早かったよね。時間的に。
◇
これが大反響だったの。
翌日、私の所へすごい数のメールが来た。
それで大アルバートさんも私も調子に乗っちゃって、夕方のミニラジオ番組として毎日やることになった。曲探しは大変だけど、毎日1曲だけだからね。なんとかなりました。
そのうち、メールでリクエストが来るようになった。いや受け付けてないんですけど。
でも、無碍にするわけにもいかないから、地球のデータベースにアクセスして探した。
そして、見つけてかけた。それに私が適当にコメントすると、本当になんだかラジオ番組みたいになってきた。
「番組名が必要だな。」
で、大アルバートさんが適当につけた番組名が「ラジオ・ヴァーミリオン」。
まあ、いいんじゃないかしら。
ここは朱天の星だし。
でもこれで、私は朝夕2回放送しなくちゃならなくなったけど。
◇
では次は、一番最初に番組に(勝手に)リクエストをくれた、調査部資源担当のテオドーロさんに。




