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第二話 撲殺令嬢は逆境(金欠ともいう)を糧に成長した

 決闘に勝って逆ハー軍団を金属パイプの錆びとした日の夜、ローズマリー・ゴールドシュタイン公爵令嬢は父の執務室に呼ばれていた。


「ローズマリー、なぜここに呼ばれたか理由は分かるか」シュナイダー・ゴールドシュタイン公爵が問う。


「いいえ、全く分かりません、お父様。

 もし決闘のことなら、完全に合法的に行われ、愚か者が五名ほど浄化されましたが、何の問題もないと考えています」平然と答えるローズマリー・ゴールドシュタイン公爵令嬢……


「法的には問題なくても、他のところでは問題ありありだ。

 ローズよ、お前は自分がなんと呼ばれているのか知っているのか?」


「いいえ、全く」


「はぁ」とため息を吐いて間を取るシュナイダー・ゴールドシュタイン公爵。


「凶悪令嬢とか、撲殺令嬢とか、果ては死に神令嬢とまで呼ばれているのだそうだ。

 このような二つ名が貴族の令嬢としていかがなものか分かるであろう」

 父の苦悩は娘の素行が令嬢らしからぬものであることに起因するのだがローズマリー・ゴールドシュタイン公爵令嬢は今ひとつ分かっていなさそうだ。


「まあ、お父様。どの二つ名にも令嬢が付いていることを考えると、皆様きちんと私が貴族令嬢であることを理解してくれているのですね」

 つなぎの特攻服という貴族らしからぬ出で立ちを披露したローズマリー・ゴールドシュタイン公爵令嬢としては、周囲が自身を令嬢と呼んでくれることに嬉しそうだ。


「いや、令嬢の前にくっついている前半が問題なのだ。凶悪・撲殺・死に神……。いづれも貴族令嬢として……、いや年若い嫁入り前の女性としていただきたく無い呼称ではないのかね?」

 シュナイダー・ゴールドシュタイン公爵の懸念はもっともなものなのだが、背中に「愛・夜櫓死苦」の金刺繍を背負って前世からタイマンしてきたローズマリー・ゴールドシュタイン公爵令嬢には全く響かないようだ。


「やはり殺さない方がよかったのでしょうか?相手が殺す気で来ている以上、禍根を残さないためにも息の根を止めるのが最適解だと思うのですが。苦しまないように一撃で送って差し上げましたし、問題ないかと思います」

 平然と言ってのけるローズマリー・ゴールドシュタイン公爵令嬢に対して父の苦悩は大きい。


「いや、白目をむいて頭蓋骨を粉砕された遺体を五つも生産してはさすがにどうかと思う。ローズは魔法も得意なのだから、せめて見た目をなんとかするためにも氷結魔法で氷のオブジェにするとか、灼熱魔法で骨すら蒸発させて跡形も残さないとか、事後の見た目を考えるべきだったのではないかね」

 父親の言葉も大概であった……


 そんなこんなでお説教を喰らってしまったローズマリー・ゴールドシュタイン公爵令嬢は、父から向こう一ヶ月間はお小遣い無しというご沙汰を頂いてしまった。

 しかし、そんなことでくじけるローズマリー・ゴールドシュタイン公爵令嬢ではない。


「はあ、困りましたわ。

 今月は楽しみにしていた小説の発売もあると言いますのに、これはもう自分で稼げというお父様からのメッセージと捉えるしかありませんわね」

 何事にも前向きなローズマリー・ゴールドシュタイン公爵令嬢はもらえないなら稼ぐのみと早々に結論を出し、その日の晩には特攻服に身を包み、錬金魔法で製作した大型バイクにまたがって公爵邸を飛び出した。

 ドルルルルゥと魔道エンジンの重低音を響かせながら、ハングオンして夜の魔の森の隘路あいろでコーナリングを決める。

 三十分もすると森の深部に到達したローズマリー・ゴールドシュタイン公爵令嬢は商業ギルドで売れそうな素材を集め始めた。

 このような深部まで来れば、貴重な薬草がかなりの確率で見つかる。

 しかし一方で、危険な魔物に遭遇する確率も跳ね上がる。


 そしてこの晩も、ローズマリー・ゴールドシュタイン公爵令嬢を美味しい獲物と勘違いしたハイオークやサイクロプスなどが押しかけてきたが、ローズマリー・ゴールドシュタイン公爵令嬢は漏れなく特性金属パイプで真正面から叩き殺し、素材をありがたくちょうだいして空間魔法庫へ保存した。

 デッドグリズリーの大物を仕留め、これで当座の費用は十分に稼げただろうと思っていたときにそいつは現れた。

 夜の帳に一際ひときわ黒い大きな影。うろこの隙間から燃えるような赤い光が漏れている。


 万物を溶かし、万物を燃やし、万物に死を与えると言われる暗黒溶岩竜であった。


 しかしローズマリー・ゴールドシュタイン公爵令嬢はひるまない。


 金属パイプを上段に構え、思いっきり飛び上がって竜の頭をドついた。

 ガギーーーンと凄まじい音がしたが、竜の頭はへこむことなく金属パイプも無事である。パイプも竜の頭も双方十分に硬く、決着は長引くかと思われた。


 しかし、実際には、あまりの衝撃に動転した暗黒溶岩竜はしばらくフリーズしたが、自分よりも格上の相手を本能的に察して、すぐにひっくり返り腹を見せた。

 降参のポーズである。


 かくてローズマリー・ゴールドシュタイン公爵令嬢は一晩の内に十分な活動資金となり得る魔物素材と、従順な下僕の竜とを手に入れた。


 帰りはポチと名づけた暗黒溶岩竜の背中に乗ってあっという間に帰宅したローズマリー・ゴールドシュタイン公爵令嬢は、ポチこと暗黒溶岩竜を公爵邸の中庭にお座りさせると、自室のベッドで爆睡した。


 翌朝、中庭に眠る巨大な竜に気がついた公爵邸は騒乱に包まれたが、なにくわぬ顔で朝食会場に現れ、周囲の喧噪を気にすることなく美味しい朝ご飯を頂いていた娘に疑問を感じたシュナイダー・ゴールドシュタイン公爵が、娘を問いただして見れば、

「昨夜ポチというペットを飼うことにしました。中庭にいます」という娘の言葉に絶句してしまい、その後、三時間に渡って昨夜以上のお説教を娘に喰らわせたのである。


 残念ながらローズマリー・ゴールドシュタイン公爵令嬢が何故怒られなければ行けなかったのか理解することはなかったという。


 かくしてローズマリー・ゴールドシュタイン公爵令嬢の二つ名に凶竜令嬢の二つ名が加わったのである。




第二話 終わり


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