2.みつけた
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いたる所に花が飾られているだけでなく、広場を囲む建物の上層の階から撒かれる花弁が舞い散る。青く晴れた空とのコントラストが眩しい。
王城前。石畳敷きの広場は、年に一度の善き日を迎え、華やかな雰囲気に満ちていた。
そこにひしめく誰もが、今日という善き日に出会う運命の相手を夢見て着飾っている。幸せそうな顔だ。期待と熱気と緊張に満ちて、はち切れそうになっている。
「では、一斉に飲みなさい」
儀式祭典用の壮麗な大礼服を着た王の言葉に従って、この一年で成人を迎えた男女が一斉に手にした種を口へ運ぶのを、眼下に見守る。
ルキウスがこの日を迎えるのも6回目だ。初めてのあの日から5年もの月日を虚しく過ごしたというのに。
他国で迎えるこの日この時に、こんなにもこの胸が騒ぐ。
マグにはこの国に自分の運命の相手がいるかもしれないと仄めかしたが、実のところルキウスは別に運命の相手に出会えると思ってここにいる訳ではない。
けれど、それ以上に運命を感じる相手が、今日ここで恋の種の日を迎えるのだ。
そこかしこで歓声の上がる広場を、ひたすら思い出の彼女を探した。
「──いた。あの子だ」
少女の右肩にルキウスが浮かんでいる訳でもなければ、ルキウスの右肩に浮かんだ光が、その少女を象った訳でもない。
だからその少女はルキウスの運命の相手ではない。
分かっていた事だから、それ自体は別に構わなかった。
けれどルキウスの心の奥底で、ずうっと会ってみたいと思っていたあの少女が、そこにいた。
この部屋から出るのは広場での出会いが落ち着いてからという、家族やマグとの約束も忘れて、ルキウスは宿を飛び出した。
飛ぶように階段を駆け下り、広場へと躍り出た。
運命の相手と出会った歓声に沸く広場。
「初めまして」と初々しく挨拶するふたりの横を通り過ぎ、「お前とかよ」と真っ赤になりながら強がる少年と「なんですって」と憤慨する少女の間を通り抜ける。
人ごみを掻き分け、駆け抜け、ルキウスは、ただひたすら先ほど彼女が立っていた場所に向かって進んでいく。
不安に震える、ちいさな細い肩を掴んで、引き寄せた。
「見つけた!」
そういえば、彼女の隣にいるはずの彼はどこにいるのだろう。
絶対に隣にいると思ったのに。
いなければ、駄目なのに。
彼女の右肩に集まっていく光が、彼を象っていくのを、期待して見つめた。