19.王女はかく語りき
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「先ほど、貴女は白銀の色を持つルマティカの民について何も知らないと言っていたわね。教えてあげる。聖獣様と同じ白銀の色を持つルマティカの民は、ルマティカの国と周辺国に多大な変化を及ぼす特別な王となると言われているわ」
「特別な、王に」
自然、リリカの咽喉が鳴った。
ルキウスのおとうさんが現在のルマティカ王だとは聞いている。だから王子様なのかと思ったけれど、でもルマティカの王はただ能力値が高い人が選ばれるのだと教えられて安心したのに。
ルキウス自身に、王となる資格があるなんて。想像もしてなかった。
リリカの弟に手を振ったのに顔を隠されて、傷ついたと大袈裟にアピールする姿。
貴族じゃなくても王子様なんじゃないって怒ったリリカに「酷いこと言わないでよ」と泣き言をいう姿。
リリカの中にいるルキウスは、どこか抜けたところのある笑顔の似合う気のいい人でしかない。
それだけではない特別な存在であるルキウスを、リリカは知らない。
「あの御方はまだ王に選ばれた訳ではないけれど、既にその片鱗をみせられたわ。馬鹿で恩知らずのこの国の民からバケモノと指を差されようとも、そこで切り捨てることなく、この国が立ち直れるように手を伸ばして下さった。そしてその決断を成す切欠は、リリカ、貴女なんだわ」
真っ直ぐに、リリカへ注がれた視線の嘘は見えなかった。
「なん……」
「幼い貴女と幼馴染の冒険。それは多分きっと、あの御方がバケモノと指差され傷ついた翌朝のことでしょう。あの御方がこの国で聖獣の御姿をなしたのはあの日一日限り。貴女方ふたりと出会った事で、あの御方はこの国を諦めないと決めた。決めて下さった」
ゆっくりと、王女は椅子から立ち上がり、一歩下がった。
そうして最上級のカッツィを、リリカに捧げた。
「……」
王女がその最上級のカッツィを捧げるのは、父王と、聖獣と、そうしてルマティカの王にだけである。
そんな意味するところは知らなくとも、その美しい所作と真摯な言葉がリリカの胸に刺さった。
「愚かな王族のひとりとして感謝を。貴女方のお陰でこの国は正しい道へと戻れた。この国が聖獣様の加護を失わずに済んだのは、貴女と貴女の幼馴染みのお陰です。できることなら、貴女にあの御方の手を取って頂きたい。けれど、貴女の心を無視して王権を振りかざしてそれを命じるつもりはないのです。ただ貴女が自身の選択を悔やまないで済むお手伝いだけはさせていただきたいのです」
リリカに向かって差し出された嫋やかな手を、リリカはじっと見つめ、口を開いた。




