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13.ルキウスとタイと



「でもその……聖獣様の御姿になれるような方だなんて。そんなの本当に無理です。そんなの、ルキウス様が絶対にルマティカの王様になるってことですよね。知ってます。というか思い出しました、聖堂で習いました。白銀の方は特別で、みんなから尊敬されるんだって」


「あぁあぁぁ。ルマティカに関する知識を得て貰った弊害が」


 頭を押さえて苦しむ真似をするルキウスに、リリカが畳みかける。


「私を知っていたといっても、ただあの場から助けてくれただけじゃないですか。それに……私、私とタイは、聖獣様の御姿を写し取ったルキウス様から、逃げ出しちゃった方の人間ですし」


 段々とリリカの声がちいさくなっていく。


「でもあの時のリリカからは、畏れは感じたけれど、恐れは感じなかった」


 畏れは敬意だ。自分より強く敵わないと思った相手に抱くのは当たり前の感情だ。


「それと、タイのあれはね、『リリカを守りたい』っていう強い想いだった。正直、凄いって思った」


 にこやかに晴れやかに。ルキウスは胸のすく思いで笑顔になった。


「たくさんの動物たちを従えた聖獣様の姿を写し取った僕を前にして、好きな子を守ると宣言して、実際にそれができるって凄いことだよ。大人だってできない人の方が多いかもしれない」


 思い出す度に、ルキウスの心は歓喜に震えるのだ。

 あれこそが、恋の種で選ばれるべき運命のふたりなのだと。


 ちいさな身体で精一杯リリカを守ろうと立つタイの姿。

 リリカを守ろうと飛び出して来たタイは、震えるリリカを怖がらせるつもりはなくても、どうすればいいのか分からなくなって固まっていたルキウスにとっても救世主だった。


 そうして、庇われながらもタイだけでひとり逃げて助かって欲しいと願うリリカの気持ちも。


 どちらも尊くて、眩しくて。


 この地で生きる民がこのふたりのようであるならば、ただ聖獣の加護に守られているということ、それを受けるために他国の王より助力を受けねばならないことを知らされていないことが問題なのではないかと思えたほど。


 まぁ、畏れ慄かれた対象が自分であるということ自体は、納得がいかないけれど。


 それでも、何年経っても色褪せずに大切にしてきた記憶だった。



「だから、私ルキウス・ノースは、タイから頼まれた誓いを生涯かけて引き継ぐ事を宣言する。これは君が私を受け入れてくれなくても関係ない。君が私を運命の相手だと思っていなくとも関係ない。『リリカをずっと守り、かならず幸せにしてみせる』私がタイと交わした約束だからね」




 『リリカ!』


  『大丈夫だ。俺が守ってやる』


   『リリカ』


『しあわせに、なるんだぞ』



 ──タイ!!!


 リリカの目に、ルキウスの姿へタイが重なる。

 それが幻であろうとも、じっと目に焼き付けたいのに。リリカは、涙が溢れて、何も見えなくなった。


「タイの、こえが、き、こえるの。まだ……ここに、いる」


 日々の生活に、顔も、声も、タイの何もかもが遠く薄れていくことはあっても、リリカのタイへの想いだけはそこにずっとある。


 リリカの心の真ん中に、タイがいる。たぶんずっと消えることはないだろう。


 消えることを、リリカは願っていないから。



「うん。いいよ、タイのことを忘れないでいて、いいんだ。だって、私にもリリカを心配しているタイが見える気がする。たぶんこれからもずっと、私にはそんなタイが見えるんだと思う」


 ふとした拍子に。

 リリカが笑っている後ろやリリカが眠っている横で。

 すぐ近くかもしれないし、ちょっと離れた場所からかもしれない。


 ただの見間違えかもしれないそれを見つける度に、きっとルキウスは誓いを新たにするのだろう。


「るきうす様も?」

「うん。たぶん……いいや、きっとずっと、タイも一緒だ」


 鼻の頭も真っ赤になって、ぐずぐずと泣くリリカを愛しいと思うのは、何故なのだろう。


 恋の種を飲む前から、飲んでも誰の姿もこの右肩に乗せることのなかった今日までの日々も。たくさんの女性から誘いを受けた。

 その誰もが美しく着飾り、化粧を施していた。そうしてそれが似合う存在であるべく努めていたことが分かる、手入れの行き届いた美しい女性ばかりだった。


 けれど誰ひとり食指が動いた相手はいなかった。ただひとり、目の前のリリカ以外には。


 恋の種で選ばれた相手だからだろうか。

 タイに、頼まれたからだろうか。

 聖獣の力を借りてこの地に降り立った日に、憧れを抱いてしまったからだろうか。


 それとも細くてちいさなリリカが、全身でタイへの愛を叫ぶ姿に、魅せられてしまったからだろうか。


 もしかしたら、その全部なのかもしれない。


 そしてすでにルキウスの心はリリカを幸せにすることでいっぱいだった。


 何故何処に惹かれたのかなどという無粋な問いの答えを自分の中に探してみた所で手遅れだ。


 恋の種が芽吹くというのは、こういうことなのかと、ひとり納得した。


「勿論。『約束を破ったら容赦しないぞ』って言われている気がする。それに、正直なところ、たぶんリリカがなんで横にいるのがタイじゃないんだろうって思ってるのと同じくらい、私も、なんでリリカの横にタイがいないんだろうって思ってる」


 だから、いいんだ。


 そっと抱き寄せ、ちいさな背中を撫でる。


「いっぱい泣いて? タイとの思い出話も聴かせてくれると、嬉しい」






ルキウス君の一人称が「僕」だったり「私」だったりするのはわざとです。

誤字じゃないの ><


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