1.ルキウス
氷雨そら様主催『モフモフヒーロー小説企画』参加作品です。
短期集中連載です。
よろしくお願いしますー!
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あさぎ かな様(@Chocolat02_1234)より素敵なFAを戴いちゃいました!
白銀のモフモフが素敵すぎる♡
瞳の色もこだわりポイントだとか!
素敵な表紙イメージありがとうございましたー♬
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この世界の子供は誰もが皆、生まれてくる時に、その手にひと粒の種を握りしめている。
恋の種。
それはそう呼ばれていた。
何故なら、それを口にすると、運命の相手が見えるようになるからだ。
ふわふわと、種を飲んだ人の周囲を浮かぶ、半透明でちょうど半分くらいの大きさになった、生涯を掛けて恋をすることになる相手。
勿論、種を飲んだ本人にも見えるし、他の誰からも見えてしまうのでその人が誰を思っているのか一目瞭然となる。
だから、この国では成人を迎える善き日に、それを一斉に飲む。
そうしてお互いの“運命”を確認し合って、人生のパートナーを決めるのだ。
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「なのに、なぁんで僕のパートナーは分かんないままなんだろうねぇ」
ソファの背へだらりと腕を掛けて自身の右肩へ浮かぶ光を見上げて、ため息まじりにルキウスはぼやいた。
その肩に浮かぶ筈の運命の相手は、15才で迎えた恋の種の日から5年もの月日を過ぎた今でも、はっきりとその姿を表さない。
ふわふわとした光が浮いているばかりで、どんな顔をしているのかどころか、それが人であるのかすら分からないままだ。
「そうですなぁ。お相手の方が成人前ですと、そのお姿は見えないものですからねぇ。ルキウス様のお相手は、余程お年が離れておられるのでしょうなぁ」
ホッホッホ。紅茶を用意しているマグの肩が愉快そうに揺れた。
あれでよく一滴たりとも溢さないものだなと感心しつつ、ルキは用意された紅茶を飲む為に座り直すと、ソーサーを取り上げた。
濃い目に淹れられた紅茶に、ミルクも砂糖もたっぷりと入れたものが、ルキウスは幼い頃からお気に入りだった。
「マグの淹れた紅茶は本当においしいねぇ」
「ありがとうございます」
好みの味に慰められはしたが、ルキウスの心が晴れることはなかった。
「恋の種で見えるようになる運命の相手は、それまでに知り合ったことのある者の中から選ばれると言われておりますからなぁ。ルキウス様には恋の鞘当てが足らなかったのではありませんかな」
恋の種の日を迎える前から、何度も掛けられてきた言葉だ。これまではずっとさらりと流してきたルキウスだったが、さすがにマグから言われると顔が引き攣った。
「はぁ。せっかく親御様方からいいとこ取りしたと言われる麗しい見目をなされているというのに。どんなに美しい令嬢方から声を掛けられても、なんで有効に活かせないんですかねぇ」
「なにが麗しい見目だ。彼女らには、僕のこれしか頭にないよ」
ピン、とルキウスが自分の頭のてっぺんにあるそれを弾くと、白銀の毛が靡いて、辺りに光が飛び交う。
ふわふわの毛に包まれた三角形の大きな耳と、長い尻尾。
聖獣の国と呼ばれるルマティカの民ならば当たり前に持っているそれらだったが、聖獣様と同じ色である白銀の毛を持つ者が現われたのは、実に100年振りだ。
「シルバー家に現われたのは更に前だっけ」
「そうですね。ルキウス様の4代前となられるご当主様、当時の国王様以来ですからねぇ」
「はぁ。毛の色が似てるってだけなのに。なんで注目されなくちゃいけないんだ」
ルキウスのぼやきに、マグが目を眇めた。
実際には「毛の色が似てるだけ」だなど、とんでもない言い草だ。
聖獣の血を引き、その加護が強く残るルマティカの民は、他の国の民より身体能力や知能が高い。その中でも聖獣と同じ白銀の色を持つ者は、加護を与えることすらできると言われている。
実際に白銀の王を戴いている期間はこの国のみならず近隣諸国においても、平和が続いている。
ルマティカには貴族制度はなく、王族というのもいない。
ただ、聖獣が残した4人の子供たちが興した4つの家門の長からもっとも強く賢いと認められた者が王として立つ。それだけだ。
本来ならば、4つの家門のひとつであるシルバー家の長男として白銀の色を持つ者として、もっとも次代の王に近い場所にいるどころか、高齢となった現国王の跡を継いでいてもおかしくないルキウスだが、20才を超えてもまだ運命の相手が見つからないが故に、それが認められることはない。
「本気で、隣の国へ行ってみるべきなんだろうか」
不貞腐れたルキウスがこぼした呟きに、マグが冷静にツッコミを入れた。
「他の国まで足を伸ばされようとも、お相手が未成年ではどのお嬢様がお相手か分からないままだと思いますよ」
そもそも恋の種では、知らない相手と縁が結ばれることはないといわれている。自分の身の回りにいるよく見知った相手が浮かぶことがほとんだ。
「ヤなことばっかり言うね、マグ。でもさほら、僕は父の仕事について隣国までは行ったことあるからさ。その時に縁が結ばれたっていう可能性だって、あると思うんだよ。傍にいないから姿にならない可能性ってあるんじゃない?」
「まるで、隣国に、どなたか思い浮かぶ相手がいらっしゃるようなお言葉ですなぁ」
「そんなこと……いや、うん。ちょっと意味が違うかもしれないけれど、確かにあれは、僕にとって運命の出会いだった」
瞳を揺らながら話す年若い主を見て、マグはおや、と目を瞠った。
ずっと傍で仕えてきたマグからして、ルキウスという青年が誰かを恋しく思っていた様子は一度たりとも覚えはない。
記憶を浚えども、恋に恋するような幼い恋すら思いつかないほどだ。
だが、まだ専属となる前ならばどうだろう。
仕事で諸外国を廻っている父親がルキウスを伴ったのは、ルキウスが12才になったばかりの頃に一度きりだ。その時、そこで誰と知り合ったかまではマグには分からない。
その幼いルキウスが知り合ったとして、5年経っても成人しない相手は、当時幾つだったのか。
感情表現の豊かなルキウスが、恋しいという素振りすらまったく表に出さなかったというのも、不思議な気がした。
それでも確かに、交流さえあったならば国が違えども運命の相手として選ばれる可能性はない訳ではない。
「次の恋の種の日には、隣国へ行ってみますか?」
当日、この国にいようといまいと、ルキウスの相手がはっきりとしない限り、どこいようが何も変わりはないのだから。
一般的に、この国、ルマティカの民だけは他国の者と結ばれることはないだろうというのが世界の共通した認識であると、マグは思っていたのだが。
「“もしかしたら”が、ないとは限りませんしね」