愛していたのに
昔々、あるところに霊と龍の番が居ました。
俗にいう一目惚れだったそうです。
片時も離れなかったものですから、絡み合った鼓動は忘れることができませんでした。
龍からの紅の指輪の贈物を捧げられた時は、外さないと誓ったほどでした。
記憶は全て身体に刻みました。それほど楽しいものでした。
逃がさないと、取られたくないと、そう思ってしまうほどに霊は龍が好きでした。
身も心も、全てぐちゃぐちゃになってひとつになりたいと、そう思ってしまうほど。
ああ、気づきたくなかった。これが乾いたおままごとだなんてこと。
霊は眠る龍の胸に向かってナイフを突き立てました。
裏切り者の末路としては相応しいものでしょう。
終わってしまう前に終わらせよう。
愛していた、愛していたのに。
「お前は本当に可愛いなぁ、思わず抱っこしたくなるぜ」
「お前は2番目に幸せな奴さ。1番目? 俺に決まってるだろ、お前と結ばれることができたんだからさ」
「お前以外の奴になんて眼中にねぇよ、好きなのはお前だけだから」
「心配するなって。ずっと一緒に居るからさ。そんなに心配か? なら、約束をもし破っちまったら俺のことをズタズタにしていいからさ。そんなつもり毛頭ねぇけど!」
信じていた、信じていたのに。
愛していた、愛していたのに。
「愛してたのに……愛してたのにっ! このっ、このっ………!」
抉れた冷たい血液が口から体内へ入る。
それでもお構い無しにずっと刺し続ける。
愛していたのに、愛していたのに。
ずっと……