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第34話 保険

 学園祭での決勝戦が終わった翌日。


 この日が学園祭の最終日だった。

 ただ、前日までより登園する生徒は圧倒的に少なく、前日までの賑わいはなかった。

 前日に現れた魔族のことが影響していることは間違いない。


 そして――。

 ルティスとクララは、理事長室へと呼ばれていた。


「昨日、あんなことがあって戸惑ったと思うが、優勝者は参加資格が無かったとみなす。よって、規定に基づいて『クレセント・グローリー賞』は繰り上げで、準優勝だったルティス君へと贈ることに決まった。……おめでとう」


 学園の理事長でもあるセドリックから、正式にルティスが優勝者に決まったことを告げられる。

 しかし、セドリックはそのあと苦い顔をした。


「……とはいえ、準備していた盾は残念だけど壊れてしまってね。近々代わりのものを準備するから、それまで待って欲しい」


「はい、承知しました」


 ルティスもそれはわかっていた。

 一度テオドールに渡された盾は、その後の戦いのときに床に転がっていた。

 そしてその後の激しい戦いだ。

 無傷で残っている方がおかしいだろう。


「……ただ、運良く腕輪は無事でね。――アリシア」


「はい、お父様」


 セドリックに促され、アリシアがしっかりと頷く。

 そして、その手に握りしめていた腕輪――婚約者候補としての――を、そっとルティスに手渡した。


「……おめでとうございます、ルティスさん。私も嬉しく思います」


「お嬢様……。ありがとうございます」


 手渡したあと、その手を両手で包み込むように握りながら、アリシアは柔らかく微笑む。

 昨日の表彰式でテオドールに渡そうとしていたときとは全く違い、本当に嬉しそうな笑顔を見て、ルティスはようやく自分がやり遂げたことを実感した。


「……次に、クララ君には準優勝の盾を贈ろう。……こちらはちゃんと残っていたよ、ははは」


 乾いた笑いを見せながら、セドリックは次にクララを手招きする。

 ゆっくりとセドリックに近づいたクララは、小さな準優勝の盾を受け取り、セドリックと握手を交わした。


「ありがとうございます。引き続き、鍛錬に励みます」


「うむ。いい戦いぶりだった。おめでとう」


 ――こうして学園祭は終幕を迎えた。


 ◆


 そして――。

 その夜、学園から帰ったあと、ルティスが使用人服に着替え、部屋で仕事の準備をしていたとき。


 ――コンコンコン。


 扉がノックされる音が部屋に響いた。


「はい、開いております」


 ルティスの声に応じて「ガチャリ」と開いた扉から顔を出したのは、メイド服を纏ったリアナだった。


「リアナさん……」


 優勝者となることが決まってから、ルティスはリアナとは話ができていなかった。

 時間がなかったということもあるが、話をすることが怖かったという理由もあった。


 リアナはいつもの澄ました表情のまま、口を開く。


「……ルティスさん。改めておめでとうございます。あと、私と……お嬢様の頼みごとを叶えてくださったことには、お礼の言葉もありません。本当にありがとうございました」


 そう言って、深く頭を下げたリアナは、顔を上げるとほんの少し口元を緩めた。


「いえ……。全て、リアナさんのおかげです。今までの自分では、絶対に不可能なことでしたから……」


「……もともとルティスさんが持っていた才能ですよ、全部。それを引き出したに過ぎません」


「でも――」


 リアナは軽く手で制して、続けた。


「……優勝者ですから、自信を持ってください。ルティスさんはこれからもっと成長しますよ。……私が保証しますから」


「……はい」


 彼女にそう言ってもらえることが嬉しくて、ルティスは深く頷いた。

 リアナは少し間を取ってから、ゆっくりと話し始めた。


「……それで、本題ですが。……これでルティスさんは、お嬢様の婚約者です。つまり――これからの私は、お嬢様とルティスさん……いえ、ルティス()に仕える立場へと変わります」


「え……!? まだ『候補』というだけでは……?」


 一足飛びにそう言われても、頭の混乱が収まらなかった。


「……あくまで『候補』としたのは、前にもお話しした通り、ルティス様以外が優勝した場合の()()です。ルティス様が優勝した場合は、最初からそのつもりだったんです」


「そうだったんですね……。でもなんで俺が……」


「それはお嬢様に直接聞いていただければと。婚約者なのですから、堂々と聞けるでしょう?」


 あくまで淡々と話すリアナを見て、ルティスはどうしても胸のざわつきが収められなかった。

 しかし、ここでそのまま流れに身を任せてしまうわけにもいかなかった。


「――ちょ、ちょっと待ってください。お嬢様と婚約するかしないか、俺の意思が入る余地は無いんですか!?」


「…………? お嬢様のどこに不満が?」


 予想外の話だったのか、リアナは困ったような顔をして、首を傾げる。


「不満は……ありません……けど……」


「なら、何も問題ないのでは……?」


 聞き返すリアナに、ルティスは「ごくり」と唾を飲み込む。

 緊張で胸が高鳴るのがわかるけれども、これまでずっと考えてきたことを伝えるのは、これが最後の機会だと思って。


「……お嬢様に不満はありません。俺もお嬢様のことは好きです。……ですけど……。……本当に、一番だと思っているのは……リアナさん、貴女なんです……!」


「…………ッ!」


 勢いで言い切ったその言葉を耳にして、リアナはびくっと身体を震わせ、息をのんだ。

 そして、小さく首を振り、後ずさるようにしながらも、何も言葉を発することができなくて……。


 ――ルティスはそんな彼女を掴まえるように駆け寄り、その小柄な身体を強く抱きしめた。


「――だ、ダメですっ! わ、私なんかを……っ!」


 リアナは最初こそ振りほどこうと身を捩ったが、すぐにその力は抜け――やがてだらんと腕を下げて、身を任せた。

 そんな彼女の耳元で囁く。


「……リアナさんは、俺のこと嫌いですか……?」


「…………そ、そんなこと、あるわけない……です……。……でも……でも……それはダメなんです……」


 ルティスの腕の中で、リアナはかすかな声で呟く。


「……それは、なぜですか……?」


「…………」


 ルティスが聞くが、リアナは黙って口を開かない。

 それはわかっていた。

 簡単に言えるものなら、すでに話しているだろうから。

 しかし、ルティスも諦めるつもりはなかった。


「……リアナさんが教えてくれるまで、離しませんよ? ……どうしてもダメだと言うなら、俺を氷漬けにでもしてください」


 それを聞いて、リアナは小さく「はぁ……」とため息をつく。


「……相変わらず、ルティスさんは本当にしつこいですねぇ……。…………いいでしょう。教えますよ。……でも、それを聞いたら……もう後戻りはできませんよ? それでも良いんですか?」


「はい、もちろんです。……そのつもりじゃなかったら、最初から聞いてません」


 もう一度ルティスの覚悟を確認したリアナは、自分にも言い聞かせるように、ゆっくりと口を開いた。


「…………私は……私はムーンバルト家の()()。……つまり、お嬢様の予備なんです。だから……私が一番になってはいけないんですよ……」


「……『予備』というのは……?」


「……もし、お嬢様になにかあって、ムーンバルトの血筋が途切れるようなことになったなら……その代わりを務めるのが、生まれる前から私に定められた役目です。……当然、何もなければひっそりと消えていかないといけない。ただ……それだけの存在なんです」


 その話を聞いて、ルティスにはなんとなく確信めいたひらめきがあった。


「……リアナさんは、もしかして……お嬢様の……」


 リアナは顔を伏せたまま、こくりと小さく頷いた。


「……はい。私は……妹なんです。お嬢様と母が違いますが……」

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