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第168話 会議直前

 その後、ダスティリオの指示により、ドルーファートが動員した多くの魔族の協力で、船員たちは食糧などと共に全員ヴィオレッタの城へと集められた。

 そしてイリスも護衛する仕事がなくなり、いったん休暇を与えるということになった。


 守護者会議が近づくまでということで自宅にて休んでいたイリスは、本日久しぶりに城に顔を出していた。


「イリス、どう?」


 厨房に来たイリスに向けて、料理の手を止めたヴィオレッタはそう尋ねた。

 この場にいるのはヴィオレッタの他にはリアナだけで、いまはどうやら間食のためのおやつを作っているようだった。


「どう、と言われましても。なにがですか?」


「ええっと、ゆっくり休めたか? ってコト」


「あぁ、そうですね。久しぶりに昔を思い出しましたよ」


 ヴィオレッタはイリスの話が理解できなかったのだろうか、ぽかんとした顔で首を傾げた。

 しかし、そのタイミングですかさずリアナが指摘する。


「ほらほら、そこで手を止めると温度上がってしまいますっ。早くしないと焼き上がりがベチャベチャになりますよっ?」


「ああっ。ご、ごめんなさい」


 慌てて手に持っていたボウルの撹拌を再開するヴィオレッタに、イリスは「ふふっ」と笑う。


「……さっきの意味は、以前のヴィオレッタ様はほとんど寝てましたから、いつも暇でしたってコトですよ」


「ふ、ふーん……。それは……色々ごめん」


 今度は手を止めずに答える。

 ただ、視線は少し泳いでいて、明らかに戸惑っているのがわかった。


「あー……」


 それを見たイリスは、バツが悪そうに頬を掻く。


「……えっとですね、それは忙しくて困るとか言ってるわけじゃないです。むしろ、昔は暇で暇で……時間潰すのに困ってたくらいですから。やること多い方が気が楽ですよ。……無茶ぶりは困りますけど」


「……あぅ、ごめんなさい」


 イリスはフォローしたつもりだったが、ヴィオレッタは更に困ったような顔を見せた。

 どうしたものかと思ってリアナを見るが、両手を広げて首を振った。


 これまでイリスがよく知っていたヴィオレッタと違っていて、話がかみ合わない。


「あの、ヴィオレッタ様? なんか悪いものでも食べられたんですか? 体調が悪いとか」


「そんなことはないけど……。なんで?」


 思い当たるところもなかったヴィオレッタは、逆にイリスへと質問の意図を問いかけた。


「だって、突然起きてきたかと思うと、無茶ぶりするのが普通のことですから。急にふらっといなくなったり。それにそれを悪いとか思ったことないでしょう?」


「うん……」


「私もヴィオレッタ様はそういうものだって思って慣れてますから。気にしないでください」


 なんで自分がフォローしないといけないのかと、なんとなく釈然としない想いはあった。

 ただ、自由奔放な彼女を見慣れている自分にとっては、どうにも調子が上がらない。


「うん、ありがとう。……イリスはこれからも近くにいてくれるよね……?」


 相変わらず不安そうなヴィオレッタの問いに、イリスは頭を抱えた。


「そりゃ当然でしょう? ヴィオレッタ様を放っておいたら大変なことになりますから。そうならないようにちゃんと見張りますから、お覚悟ください」


「ん、わかった」


 ようやく満足そうに頷いたヴィオレッタだったが、また手を止めているところを睨むリアナの視線に気づいてビクッと身体を震わせたあと、慌てて作業に戻った。


 ◆


「で、どーすんだ?」


 たまたま顔を出した城の食堂で、ちゃっかりとケーキの余り物にありついたドルーファートに尋ねられたヴィオレッタは、キョトンとした顔を見せた。

 先ほどまでアリシアたちもいたけれど、たまたま片付けに席を立った人タイミングを見計らったようだ。


「ふゆ? なんのこと?」


「そりゃ、会議さ。今回は色々あんだろ? そもそも人間が城にこれだけいるんだ。その時点で一悶着あるってことくらいわかるだろ?」


「んー、あんまり考えてないけど。いちおー考えてはみたけど、よくわかんないし」


「…………」


 なるようになるだろうと考えるヴィオレッタと対照的に、ドルーファートは頭を抱えた。

 確かにある意味彼女の言う通りでもある。

 他の守護者がどう意見するかは正直読めない。

 しかし、何を言ったとしても、彼女のほうが実力も立場も強い。

 これまでなら何人か意見が揃えば彼女が折れることもあったが、父親で魔王のダスティリオが後ろ盾になる今回はおそらく変わってくるだろう。


 とはいえ――。


「そう言ってもな、そもそも何がしたいのかくらいはちゃんと教えろよ」


 それを聞くためにわざわざ上陸前に船に顔を出したのだ。

 その時ははぐらかされたが、少なくとも彼女はなんらかの意図のもとで、こうして多くの人間を連れてきて、魔王の封印を解くという行動に出たのだろうから。


 しばし考え込んだヴィオレッタは、周りを見てから小声で言った。


「……わたくしは、本当の意味で戦争を終わらせたいの。人間を襲う魔族がいなくなるように」


「そりゃ、大層なことだな。魔王様を封印した人間達を恨んでる魔族も多いからな」


「だからこうして封印を解いてもらったの。これが最初の一歩だから」

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