配達人、転勤する2
「ジン殿下、部下より伝令です。
アスカ殿が両親のところへ行きたがっていると」
護衛隊の男がゆらりと告げる。
その伝令どうやった?誰も現れてないよね?
「うむ、連れてくるがよい」
ジンの代わりに国王が返答する。
「は」
そのすぐ後、ドアをノックする音と、
「国王陛下に申し上げます。エリクセンよりの客人、アスカ殿をお連れしました」
との申請があり、侍従がドアを開ける。
「ひめさま!」
アスカは一目散にジジに駆け寄り、
「あすたが起きた!」
と告げた。
「あのね、ちょっとだけお口貸してって言ってたから、今からあすたに貸すね」
突然の爆弾発言である。
「え、ちょっと待って、」
「久しいの、リベラの」
「あーもう替わった!記録!筆記具を用意して!」
慌てているのはウォルトである。
「久しい、とはこちらは中々言い難いですが」
「それはそうじゃな。聞いておるじゃろうが、儂は精霊王アスタリス。
リベラ王宮の力を少々借りておるぞ」
「我が王宮の力?」
「なんじゃ、知らんのか。この王宮の地下にほれ、あるじゃろ。
あそこを掘ってやったのは儂じゃでな。儂の力の残渣がいまだにあるんじゃ。
おかげで直接喋れるわい」
「国宝への配慮に感謝いたします。
で、どういった要件で?」
「うむ、王妃ナタリアよ、ジゼルの帰国への助力に感謝する。
情けないことに儂はこの通りこんなにちっぽけになってしまっての。
ちいとジゼルに手伝いをして欲しかったんじゃ」
「あの、精霊王よ、よろしいでしょうか」
ウォルトが勇敢にも発言する。
「申せ」
「そのお役目、ジゼル姫でないといけないものでしょうか?」
「そちの言いたいことはわかるぞ。
しかしじゃな、儂の力を一番理解し使いこなせるのはジゼルじゃ。
それに、儂の親友の作った国を一番深く理解し愛しているのも、またジゼルじゃと儂は知っておる。
ずっと、見ておったからの」
アスタリスはじっとジジを見る。
精霊王直々のおほめの言葉に感動する。
魔法を使うとき、常に自分の周りに温かな何かを感じている、とは思っていたが、
言葉にして見ていた、と言われると嬉恥ずかしである。
「それに」
「それに?」
「今王城にいる奴らが気に食わん」
「………」
「奴らをぶっ飛ばすのはジゼルが適任じゃろうて」
「おお…精霊王よ…」
サリーの「Oh my god」が炸裂する。
リベラ国王夫妻はニヤリが止まらない。
「で、じゃ。ジゼルよ。
王城へ侵入する手筈は整ったようじゃが、その前に儂も、そちを守るくらいの力は蓄えたい。これまでそちを探したり、アスカに情報を与えるために使っていた力を使えば賄えるはずじゃ。だが時間がいる。儂はこれからアスカの傍で完全な睡眠状態に入る。準備が出来たらアスカを通じて連絡を取るが、数か月はかかるじゃろう。
その間、王城へは出入りせんほうがいい。あそこはもはや良くないもので満ちておる。その代わり、ジゼルには国中を見て回ってほしいのじゃ。
国がどう変わり、何を欲しているか。それをジゼルには直接見てほしいと思うておる」
「国中を…」
「うむ。幸い今のそちの相棒は強く優しい。
そちを支えてくれるじゃろう」
「その通りですよ姫様」
護衛隊の男が言う。
「おぬしではないわ。竜のほうじゃ」
「ちっ」
「おぬしもまあ、弱いとは言わんが」
「当然です」
「あなた、精霊王に対しても不遜ですね…」
サリーがもはや尊敬のまなざしを護衛隊の男に向ける。
「国中を、セシルと…」
「うむ。エダもかの竜の瞳を通じて見ておろう」
「エダ?」
「始祖の竜の名よ。ジゼルよ、すべてのエダの子竜たちがそちの味方じゃ。
存分に飛び回るがよい」
王妃ナタリアが手をぱん、と打つ。
「では、こうしましょう。
飛竜運輸局は上空からの地理を把握しないことには運用不可能。
また各地域の安全な場所に竜の着陸地点を設定する必要もある。
円滑な事業導入のため、調査と準備期間として配達人が自由に飛び回る許可をもぎ取りましょう。
その期間は配達人はリベラから飛び立ち、リベラに帰る」
「それでよい」
すぐさま国王承認が下りる。
「あとひとつ頼みじゃ」
「なんでしょう、精霊王」
「儂に新たな依り代を用意してほしい。アスカを危険にさらしたくないでな」
「それはご希望のままに。どんなものがよろしいのか?」
リベラ国王が問う。
「可能なら飛べるもの。卵で産まれるものがよい。人間の言葉がしゃべれるとなお良い」
「そんなものいるわけないでしょう!」
「いえ、聞いたことがあります」
進言したのはスター商会頭目、グリフォード・スターだ。
「ずっと南のほうの国に、人間の言葉を話す鳥がいると。
とても大きく、人懐こく、鮮やかな羽根色をしているそうです」
「ほほ!それはいいな!手に入れられるか?」
「ご所望とあらば、手を尽くします。卵の状態をご所望で?」
「うむ、それがよい。任せたぞ」
「承りました」
「ついでにオリハルコンを大人の両手いっぱいくらいのサイズで欲しい」
「な、なかなか高価なものですが…尽力致しましょう」
リベラ国王が口を挟む。
「スター商会よ、それはリベラ王家の依頼ということにしよう。
請求書はこっちに回せ、支払いもしよう」
「ありがたき幸せ」
金銭問題は解決である。
アスタリスはアニス夫妻に向き直り、静かに告げた。
「あと、アスカを大切にな。彼女は両親が大好きじゃ。
儂もいつも温かく抱きしめてくれるそちらを、もう両親と思うておるぞ」
「あ、ありがたき幸せ…!」
「なんと恐れ多いことでしょう…!
「もうしばらく、そちらの娘の元にお邪魔する。よろしく頼む」
「しかと承りました」
そしてアスタリスはぐるりと見渡し、
「では、儂はもう眠る。
皆の者、力を貸してくれて感謝する。
また会おう」
そして――――
「あすたのおはなし、おわり!」
アスカが、戻ってきた。




