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配達人、転勤する1

「僕は姉姫様の決断を支持します」


ジンはジジの肩を抱き、国王夫妻に向きなおる。


「儂らも同意見だ」

「そうよジゼルちゃん、やっちまえばいいのよ」

国王夫妻は若干既に戦闘モードだ。


ウォルトが慌てる。

「しかしジゼル姫がエリクセンに潜入するのは危険だと」

「いや、ジゼル姫の悪評が立った時に出回った姿絵だがな、あれはなかなか傑作だったぞ。

 印象を落とそうとしすぎて、逆に本人に全く似ても似つかんのだからな。

 本末転倒そのものよ。

 髪型を変えて顔に目を引くような装飾物をつければ、意外と誤魔化せるかもしれんぞ」

「徹底的に顔を変えましょう」

「ウォルト、お手柔らかにね…」

「それとねジゼルちゃん、人にとって最大の化粧とはなんだと思う?」

王妃がジゼルに問う。 


「最大の化粧?…整形魔法?」

「ここは魔法のない国リベラよ。答えはね」


王妃ナタリアは一枚の書状をジゼルに手渡す。


「『身分』と『肩書』よ」


書状にはこう書いてあった。

『飛竜輸送局 エリクセン王国支店の誘致について』


「ジゼルちゃん、

あなたはリベラ王家の後ろ盾を持つ「王宮配達人」として、エリクセンに行くのよ」




王妃の話はこうだった。

以前から王太子妃候補アデル・モルガン嬢の名で、飛竜輸送局のエリクセン支店を作らないか、と打診が来ていたとのことであった。事業の推薦人にはエリクセン国王太子ジェフリー・リー・エリクセンが名を連ね、一介の事業提案書とは片づけられない外交事案になっていたらしい。

事業内容は「エリクセン国内での貨物の輸送、要人の護送」、事務局設置予定地はエリクセン王宮、とある。



「要人の護送?」

「要は、誰のことかは分からないけれど、飛竜を『要人』の足にしたいようなのよね。ご丁寧に配達人は女性をご希望よ」

サリーも横からずいと顔を出す。

「事務局を王宮に設置…アデル・モルガン嬢は輿入れもまだだというのに、王宮を私有地のように使っているという訳なのですね。エリクセン王宮の構造上、一般人の利用はまず難しいでしょうね」

「まあ、エリクセン支店という名の、『要人』専属馬車のようなものよ」

「よくこんなものを寄越してこれましたね、意図がスケスケじゃないですか」

ジンは心底呆れ顔である。


「本当に呆れてしまって、どう言って突っ返してやろうかと思っていたけれど、

 逆に利用させて頂くことにしましょう。

 ジゼルちゃん、改めて言うけど、「王宮配達人」はリベラ国では選ばれし者よ。

 彼ら全員に王家の後ろ盾があると見なしていいわ。

 あなたは我が国で産まれ育った、正当なリベラの民として、

 エリクセンに堂々と、正面から入ってやんなさい。

 その肩書とリベラ王家の名が、あなたを守るわ」

「王妃様…これほど心強いことはありません。

 もともとエリクセン王宮は私の実家よ。

 これ以上、彼らの好きにさせるもんですか」

「その意気よ。

 出勤日はエリクセンの宿舎に寝泊まりが必要だけれど、 

 幸い勤務は日中のみで、休日はリベラに帰還可能だそうよ。

 あなた以外にも女性の配達人を数人付けるわ。

 飛竜輸送局は私の管轄だから、エリクセン支店の状況報告として時々作戦会議をしましょう」



「う…ううぅ~~…」

異様な声に驚き振り向くと、サリーが肩を震わせて泣いていた。

「ど、どうしたのサリー?!」

「だ、だって、姫様が私の目の届かないところで生活なされると思うと…

 心配で…!」

「こっちだってそりゃそうですよ!!自分の知らないところで姫様に何かあったらと思うと…!」

今度はウォルトまでプルプルし始めた。


それはそうだ、王女時代から亡命者としての現在まで、この二人は常に一緒だった。

ジジだって二人と離れるのはつらい。

休日には会えるとはいえ、これから身を置くのはもはや敵国となってしまった祖国だ。

いつ今生の別れになるとも知れない。


「それでも、私はやらなきゃ」


自分が国を捨て逃げたこの3年間、祖国で耐え忍んだ者たちがいる。

それを知らないふりをすることはできない。



「ご安心ください、姫様は私がお守りします」

音もなく進み出たのは黒衣の護衛隊の男である。

「ジン殿下、ご命令を」

「ああ。『靴底』、エリクセンでも変わらず、姉姫様の護衛を」

「御意、かならず」


「姉姫様、僕からも贈り物を」

「なあに?」


ジンはジジと向き直り、首筋に両腕を回す。

ハグをするような無駄に近いその距離にどぎまぎしたジジであったが、ジンが離れたその首元にはシンプルな棒状のチャームのついた首飾りがあった。



「これは『竜笛』、思いっきり吹くと竜にしか聞こえない音が鳴るものです。

 どれだけ離れていても、竜はこの音を聞き分けることができる。

 この笛が吹かれたならばすぐさま、リベラ竜騎士隊は総力を以て出陣します」

「ジン…ありがとう…」

「アニスご夫妻は、アスカを連れ帰国を。

 鉱脈への侵入の目途が付き次第、何らかの方法で連絡を」

「それでしたら!」

アニスの夫が進み出る。


「私どもは商会を営んでおります。

 この旅行をきっかけにリベラ国との販路を得たこととして、

 商品の輸送と共に連絡を取り合うのはいかがでしょう」

「うむ、それはよい。商会の名は?主要取扱品目はなんだ?」

王が問う。

「は、私どもはスター商会、村で養蚕を営み絹織物を製造・販売しております」

「ちょっと待って、スター商会?大商会じゃない」

ジジは目を引ん剝く。知ってるぞ、スター商会。


「以前の王家の皆さま方にもご贔屓にして頂きまして」

「どうりで言葉遣いも洗練されているし、王族の前でも割と動じてなかったわけね」

「いえいえ肝が冷える思いでございました」

アニスの夫、もといグリフォード・スターは商会の名刺を国王に献上する。


「うむ、スター商会よ、今商品はあるか」

「使い古しではございますが、私のスカーフが庶民向け商品のひとつでございます!」

アニスがスカーフを解き、侍従に渡す。

それを検分し、国王夫妻は頷き合う。

「相分かった。ちと実績を調べてからにはなるが、スター商会よ、リベラ王家御用達の称号を授ける」

「ありがとうございます!」



夫妻は嬉しそうだ。

良かった。この旅で何かひとつで嬉しい収穫を持ち帰ってもらえそうだ。


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