祖国の異変2
話の区切りで短くなりました…
「彼らは隠匿魔法のかけられた魔法石の鉱脈を、何らかの方法で現王家から隠し続けている、
と考えられる。
彼らは現王家に抵抗し続けているのだ」
ジジの脳裏に最後に見たフィンの泣き顔が過ぎる。
『この屋敷も、セスも、隠し続けてやる』
そういったフィンの力強い言葉が、耳の中で響く。
「この3年、エリクセンでは魔法石の機能不全が疑われるにもかかわらず、
ろくな改修が行われた試しがない。工房村がストライキをしていると考えている」
「ストライキ…そんなことをしたら、彼らの命が危ないわ!」
「うむ。
もうひとつ知らせておこう。
今から2年前、かの客船事故の喪が明けてすぐ、エリクセン王国政務部で提案された計画がある。
『エリクセン拡充計画』…その実は『魔法兵器開発計画』だ」
「はあ?まさか魔法兵器を使って領土拡大を目指すとか言うんじゃないでしょうね?
国境を越えたら魔法兵器なんてただの鉄の塊なのに」
「えっ」
アニスが驚いた声を上げる。
「えっ?」
「あのねアニス、知ってると思うけど、魔法石は国境を越えたら働かなくなるのよ。
遠い昔にアスタリスが自分の力の及ぶ範囲を決めたから」
「知りません!そうなんですか?」
「ああ…姫様、このことはあまり知られていませんよ。
例の街灯での見張りのお陰で、魔法石が国境を超えること自体がなかったものですから。」
ウォルトが補足説明をしてくれる。
「…まさか、現王家がこのことを知らないはずないわよね?陛下」
「…知っていたらこのような馬鹿げた計画は出ないと思うぞ」
「他の大臣たちもいるでしょう!国が精霊の力の仕組みを全然理解してないじゃない!」
「現王家は愚かにも、国境をずらせばそこに合わせて精霊の力はついてくると思っているようだな。
反発する者は次々と罷免、左遷、ひどいと処刑。まさに独裁政治だな」
「馬鹿じゃないの!」
「さよう、馬鹿なのだよ。
実際はこの計画は全く前に進んでいない。
その理由として玉座に報告されたのが『魔法石がない』だったそうだ」
ジゼル姫よ、そのようなことは考えにくいのだろう?」
「あり得ないわ。
鉱脈は地質の中に魔法石が紛れ込む類のものではなくて、その空間すべてが魔法石でできているもの。
採掘できないなんてことはあり得ない」
「ああまた国家機密…」
アニスの夫はこれ以上聞きたくなかった、と言う顔で頭を抱えている。
「であるからして、我が手先の者は工房村の職人たちがうまく鉱脈自体を隠していると考えたようだ。
とはいえ、いつまで保つかは分からんがな」
フィンが踏ん張っている。
ジゼル姫として親しんだ工房村のおっちゃんたちが、孤立無援の中抵抗しているのだ。
精霊の力を悪用しようとする者どもに屈することなく。
ジジの中で炎が渦巻く。
家族を奪われた。国民を奪われた。
罪を負わされ、貶められた。
そして、ジジの愛した精霊の力、自然の力、魔法の力を、奴らは踏みにじろうとしている。
「それでは、外交手段で鉱脈の話を出すのは悪手だ。
抵抗している者たちの苦労が水の泡になる可能性もある」
「その通りだ、ジンよ。
ウォルトよ、この話を聞いてどう思うか」
「…ご無礼をお許しください」
「いや、そなたの主人を守ろうとする気概は評価に値する」
「姫様…」
サリーとウォルトが心配そうにジジを見る。
「行くわ」
「姫様!!しかし!!」
「エリクセンはまだ、生きている」
ジジは、いやエリクセン精霊国王家長子、ジゼル姫はきっぱりと言った。
「私が逃げる訳にはいかない。
エリクセンを、アスタリスの国を…取り戻す」