表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/20

幼女アスカの言うことには4

アスカが『クレヨンがほしいの、あと積み木』と要求したため、

一行は揃ってサリーの職場である王宮託児所の一室へ移動した。


「えっと、うまくお話できるかわからないけど」

「うん、ゆっくりでいいわよ」

「あすたは、ずっと一緒にいるおともだち。昨日夜、ひめさまと会ってからは寝ちゃった。

 今も起きてない」

「アスカ、あすたの姿は見える?」

「見えない。いつも声だけ。あといろんな景色を見せてくれる」

「あすた、ってちょっと紛らわしいわね。アスターって伸ばしてもいい?」

「うん、そっちのほうが合ってるとおもう。うまく言えないの」

「じゃあ、アスターね。アスターから何か伝言を預かってる?」

「うん」


そう言い切ったアスカは、

「ひめさま。あすたを助けてほしいの」

と続けた。


「あすたから聞いたことを言うね。

 あすたは、アスカが産まれた日に、しっぱいしちゃって小さくなっちゃったんだって。

 それで、たまたまひめさまの傍で産まれたアスカのところに来たんだって。

 あすたが大きくなるには、ひめさまがいないとだめだって言ってた。

 それで、いっしょうけんめいにひめさまを探してたんだけど、

 あすたはだんだん弱っていったの。

 それで、やっとひめさまを見つけたんだけど、いきなりすごく小さくなっちゃった。

 『国を出たからだ』って、あすたは言ってた」



アスカはわたわたと積み木を取り出し、

「ここがアスカのおうち。」

と、ひとつ積み木を置く。

「こっちが海。」

と、長方形の積み木をひとつ。

そのふたつをつないだ直線上、少し離れたところに、

「ここがお城」

と大きな積み木をひとつ。

「ここにたくさん木が生えてて、」

と城の積み木の隣をわさわさ、と手でジェスチャーする。

「それで、ここ」

そのわさわさ、の中にひとつ積み木を。

「ここにあすたを連れて行ったら、中くらいの大きさに戻れる」

「中くらい?」

「そう。中くらいだって言ってた。もっと大きくなるには、」


そういってさらにひとつ積み木を置いた場所は、

「海の中?」

「そう」

「ここに連れていってほしいの?」

「ううん、海のほうはあすたも入れないって言ってた。せめて中くらいにならないと無理なんだって」

「どうやったらアスターを連れて行けるの?」

「わからないけど、あすたはいつもアスカといっしょ」



なるほど、とジンが口元に手をやる。

「これらが何を示しているか、もう少し詰める必要はありそうですが、大変分かりやすい説明で助かります」


ね、姉姫様。

と無駄にセクスィーな声色でぐいと近寄ってくるジンを押しのけ、


「ねね、アスカ。この積み木の場所は、アスターが見せてくれたの?」

「そう。寝てるときに、鳥さんみたいに空を飛んで、見せてくれる」

「そうなのね。他にも見せてくれたもので、覚えているものはある?」


うん、と頷き、クレヨンを手に取る。

スケッチブックに大きく書いたのは、

「ちょうちょ?」

「うん、ちょうちょ」


羽根を広げた蝶の隣に、大きな楕円形を書く。

アスカはそれを青く塗る。


「アスカ、これはなに?」

「わからないの。でも、ひめさまに書いてみせてあげてって言われた」

「うーーーーーん」

「あとね、これも伝えてって」

「なあに?」

「これから、失くしものをするひとが増えるよって」

「失くしもの…」

「あとね、昨日寝てるときに、たくさん男の人が連れていかれるのを見た」

「連れていかれる?どこへ?」

「わからない。でも、みんな嫌がってた」



それからアスカはうんうん唸るが、

「ごめんなさい、もうおしまい」

「いいえアスカ、よく頑張ってくれたわ。本当に賢いのね」

「ひめさま、あすたを助けてあげて」

「私に何ができるのかはわからないけれど、がんばるわね」





「さて、情報を整理しましょうか」

アスカを託児所の先生に預け、大人たちは顔を突き合わせる。

「この積み木の位置が表すのは、エリクセン王国内の地理でよろしいですね」

「ええ、そう思うわ。ジン、エリクセン王国の地図はある?」

「『靴底』、用意を」

「御意」

黒衣の男が音もなく姿を消す。


「ねえ、さっきから何?『靴底』って」

「ああ、彼奴は名乗る名がないとか言うので、嫌みのつもりで『靴底とでも呼んでやろうか』と言ったところ了承したんです」

「ああ…」

「身体も薄くてぺらぺらしているし、意外と似合いの名前だったなと我ながら感心していますよ」

「あなたおおよそ欠点が見つからないと思ってたけど、ネーミングセンスに難ありとはね」

「そうですか?嬉しいな」

「褒めてないわよ」



と言っている間に地図が到着し、アスカが並べた積み木の隣に広げられる。


「まずは…アニスたちの村はどこかしら?」

「こちらです、姫様」

地図にアニスがピンを立てる。

「で、海っていうのが港町と考えると、角度は…合ってるわね。」

「次のチェックポイントのお城、が王城と考えると…驚きましたね、縮尺までほぼ正確だ」

いつの間にか尺を持ってきていたウォルトが、村から海までの距離、村から城までの距離、また海から城までの距離を測りながら言う。


「では、アスタリスが「中くらい」になれる場所、というのは?王城の近くのようですが、姉姫様、心当たりはありますか?」

ジンの問いに、ジジは深く頷く。

「アニス、ご主人、巻き込んでごめんなさい。今から国家機密の話をするわね。

 嫌なら耳を塞いでいて、と言いたいところだけれど、あなた方の娘さんはここに連れて行く可能性があるわ」

「ええ姫様、私たちもさすがに覚悟を決めました。

 可愛いアスカの願いですもの、どんとこいですわ」

「ありがとう。…では言うわね。

 ここは魔法石の鉱脈よ。

 建国の祖が精霊王アスタリスから示された、魔法石が常に産み出される鉱脈。

 ここを中心に我が祖先は城を建て、森を作り、城壁で囲んだの。

 精霊国エリクセンの根幹そのものよ」

「魔法石の鉱脈…」

「やはりそうですか」

ジンはふむ、と顎を上げる。だからなんだその色気。



「それは半分予想が付いていたのであまり驚いてはいないのですが。

 問題は次です。

 アスタリスが『大きく』なれる場所…縮尺と角度が正確だと考えると、

 それは恐らく」


タン、と音を立て、ジンは地図上にピンを刺す。


「『竜の巣』です」




「『竜の巣』…」

『竜の巣』。激しい海流と風が囲み、入ったら二度と出られない島。

家族と多くの国民を乗せた大型客船が、その命ごと潰えた場所。

魔法が発動しない、絶望の島。



「それは無理だわ…」

「飛竜でもあの島には近づけません。強い風に耐えられない」

「じゃあどうやって?あの島では魔法石も働かないわ」

「…船も無理、飛竜も無理、魔法も無理…手詰まりですね」



沈黙が落ちる。



「ま、とりあえず鉱脈に行くしかないんじゃないですか?

 精霊王も中くらいには戻れるんでしょ」

『靴底』とも『屋根裏殿』とも言われた男があっけらかんと言う。


「そのようですね。姉姫様、どうされますか?」

「アスタリス直々のご指名とあれば、行くしかないんでしょうけれど…」


「あの!!!」

大きな声を上げたのは、アニスの夫だった。



「あの…姫様がエリクセン王国に入られるのは…危険かもしれません」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ