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幼女アスカの言うことには3

リベラ王宮での朝。


広大な敷地を利用した平屋建ての王宮の大食堂では、異様な雰囲気で朝食を摂る一団があった。


「ね、リベラのチキンはスパイシーで美味しいでしょう?私イチオシなの」

「確かに、美味しそうに見えますが、ジジ様…」

「はっきり言っていいのですよ、アニス」

「味がまったくいたしません」

「でしょうねぇ…」

「ママ、このプリンしょっぱいよ!」

「ああ、アスカこぼすんじゃない!」



マイペースに食べ勧める元王族ジジ、

リベラ王都での初めての食事を王宮で味わうことになった哀れな平民アニス夫妻、

彼らを唯一気遣うサリー、

蒼い顔の両親を全く意に介しないアスカ、

そして。



「あの、もう顔を隠す気は失せたわけですか?」

「もともと顔を隠すことにそこまでの利はないので」



怪訝そうなウォルトと、

昨夜の護衛隊を名乗る黒衣の男(声と身丈から判断)が、向かい合ってのんきに珈琲を飲んでいる。



ジジもさすがに気になったようで、恐る恐る話し掛けている。



「ねえねえ、あなたいつから私のこと見張ってたの?」

「あなたが我が国にいらしたその時から。」

「いつもどこにいたの?」

「あらゆる場所の死角に。」

「死角?例えば家では?」

「あなたの家の屋根裏に隠し部屋があります」

「うそでしょ」

「私室として利用しております」

「知らない間に四人暮らしだったの!?

 いつそんな部屋作ったの!?

 借家のはずなのに、あそこ」

「もともとそういう間取りの物件なのですよ」

「信じられない…何の用途よその部屋…」



ジジは頭を抱えて呆れてしまう。

長身に灰色のパサついた髪を揺らし、くつくつと黒衣の男が笑う。



「で、これからも私の傍にいるの?」

「当然です、我が主の望む限り」

「じゃあ…せめて何て呼べばいいか教えてよ」

「私に名乗る名はありません」

「なら屋根裏殿って呼ぶわよ」

「それで結構です、なかなかいい名ですね」

「嫌味のつもりで言ったのに!!」



屋根裏殿(仮)はまたくつくつ笑う。

こいつ結構表情豊かだな。


忠実なる(元)侍女サリーは思う。

変な奴を抱えてしまった、と。



ーーーと、不意に大食堂の背の高い戸が開く。



「おはよう諸君、お楽しみ頂いてるかな」




現れたのは左腕に竜の名残を持つ、記憶よりずっと背が伸びた…


「ジン!見違えたわ、久しぶりね!」

「ええ姉姫様、ご無沙汰しております。

 姉姫様はお変りありませんね」



18歳になったリベラ竜国第二皇子ジンである。



そんなことを知る由もないアニス夫妻がどう対応したものかと困惑しているため、

「第二皇子、ジン・リベラ殿下です」とサリーが助け舟を出す。



可哀想に、「ヒッッ」と声をにならない声を上げ弾かれたように椅子から立ち上がり壁に貼り付き膝を折る平民夫妻を見てカラカラと笑い、



「畏まらなくて結構だよ、あなたがたも大事な僕のゲストだからね」



と直々に肩を叩き、顔を上げさせ椅子へ座るよう促した。



恐縮しきりのアニス夫妻を尻目に、ジンはデザートの果物を頬張るアスカに向かい、



「やあ、君がアスカだね。リベラへようこそ。歓迎するよ、小さなレディ」


小さな手を取り、その甲に軽くリップ音を落とす。



「わぁ、おうじさま!」

「な、な、な…あなた…!そんな破廉恥な子、ジンじゃない…!」

「3年も経つと色々と成長するのですよ。」



色々と、ね。

と長めの黒髪の影から気怠げな流し目をくれる様は、なんともセクスィーで…



「いやーー!ジンがセクシー系皇子になっちゃったー!フェロモンー!」



赤面するやら困惑するやらで忙しいジジの耳元にウォルトがそっと近付き、



「アレね、シド殿下がいないせいで公務が山程乗っかかってきて、単に疲れてるだけなんですよ」

「我が政務秘書は随分お喋りなようだ、なぁウォルト」

「ハイすみません」



確かによく見ると、目の下にはうっすら隈のような陰りがある。

眠れていない、というほどではなさそうだが、

ううーんさては眼精疲労…。



「シドはまだ戻ってないのね…私がセシルに乗り続けてる時点で何となく察していたけれど…」

「…兄様の公務については数年単位の時間がかかるかも、というのが我が王家の総意でしたから。

 それに定期的に報告は来ていますから、案じてはいません」

「そう…」



「それより」

「なあに?」

「姉姫様、あなた不用意にもろくな確認もせずに玄関を開けたらしいですね」

「ん?」

「全く何を考えているんですか、護衛隊を付けていてもあなたがイレギュラーな動きをしたら対応できない場合もあるんですよ、そもそも以前からあなたはうかつすぎる云々!!」



云々、の部分はもはやジジの耳には入っていない。

ああ、間違いなくジンだわ…

とゲンナリしているだけである。



「さて、殿下」

パン、といい音を立てて手を打ったサリーが止め処無い説教を止めに入る。

「本題に入りますか?」



こほん、と気恥ずかしさを誤魔化すように軽く咳払いをして、ジンは皆に向き直る。



「そうだったね、取り乱してすまない。

 まずは『靴底』、改めて報告を」

「御意。

 昨夜ジゼル姫の自宅にこちらのエリクセンからの家族連れが来訪。

 その足取りがあまりに迷いなく姫の元へ向かっており、有事と判断し応援要請を致しました」

「待って『靴底』って何?」

「その後彼らを事情聴取のため連行しようと致しましたところ、そちらの女児に阻まれました」

「まさか、このような小さなレディに遅れをとるお前ではあるまい」

「いえ、昨夜連行を阻まれた際、白い電撃のようなものを左手に喰らいました。その後丸一晩、左腕は何も感じず動きも鈍い状態でした」

「ふむ、エリクセンと違ってリベラでは魔法は発動しない。不可解だな」

「まさに。

 その後彼女の様子が尋常ではないことに気づきました。言葉の選び方、滑らかさがおよそ3歳児とは思われないほど老成しておったのです。

 そして彼女言うことには、自分の名はアスタリス、今は弱体化しアスカを依り代にしていると」

「この度は、愚娘がとんでもないことを言い出しまして…大変申し訳ございません…!」

「いや、軽々しく偽証とすることはできないよ。アスタリスの名を継ぐ正当なエリクセンの宗主の前でその名を名乗ることは、それほど重いことだ。

 それに、アスカはどこにジゼル姫様がいるかわかっていた、ということでいいのかな?」


ジンはアスカに努めて柔らかく問う。


「うん、あすたがみえてたの」

「あすた、というのは君のことかい?」

「ううん、あすたはおともだち」

「今は眠っている?」

「そう」

「あすた、がひめさまを探していたの?」

「そう」


「あぁ…そうだったのか…」

「アニスのご主人、どうしたの?」

「いえ、あすたが、と言うのはアスカがよく口にしていたのですが、てっきり自分の名の「アスカ」が上手く言えなくてそうなっていたのかと…」

「アスタリスのアスタ、だった訳ね」



ジジは昨日アスカがアスタリスの刻印を示したテーブルクロスを切り取って持参していた。

それをひらひらと手で遊び、ジンに渡す。



「姉姫様、そちらはいかがですか?」

「これでも祖国の歴史は誰よりも深く学んでいるからね。紋に間違いはないわ」

「そもそもどうやって印字しているのです?」

「詳しくは分からないけれど、インクじゃない。多分焼いているんだと思うわ」

「クロスの表層だけ、延焼もさせずに素手で焼き印をする…離れ業ですね」



ジジもなるだけ優しく、問いかける。


「アスカ、わたしたちに、あなたのお友だちのことを教えてほしいの」


アスカはしっかりこちらを見返し、頷いた。




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