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グレート・エリクセン号

2021年に書き始めていたもののを再連載始めました。

街灯の煌めく広場の隅、吟遊詩人が雄々しく、船歌を真似て歌う。




―――出会えや出会え、ようっく見ろ。


その姿は山のごとく、その汽笛の()は鯨の歌声。


夜の闇には煌めき踊り、朝の靄すら羽衣のよう。


どんな波をもかき分けて、どっしり優雅にその身を揺らす。


世界に誇る我が国の船は、乗せる客もが一等だ。


ようく見ろ見ろ、あれがグレート・エリクセンだ―――






夜の帳のすっかり下りたエリクセン王国の真新しい港で、


それはそれは大きく、豪奢で、力強い船が完成した。


それはまだ陸に座し、少しの灯りも灯さず沈黙している。






船首から船尾に走る竜骨には樹齢数千年という神木を使い、船体はこの国で最も丈夫な種類の木材で出来ている。客室の数は千を超え、そのひとつひとつに上等な家具が備えられている。もちろんそれらは航海の揺れに耐えられる特注品だ。


複数のレストランやサロンを持ち、デッキにはカフェテラスや展望台、南国の様々な植物を周りに植えた観賞用のプールが備えられている。船体中央には広大なダンスホールがあり、天井にはシャンデリアが煌めいている。






操舵室中央には小さな部屋ほどの大きさの魔法石が鎮座し、


そこから蜘蛛の巣のように、細やかで、かつ豊富な生活魔法が船中に張り巡らされている。


ひとたび魔法石が起動すれば、夜中でも廊下やホール、サロンの灯りは消えることなく、気温も快適な温度に調整される。バスルームでは魔法によって水やお湯が使えるし、厨房でも十分な火力が得られている。またエントランスホールにはひとりでに動くピアノがあり、いつでも軽やかな演奏を聴くことができる。




その船は、精霊国エリクセンが守り抜いてきた魔法石の鉱脈から、規格外のサイズの魔法石が採掘されたことをきっかけに作られた。


操舵室にある小部屋ほどの大きさのものがそれである。


賢王なるアルヴィン・アスタリス・エリクセンは、それが軍事利用されることを良しとせず、速やかに利用法を決めた。




国中の技術と財を注ぎ込み、多くの庶民の職となり生活の糧となり、木材を切り出した町やドックのある港町を潤したオール・メイド・イン・エリクセンのその船は、まさに明日、その体を初めて海へ横たえることになっていた。


記念すべきその処女航海は、王族を始め貴族や大商人、音楽や芸術、学問においての著名人、造船に携わった優秀な職人の代表たちなど、国中から選ばれた人々が一同に会しての3日ほどの航海となる予定である。




日頃の国への貢献への感謝を伝えるとともに、仕事も何もない海上で十分な休息を取ってほしい、という王からの計らいであった。


そしてその後は各国の要人を順に招き、この造船プロジェクトのスローガンである「精霊国エリクセンは他国に敵意なし」の象徴として働く予定である。






処女航海を控えたこの夜、街は静かで、しかしどこか生き生きとした高揚を孕んでいる。






――――その高揚の影で、小さく蠢く者がいた。




「いよいよ、明日だ。この日が来た…」


「ええ、ずいぶん長く待ちましたわ」


「しかし全てが変わる。変わるのだ」


「そのためにも、失敗はできませんわよ」


「その通りだ。こればかりは私自身、命を懸けるほかない。人事を尽くして天命を待つ…きっと天は私に味方する。」




大きな大きな船の下、小さな人影は闇に溶けていった。

イメージ:飛〇Ⅱ

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