第5M片 おみやげはスノードーム
可愛いですよね。
※noteにも転載しております。
「スノードームがいい。
空から降ってくるところは見られないけど、気分くらいは味わいたいしさ」
雪など見たこともないし、これからも見ることのないだろう南国に生まれたあたしが。
北国に出張するパパに、おみやげはなにがいいかと尋ねられて、ひねり出したこたえがそれだった。
「あんまり無茶言ってくれるなよ」
ところが、パパはこのこたえに不満なのか、あまり気がすすまないようであったりする。
自分から聞いてきたくせに!
「飛行機での帰りに割れちまうぞ?
てゆうか、そんなでかいものもってこられると思うか?
お父さんを困らせないでくれ」
「割れるって——ちゃんと包装してあれば、簡単に割れたりしないってば。どんな乱気流のなか、飛行機飛ばすつもりなのよ?
それに、でかくなくていい!
てのひらにのるくらいで、じゅうぶんなの! そんなにでかいやつ、もって帰ってこられても、あとが大変でしょうが!」
あれこれ難癖をつけて、それより手ごろな——名物のお菓子あたりですませようとしているのだろうか? パパはまだ、食い下がる。
「手のひらサイズって?!
あんなもの、そんなにちいさくつくれるものなのか?」
「なに言ってんの?
たしかに、でっかいのもネットで見たことあるけど、てのひらサイズのほうが主流だってば。
おおきいのしかないのって、パパの時代だけじゃない?
人類の技術は進歩してるのよ!」
あたしのことばにようやく納得したのか。パパは「努力してみる」と残して、翌日、飛行場へとむかった。
「ただいま。
スノードーム、ちゃんとおみやげにもってきたぞ」
一週間ほどの出張のあと、帰ってきたパパは、なぜか小脇に抱えるほどの、小型のクーラーボックスを肩からさげていた。
「ちいさいって言っても、もって帰ってくるのたいへんだったんだからな」
そう言って、クーラーボックスをあけると。
中からは、ちいさな。てのひらにのるほどの、雪でできたドーム——「かまくら」が。
「雪が降るところは見せてやれないけど、おまえにほんものの雪を届けてやりたくてさ。
こんなにちいさくつくるの難しかったけど、お父さん、がんばってつくったんだからな。
でも、かまくらかぁ。
雪だるまや、雪うさぎのほうがかわいくないか?」
「……ありがとう」
あたしは、せっかくのパパの気持ちとがんばりに水をさしたくなくて。せいいっぱいのつくり笑顔で、お礼を言った。
たしかに、かまくらはかわいくないが。パパが、ちゃんと「本物の」スノードームさえ知っていてくれれば、おみやげは雪だるまや雪うさぎに負けない、かわいいものだったであろう。
スノードーム——ガラスのドームの中に液体を満たし。容器をさかさにしてから、もとにもどすことによって、その中で雪を模した白い粉を、降ったり積もらせたりできるオブジェ。ファギュアや建物の模型が、雪景色に染まるのが、なんともかわいくて。
この南国では見かけないし、通販でも送料がやたらかかるため、あたしはおみやげにそれをねだったのだが。
パパのかんちがいのせいで、それは叶わなかった。
だが、このいびつなかまくら。
それを不器用な手で、なんとかつくりあげて。
クーラーボックスに、だいじにもち帰っててきてくれたパパ。
ちょっと——いや、かなり天然だけど、そんなとこもふくめて、あたしは嫌いじゃない。大好きだとか、愛してるとかまで言ってやれないのは、年ごろの女のコには照れくさいものなので、ゆるしてほしい。
そんなこんなで。
うちのでっかい冷蔵庫の、いちばんしたの段。
冷凍室のすみっこには、チョコモナカアイスの箱や、冷凍食品の餃子なんかに隠れて。
てのひらサイズのかまくらが、囲いをつくられながら、遺跡のように鎮座している。
スノードームの真実を、パパがお昼の情報番組で知ってしまってからも、ずっと。