第4M片 そい寝
閲覧注意は必要ないかと。
※noteにも転載しております。
「だれかに添い寝でもしてもらったら?」
夜中ひとりでベッドにいると、なんだか落ち着いて眠れないと零したわたしに、親友の遠山 春海は冗談混じりのようにそう言った。
ここは近場のショッピングモール。
買い物帰りの彼女とばったり会ったので、テナントのひとつであるコーヒーショップに寄ることにする。何を買い込んだのか、春海は膨らんだ紙袋をふたつもさげていたから、壁側の長椅子席を譲ってやった。
そして、おそろいで注文したソイラテをストローですするうちに、わたしはあるのことに思いあたったのだ。
「添い寝の『そい』って、ひょっとして、大豆の『SOY』のことなんじゃない?」
突然のことばに、また始まったかという顔の彼女だったが、わたしのひらめきは止まらない。
籾殻のように、枕に大豆が詰められているのか。
それとも、寝つきの良くなるように、あたたかい牛乳のかわりに、豆乳を飲んでから布団に入るのか。
あるいは、羊のかわりに、大豆がひと粒、大豆がふた粒——なんて数えるうちに、眠りにつくのか。
とっくに飲みきってしまったソイラテのストローを、わたしが齧りながら考えをめぐらせていると。
「あーあ、しょうがないなぁ」
ため息をつきながら、春海は紙袋のひとつから、ひとのあたまふたつぶんほどのサイズの、黄白色でまあるいものを取り出した。
「衝動買いしちゃったんだけど、これあんたにあげるわ。
ねえ、なんだかわかる?」
ノーヒントでなら、ひらめきの鬼と呼ばれた(誰に?)わたしでも、その難問に答えることはできなかったかもしれない。
でも、いまのわたしの頭のなかを占めているイメージが、この窮地から救ってくれた。
「大豆!
それ、大豆のぬいぐるみだよね!!」
興奮を隠せないわたしを落ち着かせようと、春海はゆったりとこたえる。
「そう。大豆のぬいぐるみよ。
これを抱いて眠れば、くっつくほうの『添い』も、大豆のほうの『SOY』も。りょうほうの『そい』がそろってるから、あなたも安心して眠れるはずでしょ?」
たしかにそうだ。
さすが、わたしの親友。とてもたよりになる。
ぬいぐるみのお礼に、せめてここの料金はおごらせてもらいたかったけれど、あいにくこの店は注文したときにお金を払うシステム。
わたしは、春海にありがとうと感謝の気持ちを伝えて、お礼はかならずするからと約束した。
あれから、実際に大豆のぬいぐるみを抱いて、ベッドに入ってみたのだけれど。その効果は絶大だったみたいで、私は安眠の毎日を送っていた。
ひょっとしたら、大豆以外の——たとえば猫や犬のぬいぐるみを抱いていたとしても、ぐっすり眠れたのかもしれないが、それはまあどうでもいいことだ。
わたしは春海に感謝して。約束でもあることだし、大豆のぬいぐるみのお礼に、彼女にプレゼントを贈るため。このあいだのコーヒーショップのあるショッピングモールに、足を運んでみた。
すると。
ある店頭に、見覚えのある色とかたちが。
ひとのあたまふたつぶんほどのサイズの、黄白色でまあるいもの。
これは、わたしが春海にもらった、大豆のぬいぐるみ——と思ったのだが。
どうやら、それはわたしの早とちりのようだった。
値段までは伏せておくが、いっしょに飾られたプレートには「ふんわり 丸型クッション」とだけ書かれていたのだから。
見ためはそっくりで、区別などつきそうもないが「大豆型 ぬいぐるみ」とは書いていないから、ちがうものなのだろう。
春海め。我が親友とはいえ、よくもまあ、あんな掘り出し物をみつけてきたものだ。
わたしは、偽者であるクッションには、もう目もくれずに。
彼女への、気の利いたプレゼントをさがすべく、ショッピングモールを彷徨うのだった。