第3M片 月見団子にはちがいあるまい
お酒飲まないんですけどね(笑)
※noteにも転載しております。
「お待たせ。団子買ってきたぞぉ」
いっしょに飲もうと決めた今週末。
ちょうどその日は満月とのことで、せっかくなら月見と洒落こもう。酒はうちにあるから、団子を買ってきてくれと頼んだところ。
両手に乳白色のレジ袋をさげて、こいつはやってきた。
おいおい、ふたりでそんなに団子なんか食えるもんかよと、眉をひそめたおれをおかまいなしに。
こいつは楽しそうに、袋から調達品をとり出していく。
つぎつぎとならべられる透明パック。いったいどれだけの種類の団子を仕入れてきたのかと、のぞきこむうちに。
おれの呆れた表情は、しだいに戸惑いへと変わっていった。
「だって、きょうは酒を飲みながらの月見だろ?
そしたら団子だって、茶を飲みながらのものとはちがってくるってもんさ」
なにがそんなに嬉しいんだか、こいつは得意そうに、満面の笑みを浮かべておれに割り箸を渡す。じぶんの箸をぱきっとふたつに割ってから、慌ててふたりぶんの小皿をとりに、おれの台所の棚をさぐった。
おれもしかたなしに、きょうのためのちょっといい日本酒を酌んでやって。ふたりは満月に、グラスで乾杯の合図をすると、ぐいっと飲み干したところ。米の香りときりっとした辛味が、鼻、のど、胃まで突き抜ける。
さて、そして満月にそなえてやるための団子だが。
「緑茶をすすりながらってんのなら、ともかく。
甘い団子なんかじゃ、酒はすすまないじゃないか。
どうせ日本酒は最初だけで、すぐにおまえはビール。おれはチューハイなんだから」
そう言って、こいつが透明パックをひらくと、中から「団子」たちがつぎつぎと顔を出す。まあ、透明パックなので、ひらいたからといって、サプライズになるわけでもないが。
とにかく、そこから顔を出した「団子」たちは——
黒酢あんのかかった、おおぶりの肉団子
トマトソース味の、いわゆるミートボール
焦げ目のついた、串刺しのつくね
そして、スープに入ったつみれ——こちらはふたのみ透明で、レンジであたためてやれる容器にはいっていた。
つみれ汁はもちろん、レンジであたためてやるのだが。
ほかの惣菜は、わざわざ器に移し替えてまであたためてやらずとも、じゅうぶん旨いとの言葉を信じて。透明パックからそのまま、常温のものをいただく。
ああ、たしかに旨い。
へたに、あつあつのところを、もたもた食うより。こんなだらだらした月見飲みには、常温のままでいいのかもしれない。
どうせ半分以上は、口にするころには冷めきってしまうことだろうから。
おっと、つみれ汁だけはいただいちまわないとな。
ふたりぶんを一度にあたためたため、目安時間の1.6倍に設定したレンジが、加温の終了を告げるアラームを鳴らした。
「な。正解だったら?
やっぱり、酒を飲むなら、月見には肉団子なんだよ
お月さまも、そこに棲んでるウサギもうなずいてくれるさ」
満月はともかく、ウサギは草食だから、その意見には同意しかねるが。ふたりしてあの量を食い尽くしてからでは、反論にも説得力があるまい。
おれは白旗をあげて、こちらはこちらで用意していた「シメ」を冷蔵庫の最下段からとり出す。
冷凍室になっているそこから、マルチパックタイプのアイスクリームをもってくると、箱をあけてやった。
中からは個包装のビニールに詰められた、チョコレートコーティングのバニラアイスのボールが。
肉団子をさんざんいただいたあとの、口直しにはちょうどいいはずだ——もし、こいつがおれの想定どおりに、和菓子の団子を買ってきていたら、甘いものはもうごちそうさまになっていたかもしれないが。
肉団子の塩気と、酒で焼けた口とのどを。バニラアイスが優しく癒していく。
ちょいと変わった月見酒にはなったけれど、こうしていっしょに飲めるあいてがいるのはいいものだよな。
箱の中から、どんどん姿を消すビニールの個包装。おれはあわてて、のこりの半分を自分のために確保した。
チョコレートコーティングのバニラアイスのボール。
満月と、そこに棲んでる草食のウサギも、こちらの「団子」ならお気に召してくれただろうか?