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美少女もの

鳴宮くんへと書かれた隣の席のマドンナ様からの手紙が俺の下駄箱にあったけどイケメンの方の鳴宮くんだと思ったので移し替えといたら翌日マドンナ様が超絶不機嫌になってた

作者: テル

「おはよう」

「あら、おはよう」


 俺の隣の席には『学園のマドンナ』と名高い綾瀬 彩綾(あやせ さあや)が座っている。

 

 成績優秀、容姿端麗。才色兼備という文字がよく似合う人物だ。

 

 テストでは常に1位をキープ。

 容姿も美しく、サラサラとした髪にスベスベとした肌、全男子を魅了してしまうようなうるうるとした瞳。

 彼女に恋した男性は数知れず。男女問わず人気が高く人柄も良い。花も実もある人物である。


 そんなマドンナの隣の席になっているのだから不遇と言わざるをえない。

 男子からは妬まれて、彼女と話すたびに鋭い視線を浴びせられる。


「今日の睡眠時間は?」

「......4、5時間くらい」

「はあ、またどうせゲームでもやってたのでしょう? 2次元に逃げ込もうなんて哀れね」


 おい、全オタクを敵に回すような発言してなかったか!?


 人柄は良いのだが、最近はなぜか俺にだけ悪態をついてくる。

 他の人物との会話を聞いていてもそんなことはないのだが......。


 まあ別に嫌われてはいないと思うのでさほど気にしてはいない。

 クラスのどのグループに入っているわけでもなく、ただポツンといるようなパッとしない人物と話してくれるのだ。

 むしろ嬉しいまである。


「本当に哀れね、私が話しかけなかったらどうするつもりなの?」

「うっせ、そういう時は現実逃避だ」

「ふーん......私は現実の方がいいと思うんだけど」

「オタクにとっては2次元が楽園なのだよ」


 そう言うとジト目で俺は見られた。

 これは引かれてるな......と思ったがオタクにとっては2次元は揺らぎのないものである。

 まあ別に引かれたところでという話だ。オタ活をやめると言う選択肢など毛頭ない。


 あっいや、俺の数えるくらいしかいない話し手がいなくなるかもと考えたら致命的だな。


 俺は彩綾に視線を戻るとまだジト目で見られていた。

 ......流石に居心地が悪い。


「どうした?」

「別に」


 少し拗ねた様子で彩綾は準備を始めた。

 

 今日はより一層言葉の棘が鋭いな、と思いつつ俺はスマホを開いた。


 そして事件が起こったのはその日の放課後のことだった。


 ***


「......手紙?」


 放課後。誰もいない玄関。


 いつも俺は下校ラッシュから少し遅れて帰っているのだが、どうやらそれが功を奏する時がきたらしい。

 

 靴箱の中を開くと奥に手紙が入っていたのである。

 そして俺は一瞬で悟った。


 こっこれはラブレターというやつでは!? と。


 ラブコメなどでのあるあるである。



 俺は胸を高鳴らせてその手紙を取った。


 そしてその手紙を見る。表面には『鳴宮くんへ』と書かれており裏面には『彩綾より』って書かれていた。


 一瞬だけ俺の思考が止まった。

 俺は何度も差し出し人を確認した。しかしやはり『彩綾より』と書かれている。


 いやいやいや何かの冗談だろ。


 学園のマドンナ様ともあろうお方がわざわざ俺なんかにラブレターを送るわけがない。

 手紙の中身がラブレターじゃない可能性もあり得るがそれは流石にないだろう。

 手紙じゃなくて直接伝えればいい話である。


 そしてふと、俺の目に『鳴宮 三郷(なるみや みさと)』と書かれたプレートが目に飛び込んだ。

 

 ......ああ、これは間違えたな。


 このクラスには鳴宮という珍しい苗字を持つ人が2人もいる。


 

 彩綾が聖女様なら三郷は王子様のような存在である。


 成績優秀で常に2位から3位をキープしている。

 さらに基本なんのスポーツもすることができ、運動神経抜群だ。さらに顔もイケメンときた。

 部活はサッカー部に所属しており、モテモテなのだとか。

 男子も妬めないくらいに次元が違うモテ方をしている。


 そしてたまにあるのだ。鳴宮間違えが。

 前にも一度ラブレターが入っていたことがあるのだが申し訳なさそうに『間違えた』と言われた。

 その時の心のダメージと言ったらもう思い返したくないくらいだ。


 この手紙もおそらくそうだろう。

 普通に考えて陰キャのオタクに告ろうとするわけがない。


 にしても彩綾は三郷のことが好きだったとは......。意外である。

 

 このラブレターの中身が非常に気になるし、俺の下駄箱に元々入れてあったものなのだから俺に見る権利はあるのだが流石にそれはデリカシーが欠けるだろう。


 三郷は彩綾とたまに話しているし付き合う可能性も十分あり得る。


 そうなったら学校全体で話題になるカップルだろう。聖女様と王子様の美男美女カップル。

 推してくる者まで出始めるのではないだろうか。

 妄想には過ぎないが現実になりそうだ。そうなってくれたら面白そうだな。


 熱いねー、と恋愛とは無縁である傍観者の立場から心の中で呟いておく。


 そんなことを考えているうちに三郷の話し声が聞こえてきた。


 あいつまだ帰ってなかったのかよ、と流石に焦る。


 俺は手紙を三郷の下駄箱にすぐさま入れておいた。


 ***


「どうも、彩綾様」


 翌日の朝、俺は少しいじるようにして彩綾に話しかけた。


 結果はどうだったんだろうか。イエスかノーか。返信は待ってという可能性もあるか。


 三郷と話す機会が増えてれば成功という可能性が高いだろう。

 

 自分は恋愛とは無縁な分、人の恋愛を見るには案外良いものかもしれない。


 そんなことを妄想しているうちに、彩綾がなぜかものすごい圧を発していることに気づいた。


「彩綾様?」

「......おはよう」


 ......あれ? なんか怒ってる?


 視線から殺気立っている気がする。クラス全体が彩綾の圧で覆われているかのような威圧感だ。

 クラスにしばし静寂が流れる。


 そして三郷はなぜかこちらの方を向いてポリポリと頬をかいた。


 彩綾は少し強めに教科書を机に置いてまた元に戻った。


 なんでそんなに怒って......あっ、なるほど。


 これはおそらくフラれたパターンだろう。

 フラれて傷ついているところに彩綾様なんていじり気味で言ったからだ。


「あっえっと、彩綾、様付けしてすまん」


 そういうとポカーンとした顔でこちらを見つめている。

 あれ? え? 違うの?


「別に、様付けぐらいいいわよ?」


 と素っ気なく返されて彩綾は準備に戻った。


 じゃあ俺見て単純にイラついただけ? それは......傷つくなあ。


 それにいつもだったらこれにいじりを加えてくる。それがないということは相当な心のダメージ何だろう。

 まあ失恋は誰にでも起こりうることだ。そっとしといてあげよう。


 ***


智春(ちはる)くん、ちょっといいかな?」


 その日の昼休み、教室で1人寂しくスマホをいじっていると三郷が珍しく俺に話しかけてきた。


 その光景に物珍しさを覚えて教室や廊下にいるクラスメイトの視線が少し集まる。


「えっああ、いいが」


 別に断る理由もない。三郷が俺に用件とは一体なんだろうか。


「あのラブレター......じゃなくて手紙のことなんだけど」

「ああ、あの俺のところに置いてあったやつか」

「......やっぱり、あれ移し替えたの?」

「鳴宮くんへとだけ書かれてたからイケメンの方と入れ間違えかなって、前もあっただろ?」


 そう言うと、三郷は俺の耳元まで来て小さく呟いた。

 女子からの妬みの視線がある気がするのは気のせいだ。


「あれ、実は智春くん宛だよ」

「......え?」


 俺は一瞬目が点になる。

 彩綾様からの手紙が俺宛て?


「えっまじ?」

「うん、本当、彩綾さんのところ行ってきて謝ってきたら?」


 ......は? え? 本当に俺宛て?

 

 にわかには信じられないのだが。まさか......。


 って俺宛てでラブレターな訳ないだろ。

 もしあの手紙に何か本当に大事な用件が入っていたら今朝の彩綾の機嫌が悪かったのも納得できる。

 まあ用件がなんなのか見当もつかないが。


 ともかく俺はそんな大事な手紙を個人の勝手な見解で解釈してしまっていたのである。

 三郷にも申し訳ないし彩綾にも申し訳ない。


「......そうだな、その方がいいな、今すぐ謝ってくる」

「うん、彩綾さんは屋上で黄昏てるから」

「わかった、三郷もすまん、迷惑をかけた......」

「いいよ、間違えは誰にでもあるし」


 憎めないくらい本当に爽やかイケメンである。陰属性にとっては眩しすぎるくらいだ。


 俺はすぐさま教室を出て屋上へ向かった。


 ***


「彩綾」

「......わざわざ何の用かしら」


 フェンスを掴みどこか遠くを見ている彩綾に俺は声をかけた。


 朝ほどではないが少し怒気を含んでいる。


「その昨日の手紙......俺宛てだったんだな」

「やっと気づいたのね、三郷だったから広まらずに済んだものの......まったく、そっそれにあなたの名前を間違えるはずないでしょ」


 なんだその勘違いされるような言い方は。まあ他意はないだろう。


「それで手紙の用件って何なんだ?」

「誰もいないしここで言おうかしら......その、えっと」


 そう言うと少し俺から視線を逸らして顔を赤くした。


 ......なんだこの破壊力は。


 そして彩綾は一息ついて言った。


「その、私と付き合ってくれないかしら?」


 ......うん?


 返ってきたのは予想外......いや、絶対にないだろうと思って頭の中で否定していたものだった。


 これって告白だよな!?


 俺は心の中で動揺を隠せない。いやいや冷静に考えて俺なんかに告るわけないだろ。




「嘘告......?」

「そんなわけないでしょ、本気よ」

「付き合ってってつまり......」

「いっ言わせないでよ、あっあなたが好きなの!」


 彩綾からまじまじとそう言われて心臓の鼓動が速まる。


 別に俺は彩綾が好きと言うわけではないし、異性として意識したことはない。

 ......こんな俺なんかが意識してはダメだと思っていたのかもしれないが。


 ともかく異性に対して一度も好意のような特別な感情を抱いたことはない。

 可愛い、止まりである。


 他の人がもしマドンナから告られたらすぐに了承するだろうか。おそらく大半はそうだろう。

 しかし俺はどちらかと言うというと友達ぐらいの関係が好きだった。

 だからこそ恋愛に対して無関心。


 こうして告られるまでは彩綾を意識したことすらない。


「その......少し返事待ってもらっていいか?」

「えっええ、えっとこのこと誰にも言わないでほしいのだけど」

「ああ、それはもちろん」


 この日がきっかけだろう。学校生活が大きく変わることになったのは。


最後まで読んでいただきありがとうございました。続編は『陰キャラ鈍感系男子高校生の隣にいるのは少しばかり毒舌なツンデレ系のマドンナ様』になります。




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[一言] 同じ苗字の奴がいるってわかってるならフルネームで宛名書けばよかったのでは
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