山賊はやっぱりクズ
ゲスだなぁ。
俺は心の中でそう呟いた。
山賊たちが洞窟へと入っていくのを見届けた俺は、奴らの後をこっそりと気配を消して追っていた。
この際、洞窟内の異臭だとかちょくちょく頭上から落ちてくる蜘蛛が鬱陶しいだとか突出部の岩に頭をぶつけた、だとかは目を瞑ってやろう。
割と悪事にも寛容な心を持つ俺でさえゲスだなぁ、と思う点が二つあるのだ。
まず一つ目は奴らの会話。
奴らの話で上がる話題はもっぱら女関係。
『あの村を襲った時に夫を殺してその場で嫁を強姦したぜ』
『甘いな、俺なんか修道院に押し入って神父を縛って目の前でシスターを犯してやったぜ』
『なんのなんの、オイラは八歳の女の子とやっちゃったもんねー!』
などのガチクズエピソードのオンパレード。
実際にその場に居合わせていないにも関わらず奴らの話を聞いているだけで腸が煮えくり返るような感覚に囚われる。
今すぐにでも出ていってぶん殴ってやりたいがまだ我慢の時。
続いて二つ目は奴らの少女に対する暴行。
開けた空間で腰を下ろした山賊は檻の中でうずくまるエルフの少女の顔を覗き込んで言うのだ。
「嬢ちゃん、お前はこれから売られるんだ。お前を買った主人が何をするかはそいつ次第だが・・・変に暴れて反抗してくれるなよ?従順な奴隷を売るっつー俺たちの信用問題に関わってくるからよ」
下衆な笑みを浮かべる男に、少女は切れ長の目を吊り上げて。
「クズですね。あなたたちにはいずれ相応の罰が下りますよ」
と男に言い放つ。
初めて耳にした少女の声は綺麗で心地の良い声質であった。
「ちっ!お前みてぇな階級に恵まれたボンボンはよぉ。いつもいつも、俺たち下民の苦しさを見て見ぬふりをしてやがんだ」
「それはあなたの被害妄想では?わたくしたちは与えられし階級に甘んじることなく努力を積み重ねているからこそ、今の地位に居続けるのです。現実を嘆いてばかりで逃避しているあなた方には、一生理解できないでしょう」
「クソガキ!さっきから偉そうに説教垂れてるけどな、お前はこれから俺たち以下の奴隷になるんだよ。立場ってもんを教えてやる、これはこの商品に必要な躾だ」
癇に障った男は腰に携えていた剣を取り、鞘に収まったままのそれで少女を檻の外から、かなりの強さで突く。
こいつを山賊Aとしよう。
「おいおい、その辺にしとけ。イラつくのもわかるけどよぉ、大事な商品なんだぜ?」
仲間が男を咎め、その行為を止めに入る。
こいつを山賊Bとする。
「ちょっとくらいバレねぇよ。ほれ、お前もやってみろ。ストレス発散になるぜ」
「それもそうか。んじゃ、お言葉に甘えてっと」
止めに入ったはずの山賊Bは山賊Aの誘いを受け、一緒になって少女を痛めつけた。
山賊から与えられる痛みに少女は顔色一つ変えずに耐え抜く。ただその瞳は真っ直ぐに山賊らを射抜き、先程の会話を聞いて俺と同様に彼らを心の底から軽蔑し怒りを堪えているのであろう。
その証拠にほら、彼女の固く結んだ唇の端からは血が流れ、真っ白な肌を伝っている。
そろそろ頃合かな。
ある程度の戦力分析も完了したので、満を持して俺は少女を救出するべく山賊たちの前に躍り出た。
ちなみに俺は不意打ちはしない主義でね。修行にもなるから山賊と戦うときは正々堂々真正面から突っ込む主義なのだ。
「そこまでだ、山賊共!もうお前らの好きにはさせないぞ!」
正義のヒーロー的な台詞を言い放つ。
いきなりの乱入者に山賊たちは戸惑ったがそれも僅かな時間で、相手が子供だと認識するやいなや明らかに安堵し態度を一変させる。
「おいクソガキがよぉ!こんな物騒な場所にいたら間違って殺しちゃうぜ?」
「そうだぞー!今はオイラたち機嫌が良いもんでね、子供一人くらいだったら見逃してやるよぉ!」
と言うのは山賊Cに山賊Dだ。
彼らはフォーマンセルを組んで俺を取り囲む。
それ全然逃がす気ないよね、うん。
「クソガキ、最後に言い残すことはないか?少しだけだったら待ってやるぜ」
最後とか言っちゃってるじゃん。
「それは君たちの方だと、俺は最初に言っておく」
「ああん?」
「俺は今から君たちを殺すって意味だよ。わからないかなぁ」
俺がそう言った途端、彼らは一斉に吹き出した。
「ぶっは!ぼくちゃん怖くて気が動転しちゃっのかなぁ」
「ガキの戯言なんざぁ、誰が真に受けるってん、ぐはぁ!」
「はい一人目」
山賊Cが油断している隙に俺は瞬時にがら空きの彼の胸元に潜り込んで、その喉元を掻き切った。
三人のゴクリと唾を飲み込む音が聞こえる。
そうそうみんな集中しなきゃ、これは命のやり取りの現場なんだ油断してちゃぁお終いよ!
「ほらほらさっきの威勢はどうしたの、もっと頑張ってくれなきゃ楽しめないじゃん」
俺は山賊たちを煽った。
これはわざと。山賊と海賊になる奴らなんて基本頭が悪く、頭に血が上ってさえしまえば、たちまち冷静さを欠いて襲いかかってくるのだ。
「あんま舐めてっと痛い目合わすぞこらぁぁぁ!」
案の定山賊Bが引っかかった。
剣を真上に振りかざして俺を一刀両断するつもりらしい。
けど。
「足元には気をつけよう」
俺は剣の刃が付いていない方で山賊Bの足をはらう。予想外の衝撃を受け、彼はみっともなくひっくり返って俺を見上げる形となってしまった。
「いい勉強になったでしょ?今度はこの経験を活かしくれたまえ・・・もし生まれ変われたら、だけど」
「ま、まってく・・・っ!!」
山賊Bの制止を無視して俺は彼の心臓を一突き。しばらく痙攣した後に彼は白目を剥いて絶命した。
さあ、残り二人だ。どうやって駆除しようか。
「よ、よくもオイラのダチをおぉぉ!」
「おい!勝手な行動はよせ!」
山賊Aの呼びかけには応じない山賊D。こいつはその言動からして他の山賊たちよりも一段と知性が劣っていると俺はみた。
「おらおらおらぁぁぁあ!」
乱暴に剣を振り回して俺の首を狙う山賊D。彼のそれは剣術なんて呼べる代物ではなく、野生動物のように先読み困難な動きをしてくる。
剣と剣がぶつかり交わった箇所からは火花が散る。
最初は予測不能な山賊Dの剣に戸惑う俺であったがしばらくすると慣れてきた。
導勝の四英傑の遺伝子様々だよ。
「これで・・・お終いっと!」
次の攻撃を繰り出す為に剣を大きく振りかざした山賊Dの隙を活かして三日前に父さんから教わった、教わりたてホヤホヤの高速突きを決め込む。
しっかり命中した俺の突きで山賊Dは倒れた。
「よっしゃ、これで残るは一人・・・ってあれ?」
ついつい山賊Dとの戦闘に夢中になっていた俺は、いつの間にか山賊Aの姿が消えているのに気付く。
キョロキョロ辺りを見渡していると檻の中で様子を眺めていた少女が奥の穴に指を指す。
「あそこです!」
と言う彼女に従ってその指差す方向に視線を移した。
「お、覚えてろよ!」
捨て台詞を吐いた山賊Aは洞窟の奥深くへと逃げていった。