害獣駆除
「さて、トラさんとナメクジモドキがあたしたちの相手なわけだけど・・・・一応、あなたの希望を聞いておきましょう」
金髪の美少女は凛とした声で親友に問う。
だが、金髪の美少女・シャーレットは親友の返答を聞かずとも、彼女と自分の希望が被ってしまうことを察していたり、いなかったり。
「希望ですか・・・・」
フレイは少し目を伏せて思案する。
「なるべく早急に頼むわ。魔物たちがこっちに向かってきてる」
抜刀し、臨戦態勢に入ったシャーレットが急かす。
「もう、せっかちですね。シャーレットも魔物さんたちも。もっと淑女らしく余裕を持って行動しなければマルスくんに嫌われちゃいますよ?」
「余計なお世話よ!いいからさっさと決めなさい!」
「軽いジョークなのにマジギレされても困ります」
「だーかーら、冗談言ってる暇ないっつーの!・・・・ほら、もうきちゃったじゃない!」
言ったと同時に二人は大きく飛び退いた。
「がるぅぅぅぅぅ!!」
二人のいた場所に、咆哮を上げるロックタイガーの鋭い爪が突き刺さった。
「間一髪でしたね」
「あんたのせいでね」
愉快そうに笑うフレイを睨むシャーレット。
「で、結局どうすんのよ。あんたが希望を言わないならあたしがロックタイガーを担当するけど?」
「いえいえ、わたしがロックタイガーを倒します。ロックタイガーの鋭い爪で王女様のお召し物が破けたら大変ですから」
「心にもないことを。あんた、ヌメリゴンが嫌なだけでしょ!あんたって爬虫類系の魔物苦手だもんね!」
「フン」と鼻を鳴らすシャーレット。
そして図星をつかれたフレイは眉をしかめるのであった。
ただ、図星をつかれたからといって簡単に折れるわけにはいかない。なぜならヌメリゴンの気持ち悪さは、シャーレットを説得する手間以上にフレイにとっては耐え難いものだから。
「シャーレット王女、あなた様も爬虫類が大の苦手だと、とある男の子からお聞きしておりますよ」
「とある男の子、ね。それはあたしも知っている子かしら?あたしの知り合いにもいるのよね。調子に乗ったらペラペラと喋りまくるデリカシーの無い男が」
「そうなんですか。奇遇ですね」
「もしかして、同じ男の子だったりして」
「うふふ、まさか」
「よかったらお名前を聞かせてもらえないかしら?あたしもぜひ、そのおしゃべりくんとお話してみたいわ」
「守秘義務ですのでお答えしかねます」
「そう、まぁいいわ。近いうちに男の子とは会える気がするしね。今度その男の子に会ったら、きつ~いお仕置を・・・・じゃなくて、お礼をしなくちゃね」
「程々にしてあげてください」
悪い笑みを浮かべる王女様をフレイは止めなかった。乙女の秘密漏洩の刑に処されることが確定した、とある四天王の息子に心の中で合掌をする。
「ぐぉぉぉぉぉーん」
ヒートアップする言い争いに、待ちきれないとばかりに咆哮をあげるヌメリゴン。
「あー、もう!人が話している最中なのに攻撃するなんて礼儀のなってない魔物共ね!」
「魔物に礼儀もクソもありませんよ」
「わかってるわよ!!」
シャーレットのキメ細やかな肌に汗が流れた。本音を言えば今すぐにでも風呂に直行し、その煩わしい液体を全て洗い流してしまいたい。が、現在進行形で学園襲撃というテロ行為が起こっている最中、王女たる立場の人間が戦っている生徒や逃げ惑う民を置いて己の欲望に従ってみろ。長い歳月を経て積み上げてきた信頼は、一瞬で消し飛ぶだろう。
常日頃から民たちの税を使い、優雅でゴージャスな生活を送っている分、彼らが安心して暮らせる環境を守るのは王族の務め。
「・・・・シャーレット、王女を遂行するのよ」
小さな呟きは、シャーレットによるシャーレットへの決意表明。
密かに呼吸を整え、体内で魔力を練り上げ、勝利への最適ルートを構築する。
その間にも魔物たちは攻撃の手を緩めてはくれない。ロックタイガーは鋭い牙でシャーレットが着地する場所を先読みしては、そこへ喰らいつく。
「所詮は飼い慣らされたトラね」
ロックタイガーの攻撃は、彼女を圧倒する速さがあるわけでも、攻めの手に豊富なカードを所持するわけでもなかった。ロックタイガーは先読みをしているつもりだろうが、結局は獲物目掛けて単調な攻めを繰り返すだけ。間合いなんて簡単に外せるし、時折飛んでくる、ヌメリゴンの溶解液に気を遣って魔力障壁を張れば彼女の防御は完璧なのであった。
そして遂に─────
「完成したわ!」
そう言うや否や、シャーレットは動き回るのを止め、二体の前で着地する。
獲物が自らやってきたと、舌なめずりをする魔物たち。
対して、完成させた勝利への道程に満足げなシャーレット。
「断罪の時間がきたわ。あたしの国で好き勝手暴れた罪を償ってもらうわよ!!」
そこに立つ彼女は学園の生徒ではなく、アースガルズ王国の王女として、だ。
自信に満ちたその表情は、自分が負けるなど微塵も思っていないのだろう。
そして、懐から取り出した浮遊の宝石を砕く。
ゆっくりと宙に浮き始める様は、これから罪人の審判をする女神のようであった。
しばし睨み合いが続き、じわじわと間合いを詰めにかかるのは魔物たち。
シャーレットの構える剣には、最大限まで練り上げられた魔力が流し込まれていた。
「がるぅっ!!」
野生の勘と言うべきか、シャーレットがこの先繰り出そうとする技に恐れを抱いたロックタイガーが地面を蹴った。
直後。
「ちょっと待った!」
ロックタイガーの巨体を何の変哲もないただの木刀で、フレイが受け止める。
「シャーレット、それはいけません!この際、わたしがヌメリゴンを受け持ちますから!どうか、わたしの見せ場は残してください!!」
ヌメリゴンの相手が嫌なだけで、魔物の相手自体を拒むわけではない。むしろ、戦いたい!というか、今日一日観戦に徹したせいで、なまった身体を動かしたい!ついでに、シャーレットを弄り倒してやりたい!
弄りに関してはもう十分堪能。
後は魔物退治に勤しむとしよう。
だから、フレイは妥協することにした。
だが、少し遅かった。
この王女様が一度やると決めたならば、その決定が覆ることは絶対にない。やりきるまで強引にでも押し通す彼女に、フレイの声は届かないのであった。
───────ということで、これにて本日のフレイの出番は終わりを迎えた。ああ、フレイよ、哀れなり。彼女が好意を寄せるとある男の子に、必殺技をお披露目するのはいったい、いつになるのやら。
「アースガルズ王族の力、とくとご覧あれ!」
《大自然の七剣舞》
途端、天へと振り上げた剣身が神々しい輝きを放ち始めた。
「あーあ、始めちゃいましたか。マルスくんに強くなったわたしをアピールするチャンス・・・・」
ボヤくフレイは、せめて巻き込まれないようにと闘技場の端へと移動した。
「がるっ!?」
ロックタイガーが素っ頓狂な声を漏らす。
なぜなら一本の剣が、七本に増えていたから。
赤、青、緑、黄、茶、金、黒
剣に埋め込まれた七つの宝石。意味が無さそうに思えるが、やはり意味がある。
ひとつひとつの宝石には自然界のエネルギーが練り込まれており、シャーレットの魔力と合わされば・・・・それはもうすんごいパワーとなる。
シャーレットの愛剣並びに七つの宝石には、莫大な予算(九割が税金)が注がれており、王国中の鍛冶屋や宝石屋を総動員で作らせた逸品。
彼女曰く、
『この剣は国民の血と汗と涙の結晶─────つまり、あたしがこの剣で薙ぎ払う相手は、アースガルズ王国に仇をなす者よ!ってことで、これは正当な理由で作らせた国の防衛武器。決して、あたしが欲しいから作らせたんじゃないわ!』
とのこと。
分裂する七つの剣がシャーレットの周りをゆらゆらと回る。
「今日はどれにしようかしら?ヌメってる奴と、カチカチの奴、か・・・・そうね、あなたとあなたに決めた!」
シャーレットが選ぶのは、赤と黄色の宝石剣。
赤色の宝石は火の力。
黄色の宝石は雷の力。
液体が垂れ流し状態のヌメリゴンには、約一億ボルトの雷を喰らわせ一発KO。ロックタイガーには火の力で、岩以外の部分をこんがり上手に焼き、生物としての活動を停止させてしまえばいい。
単純だが実に効果的で、中々に鬼畜な発想をなされたようで。本人にもその自覚があるらしく、罪悪感に顔を歪めて─────はいなかった。前述の通り、自分で編み出した作戦にご満悦なシャーレットは、
「我ながらアッパレで完璧な作戦ね。こんな天才的な頭脳を持つあたしがまだ十五歳だなんて、まったく末恐ろしいわね!」
と口に出して、自画自賛に夢中であった。
「おーい、シャーレットぉー。馬鹿なこと言ってないで、さっさと終わらせてくださいよー」
「うっさいわね!」
やっと届いたフレイの声が、刑の執行の合図となる。
剣の切っ先が標準を二体へと定めた。
敵わない。
二体は共通して負けを悟った。
獣が追い込まれて取る行動、それは逃走の一択。
ご主人様がこの場に居合わせれば、また二体の取る行動は違ったのかもしれない。しかし、肝心のご主人様はこの闘技場内から離れており、二体ができることは限られる。
そうだ、二体はもう一度、生きてご主人様に会うために走るのだ。親友のために十里を駆け抜けたメロスの如く、懸命に走った。
走って
走って
走っ─────
「往生際が悪いわね。死ぬ前に最期の躾をしてあげる」
逃げる二体を追跡するように、剣は宙を疾走する。
「ぐるぁぁぁぁぁ!!!」
「きゃいぃぃぃぃん!!」
逃走虚しく、二体の身体を剣が通り抜けた。
そして。
真夏の空に断末魔を放ち、黒焦げの巨体は倒れ、隣には黒く変色した岩が積み重なった。
「自らの手を(返り血などで)汚さずに勝利を収める。これが王族の華麗なる勝ち方よ!どうだ、思い知ったか!!」
魔物たちの死骸に向かって言い放つ。
「本当にあなたは王族ですか?」
呆れたようにツッコミを入れるフレイであったが、勝利の余韻に浸る彼女には聞こえない。
このように聞き手によっては、いらぬ誤解を生みかねない発言を度々するこの王女様。フレイは一友人として再三注意を促すが一向に治る気配はない。
なので、これも個性のうちだと割り切るようにしていた。
それでもたまには愚痴がこぼれる時もある。しかし、普段から優等生な姿で学園生活を送っている彼女が、愚痴のひとつをこぼすくらいで咎める者はいまい。
「それにしても、わたしと違って遠距離攻撃が得意なくせに、渋る必要なかったのでは?ほんっとうに天邪鬼な人ですね。・・・・ま、そういうところも人間らしくて嫌いではないですけど」
何様だ、とシャーレットが噛み付きそうなことを言いながら、フレイの興味は別の対象へと移るのであった。
「はぁ、暇になりました。あ、そうです!どうせならマルスくんの勇姿でも・・・・・・・・って、あれ?マルスくんはどこへ?」
久しぶりに投稿しました!
ぜひ読んでみてください!




