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会長の背中

怖い。誰か助けて。何で自分が死ななきゃならない?疑問や感情がごちゃ混ぜになってある種の錯乱状態に陥った生徒たちは、リターンズの組織員にほぼ無抵抗で斬られていく。


繰り広げられる一方的な殺戮を目の当たりにしたリンドウは小さく俯き、三秒間そうしたあと、大きく息を吐いた。


「マルスくん、勝負は一旦お預けだ」


再び顔を上げたリンドウはゆったりとした足取りで闘技場の中央へ歩を進める。そして剣を地面に突き刺し、堂々と仁王立ちをした。


「落ち着きなさい!誇り高きアースガルズ学院の生徒たち!!」


空間を揺さぶり魂を刺激する威圧の籠った声に会場の全員の動きが止まった。


学院始まって以来の大ピンチに学院のヒーローが何をするのか、生徒たちはリンドウの一挙手一投足に注目するのであった。


仲間が殺られて深い悲しみくれる生徒たち。彼らの折れた心を再起させるのに必要なものとは。慰めるその場凌ぎの軽い言葉か、悲しむ彼らを抱きしめる慈悲深い心か。


どれも違う。


彼らは腐っても騎士の卵だ、心を奮い立たせるのに必要なのは悪に怯えず立ち向かう武の象徴。


中途半端な言葉は逆効果で、気分は萎える。窮地に陥った時こそ大事なのは言葉よりも行動だ。


「わたしたちはアースガルズ学院は、未来の国を背負う騎士養成学校として世界にその名が知られている────だがしかし!!お前たちの今の姿は何だ?何故民を押しのけて逃げている?力を持たぬ民を守らずして何が騎士の卵だ!笑わせるな!!」


リンドウの気迫に生徒全員が息を呑む。誇張でもなんでもなくて、今度は本当に全員が息を呑んだ。


「騎士とは民にとってのヒーローだ。そのヒーローが敵に背を向け逃げているようでは、民が安心して暮らせない」


リンドウの話の全てが生徒の心を揺さぶり、動かすのだ。


泣きじゃくる子供の声がより鮮明に俺たちの耳に響く。


「正義は必ず勝つ!弱気になるな、下を見るな、怖くなったら顔を上げて前を向け。その先には必ずわたしが立ち続ける!君たちにもヒーローなる存在が必要ならば、わたしがその役を担おう!!!」


揺るぎない正義を胸に、未知の敵に対して動じない強き女の背中。血の滲むような努力の末に到達した圧倒的な力で引っ張るのがリンドウ・ガーベラの本来の姿。


生徒会長自らが前に立ち武を示す。


リンドウは自分の役割を充分に理解し、その役割以上の成果を出すのだ。


リンドウの意思は波紋し、生徒に伝わった。


「うおぉぉぉぉぉ!!やってやるぞ!!!」


「犯罪者の好きにさせてたまるか!みんな魔力を練るんだ!!」


リンドウの檄にようやく冷静さを取り戻した生徒は反撃に出た。剣を奪い、束になってかかる。敵が怯む隙に一般客を避難経路へと誘導する。


急に統率の取れ始めた生徒たちに、驚きを隠せないリターンズの組織員。徐々に形勢逆転となりつつあるが、ここでもう一波乱くらい起こる気がするのは俺だけかな?


「愛する学院の生徒たちよ。君たちがわたしに応えてくれたように、次はわたしが君たちの願いに応える番だ」


リンドウは莫大な魔力を解放させ、大きく跳躍した。


向かう先は、涎を垂らして虎視眈々と獲物を狙わんとするロックタイガー。


目で追うのがやっとなリンドウの一振がロックタイガーの首を捉えた────かに思えた。


キイィィィィン!!


リンドウの剣とロックタイガーの間に割って入る黒い影。


剣を受け止められたリンドウは即座に飛び退いた。


肩に担いだ巨大な鎌は生者の命を刈り取り、真っ赤に染まる瞳は生に飢えた獰猛な死兵の色。


「お前の相手は俺だぜ」


突然の乱入者は俺が倒したはずのデスラー・ハウンドであった。


デスラーは声を張り上げ宣言する。


「俺の名はリターンズ幹部十焉星が一人、デスラー・ハウンドだ!ガキ共、恐怖するがいい。邪神様の御心のままに、俺がお前らの命を狩り尽くしてやる!」


「嘘だろ!?増援とか聞いてねぇよ・・・」


悪役らしい高笑いで生徒たちをデスラーは睨み付ける。


増えた幹部に、やっとのことで盛り上がった生徒たちの勢いは簡単に弱まってしまった。


俺は誰にも聞かれない声量で小さく呟いた。


「うっそーん。デスラー、生きてますやん」


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


リンドウとデスラーは睨み合うと、しばしの膠着状態に陥った。


「正教を信仰するわたしの対極に位置する邪教。あの時、仕留め損ねた教祖をわたしの手で始末できるチャンスが訪れるとは・・・女神・メーテル、感謝します」


「リンドウ!」


俺はデスラーに向かって飛び出そうとするリンドウを呼び止めた。


「何だ?」


「作戦を思いついた。リンドウが強いのは十分承知してるけどさ、幹部を相手にして下手に単騎で挑むのは愚策だ。ここは俺の策に乗って欲しい」


「マルスくんの考えた策・・・是非とも乗らせてもらいたい。話してくれ」


承諾を得たので策をリンドウに耳打ちする。


俺の策を聞き終えたリンドウは 驚いた様子で確認してきた。


「・・・本当にそれでいいのか?これでは君の負担があまりにも大き過ぎる」


「心配は要らない。こう見えて俺は頑丈なんだ」


俺が笑って見せると、リンドウの強ばっていた表情も幾分か和らいだ気がした─────多分気がしただけだろう。


「君のそういう所がわたしは好きだよ。よし、君が決めたのならわたしも腹を括るとする」


意外と話のわかる生徒会長で助かった。


「アースガルズ魔法学院の生徒諸君、聞きなさい!!」


失意にのまれていた生徒たちが、学院の希望が発した声で何だ何だと顔を上げる。


「今からリターンズ撃退作戦を開始する。教祖デスラーをわたしが。シャーレット王女、フレイの二人が周囲の魔物を。残りの組織員はナリータとアテーネを中心に生徒一丸となって殲滅に当たる!そして指示を完遂次第、即刻この場をから避難すること!」


会長の命令なら、と生徒たちは頷く。


「も、もう一人は、誰が!」


モブっぽい生徒の質問を受けたリンドウは続ける。


「オウラルはここにいるマルス・エルバイスが一人で対処する。彼の邪魔にならぬように大至急片付けよう。これが窮地に立たされているわたしたちの現状を打破する、彼が考えてくれた最善の策なのだから!」


生徒からは戸惑いの声が上がっていた。


当然で予想通りの展開に思わず笑いが込み上げそうだ。


「む、無理だろ?あいつはまぐれで勝ち上がれただけ」


「そうだぜ、あいつは四英傑の中でも最弱な家系・・・あんな奴に俺たちの命を預けられるかよ!だったら会長を中心に俺たちが脇を固めた方がマシだ!!」


口々に俺の悪口を言って馬鹿にしてくる貴族連中、加えてその取り巻きや一般の生徒も俺に疑惑の目を向ける。


観客たちは周りをキョロキョロと見渡し、状況を理解できていない。


ここはひとつ主人公としての行動が求められる大事な場面だ。こんなこともあろうかと、昇進した時から考えていた台詞を、俺は感情を込めて読み上げる!


「うるせぇぇぇぇえ!!いいからお前たちは黙って俺に従え!俺は王様から正式に王宮階位・五位下の地位を授かったマルス・エルバイスだ!この意味を利口な坊ちゃんたちなら、一から説明しなくても理解できるよな?てか、してもらわなくちゃ困んだけど?」


俺の発言に、つい先程まで目前に迫る死の恐怖や自分の 不安に怯えていた生徒たちが形相を一変させ反論してくる。


クラスメイトは俺の意図を汲んでくれたようで黙って続きを待っているが、他クラスや上級生など日頃から俺を見下していた生徒はここぞとばかりに捲し立てるのであった。


「何で、てめぇに指図されなければいけないんだ!てめぇ一人で勝手にやってろ!」


「そうよそうよ!ちょっと決勝に行けちゃって調子に乗ってるんでしょ!」


「お前ばかり美女に囲まれて羨ましいんだよぉ!!」


場違いな罵声も飛び交うが、目を瞑ってやろう。


俺は反感を過剰に買いすぎたのだ。


だけど、後はリンドウが上手くやってくれる手筈だから問題なし。


萎縮していた生徒の心に火をつけることができ、日頃から偉そうな態度のあいつらに、溜まっていた鬱憤も晴らせて一石二鳥だな。


俺は片手で合図を送った。


そんなリンドウは目に見える様子で苛立ちを募らせていた。


今の彼らの俺に対する罵倒は、リンドウが最も嫌う行為だと見越しての焚き付けであった。


ぶっちゃけるとこっちのが本命。


予想通り、いや、作戦通りに彼らの反応で腹が煮えくり返っているリンドウは、剣で傍に落ちていた瓦礫を叩き割ると、と力強く叫んだ。


「黙りなさい!!あなた方は同じ学院の仲間を信じなくて誰を信じるといのか!!」


豹変したリンドウに、呆気にとられる生徒たち。


そんな彼らを見ても、リンドウは止まらなかった。


「彼は立派な功績を挙げて、アースガルズ王直々に独立騎士の称号を与えらし青年。正直、彼一人に背負わせるのは心が痛む。だが、これは彼が下した決断。ならば、学院の友であるわたしたちが彼を支えるのは当然の摂理!意地を見せなさい!貴族の生徒は、命懸けで家の歴史を積み上げてきた先祖に恥じぬような底力を示しなさい!」


うんうん、もっと言ってやってください!


「日頃よりの君たちがマルスくんに浴びせる蔑む言葉に見下した視線を、わたしは不愉快に思っていた─────これ以上わたしを失望させるな!!」


会長の叱責はまたしても生徒たちの心に深く響いた。


一人の男子生徒が叫ぶ。


「お前たち、クラスメイトを信じなくてどうすんだ!?勇敢に戦った結果ボロ負けして死ぬよりも、仲間を信じない愚か者の方が世界中から笑われるぞ!」


あれは一番最初に俺を応援してくれると表明したクラスメイトの男子だ。


彼に続き、クラスメイトのみんなは再び剣を取って組織員に斬り掛かる。


「うぉぉぉ!やってやる!」


「おい、剣を抜け!一刻も早く敵を叩くんだ!んで、とっとと逃げるぞ!」


そんな彼らを見て他の男子生徒たちも立ち上がった。


「くっ・・・・エルバイス!まだ、お前を認めたわけじゃないが、会長の指示だ。この場はお前に託す!」


男子は奮い立った。


しかし、まだ足りない。


すると、いつの間にか一般の観客席に降りてシャーレットが塀の上に立った。


「男ばかりにカッコつけさせていいのかしら?男におんぶに抱っこされたまま泣いていたいならそれで構わないわ。だけど、奴らに殺された仲間の為に一矢でも報いたい女子生徒は、わたしとフレイに続いて剣を取りなさい!これは王女命令じゃないわ。あなたたちと同じアースガルズ魔法学院の女子生徒としてのお願いよ!!」


いつもと変わらない強気な王女様の瞳を見て、心が揺さぶられた女子も続いて立ち上がった。


「女の力を見せる時よ!男ばかりに任せてらんないわ!!」


「わたしの友達はあいつらに殺されちゃった・・・だから!あの子が天国でわたしたちの心配をしなくて済むように、わたしが悪を叩きのめす!!」


「数はわたしたちが圧倒的に有利だわ!三人で一人を仕留めれば充分!対の練習を思い出すのよ!」


こうして一気に心の炎が点火した未来の騎士たちの反撃が始まるのであった。

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