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雷火の帝

煙が晴れると、一方的に攻め立てていたはずのモーガンが地面に倒れのびている。


審判は戸惑いつつも俺の勝利をコールし、急いでモーガンを医務室へと連れていくよう指示を出した。


担架で運ばれるモーガンを見送った俺は、会場中に鳴り響く万来の拍手を一手に浴び、颯爽と退場─────とはならなかった。


モーガンに賭けていた生徒たち及び取り巻きたちからの罵詈雑言を浴びまくる。


「クソ野郎!!俺の金返せぇ!!」


「わたしもよ!モーガンのやつ、あれだけ自信満々に言ってたくせして負けるとか超ダサい口だけ男じゃん!!どっちも最底よー!」


「こんな番狂わせ聞いてねぇよ、俺の全財産が・・・これも全部エルバイスのせいだ!責任取れよ!!」


いやぁ~賭けに負けた馬鹿共の嫉妬が心地いい!


絶対勝てる賭けだと言いくるめられてまんまと乗った奴らも馬鹿だし、俺を見下したモーガンも馬鹿だ。そもそも仮に俺が負けたとして、あいつは会長に勝てる算段があったのだろうか。


まあ、あいつは俺に屈辱を味合わせることに重きを置く、騎士の風上にも置けないクズだ。会長と当たった時を想定してるとは到底思えない。


どうせ棄権して実家の権力を使い有耶無耶にする、と俺は予想しよう。


「あはは、熱い声援ありがとう!みんなのおかげで俺の懐が潤ってくれるんだ!これを機に賭け事は程々にしようね!俺は授業料と思って有難く賞金を受け取るとしよう!」


主に取り巻き連中に向けて中指を突き立てながら俺は控え室に戻ったのであった。


俺の煽りを受け、更に罵声が強まったのは言うまでもない。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


控え室を通り過ぎて超VIPルームに訪れた俺を出迎えてくれるのは、お馴染みの美少女三人衆だ。


「マルスくん!ナイスファイト!」


獣耳の乙女が尻尾を振りまくり喜びを露わにする。


「煙が邪魔をして戦いの詳細を伺えなかった点は残念でしたが、マルスくんの余裕を持った試合運びは素晴らしかったと申し上げます」


目尻を軽く指で拭うエルフの美少女が俺に微笑む。


感動してくれたのは嬉しいけど準決勝で流すのはまだ早い。涙は決勝の最後まで取っておいてね。


「上手くやったようね。偶に出るあんたの悪知恵は目を見張るものがあるわ。ほら、あたしの横に座りなさい。冷たい飲み物も甘いお菓子もたくさん用意してるの」


言葉には少々の棘があるが、喜びを隠しきれていない王女様が隣の椅子をポンポンと叩いた。


「はぁー疲れた疲れた。まじで外暑すぎ」


「ふふっ、夏ですからね。学院の方も少しは生徒のコンディションを考慮して、日程をズラすなりしてくれれば大会の参加者も増えると思います」


ぐったりとして愚痴る俺にフレイが苦笑いで賛同した。


「カーレン。あたしはもういいからマルスを扇いで」


「・・・かしこまりました」


妙な間を空けてメイドさんが団扇を縦に振る。


カーレンさんはシャーレットが絶大な信頼を寄せるメイド長兼シャーレット専属メイドさんだ。その仕事ぶりはメイドの理想の姿を体現しており、我儘な彼女の指示を数手先まで読んで行動する有能っぷり。カーレンさんの就任前までは、シャーレットの我儘に付き合いきれずコロコロ代わっていた専属メイドの席にようやく定着する女性が現れ、前メイド長が泣いて喜んだとか。


しかし、このカーレンさん。俺に対してだけ常に冷たい視線を向けるのは気のせいだろうか?


「マルスは会長さんの試合観たことないでしょ」


「言われてみれば・・・ないような?」


「良い機会だわ。準決勝二試合目はすぐに始まるからリンドウの動きを目に焼き付けておきなさい。想像の十倍は強いわよ」


「シャーレットがそこまで同性を認めるなんて珍しいな。明日は槍の雨が降るかも?」


「頑張ったあんたに免じて、最後の言葉は聞かなかったことにしてあげる」


シャーレットはニッコリ微笑んだ。


なるほど、俺が勝利して彼女もご機嫌な様子。こんな彼女は久しく見てない気がする。


「あたしは学院に入学する前から何度か会長さんの試合を観る機会があったの」


「へー」


「お父様の付き添いでよ?あたしが行きたい!って駄々こねたわけじゃないわ」


「そっか」


別に観戦するに至った経緯はどうでもいい。


「会長さんはね規格外の強さよ」


「知ってるよ」


「違うの。マルスの考えている十倍は強い」


「それはさっき聞いた」


「あんたの認識がまだ甘いからあたしは言ってるの。あんたが会長さんの試合内容を知ったら腰抜かしちゃうかも」


ははっ、そんなアホなこと・・・ないよな?


「ねぇ、会長さんの過去の戦績知りたい?」


「そこまで」


「そろそろブチ切れるわよ?」


「めちゃくちゃ知りたい!!どうかこの愚民にご教授ください、シャーレット王女!!」


「仕方ないわね。マルスがどうしてもって言うなら、後日あたしとの王都デートを条件に教えてあげるわ」


隣の美女から「ズルいです」と不満が出たが、シャーレットは無視するので俺も下手に口は出さなかった。


「その条件呑むよ」


「あら、お利口ね。言質は取ったわよ?一日中あたしの好きなことに付き合ってもらうわ」


「おけおけ、ドンと来い」


「いい返事ね」


満足気に微笑むとシャーレットは優雅に脚を組み直す。


「先日気になったから会長さんの過去の試合を調べてみたのよ。でね、どれだけ遡っても会長さんは全ての試合を一撃で終わらせているの。彼女に二度目の攻撃を出させた者は誰一人として存在しない。記録に残っている範囲ではね」


「ふむふむ」


「どう?想像の十倍でしょ?」


「うーん・・・そうだなぁ・・・」


「歯切れが悪いわね。まさかと思うけどビビっちゃった?」


シャーレットが不敵な笑みで言う。


俺は抱いた感想をぶっちゃけでしまおうか悩んでいると、いきなりフレイが割り込んできた。


「シャーレット、それは違いますよ」


「どういう意味よ」


「彼は拍子抜けしているのです」


この子はなにを言っているのか。今の会話の中で俺が拍子抜けする要素があったか?


「氷魔法の使い手が会長といえど後れを取るとは思えません。マルスくんならきっとやれるはずです!頑張ってくださいね!!」


応援してくれるのは嬉しいけどね。フレイはもう少し周りの目を気にしようか。隣のシャーレットが白い目で君と俺を見てるよ!


「フレイ。前々から思ってたけどあんたはマルスを神格化しすぎ。さっきはあんなに会長さんをべた褒めしてたのに変わり身が早いわね」


「好いてる殿方への健気な乙女のアピールですよ。シャーレットも真似してみては?」


「あたしはそんな小細工しなくても、ありのままの自分の魅力でマルスを堕とすの。誰が真似するもんですか」


「くっ・・・!!」


悔しそうに唇を噛むフレイを見るシャーレットの顔は、実に愉快そうであった。


あ、これまたフレイが泣いちゃうやつだ。


「小細工するのはどこかのエルフ族さんの貧相な胸だけにしときなさい」


勝ち誇った笑みでシャーレットはライン超の言葉を放つ。


シャーレットが見せつけるように腕を組んで強調する胸元を、俺はごく自然な風を装って眺めた。


「あー!シャーレットが言っちゃダメなこと言った!!将来の仲を誓い合った親友のわたくしに!!」


フレイは涙目になると、ポカポカとシャーレットの肩を叩いた。


「親友ですって?白々しいわね。会長さんがきた途端

、尻尾を振り回してあたしをそっちのけにしたくせに!」


「尊敬する先輩でしたので─────」


「うっさい!ビッチの言い訳なんか聞きたくないわ!!」


「なっ!?ビ、ビッチとは!マルスくんの前で止めてください!マルスくん、違いますからね?わたくしは正真正銘の未経験女ですよ?」


じゃれ合う美女に癒されながら俺は小声で呟く。


「やばいな。想像の五十倍は強いぞ・・・」




『準決勝第二試合。リンドウ・ガーベラ対ケモン・ユウの試合を始める!!』


審判の大声で会場の意識は全て二人の生徒に注がれた。


リンドウと先輩は向かい合っている。


優勝候補大本命のリンドウの登場に闘技場のボルテージはグングン上昇する。夏の暑さも相まって闘技場内はむせ返るような熱気で包まれていた。


『始め!』


気合いの入った審判が試合の開始を告げる。


しかし、両者動かない。


なにやら会話している。


「なに話してんだろ」


「気になりますか?」


「うわっ!?」


背後から急に声をかけたれた。


「あらら、マルス様。椅子から転げ落ちてどうしちゃったんですか?新手のギャグですか?だったらつまんないんで二度とやらない方がよろしいかと」


「お前のせいだよ」


「人のせいにするのはマルス様の悪い癖ですね。マルス様と言い合っていると長くなりますし、一旦この件は水に流しましょう」


結局俺が悪いみたいな言い方に釈然としないが、こいつの言うことにも一理ある。


「それは?」


「これは名づけて”近くに聴こえるんですくん”!!天界から拝借してきた魔法道具なのですよ!!」


アテーネが取り出したのはイヤホン型の小さな魔法道具であった。名前から察するに遠くの会話を盗聴する為の道具だ。


盗聴か・・・リンドウに悪いが気になるもんはしょうがない。


渡されたイヤホンを耳にはめる。


すると、二人の会話の内容が入り込んできた。


『リンドウ、俺に同級生の情けは不要だ。最後は全力のお前と戦って散りたい』


『言われなくとも、わたしが勝負事に関して手を抜くことは絶対にないのだが・・・同級生よ』


リンドウは首を傾げる。


先輩の意図が理解できないようだ。そして同級生の名前すら覚えていないリンドウに笑みが溢れる。ふふ、先輩と控え室で熱く語り合った俺は知ってるぞ。確か・・・ほら、審判が言ってたじゃないか。えーと・・・うん、今は試合に集中しよう。


『俺もそう思ってるが念の為だ。仮定は幾通りしたとて無駄ではないだろ?』


『そうか・・・では、わたしも仮の話をしよう。仮にもわたしが一時の感情で手を抜いたとする。そして試合で勝利したその直後、わたしは自分の胸を剣で突き刺すだろう』


『じ、冗談だろ?』


『何を言っている。試合で手を抜くことは、今まで血の滲むような努力を積み重ねてきたわたしを裏切ることを意味するのだぞ。それに、学院の生徒会長を任され、騎士を目指す者には万死に値する行為だ』


リンドウは真剣な眼差しで淡々と答える。


その瞳には一切の迷いを感じられず、もし試合で手を抜けば宣言通りに自決するのだろう。


『そっか、お前はそういう奴だったな。俺は感謝するぞ、学院生活の最後にお前と戦えることを!』


『わたしも光栄だよ』


二人の試合を盛り上げるかのように熱い風が吹き荒れた。


『俺の集大成を見せてくれる!!うぅ・・・がぁぁ・・・わ・・・わおぉぉぉぉおん!!!』


先輩が吠えた。


たちまち先輩の魔力が跳ね上がり、相手を見据える眼光は、獲物を狙う狼の如く鋭さを増した。


獣人族は感情が昂れば昂るほどに戦闘力を増す種族で、戦いの直前に必ず咆哮を上げて己の心を奮い立たせる脳筋種族だ。


得意な魔法は身体強化。


ただでさえ身体能力が高い彼らが強化魔法を施せば、少量の魔力を纏わせた素手で他種族の攻撃魔法を粉砕する──────────と以前ナリータが説明してくれた。


「ナリータも吠えるの?」


「どうかな?まだそこまで興奮したことないからわかんない」


可愛いだろうな~。


ナリータがワンコのように吠えて俺に擦り寄る姿を想像して頬を緩ませる。


「マルス様がまたスケベな妄想を・・・」


「あんた、わかりやすいわね」


「マルスくん限定でいつか見せてあげよっかな・・・」


「どこまでも欲望に忠実な御方ですね。そんなところも大好きですけど!」


軽蔑二、照れ一、慈愛一の視線が俺に突き刺さる。


俺は彼女たちの視線から逃れるように夢中でお菓子を貪った。


「あっ、会長が動きました」


そうこうしている内にリンドウが動きを見せた。


剣を抜刀すると、深く呼吸をして神経を研ぎ澄ます。


『素晴らしき戦の場に感謝を。騎士の頂を目指す同志に敬意を』


解き放つ魔力が、深紅の大火・黒い雷となってリンドウの周りを駆け巡る。


雷火(らいか)(みかど)


雷と火の二属性を融合させ繰り出すリンドウの魔法は世界で唯一無二のものだ。


場を圧する覇気、昂然、威風堂々たる姿。戦場を圧倒的な力で支配し、戦況を統括するその様から付けられた異名である。


溢れ出る膨大な魔力は大気を震わす。


相対する先輩の魔力は、リンドウと比べるとは天と地ほどの差がある。


誰もが口には出さないが先輩は正直弱い。これならモーガンが戦った方がまだ見応えのある試合になると思う。


『試合開始!!』


審判が告げる。


そして一秒後─────


『勝者リンドウ・ガーベラ!!』


息を吸う間もなく試合は決すると、先輩は地面に伏していた。

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